16 入りたくても入れない塔!?

昇る朝日。
 
 
 
ふわり、と下降する飛行船。
 
 
 
到着したのは、樹海の中心にそびえ立つ巨大な監獄塔。
 
 
 
通称、トリックタワーだ。
 
 
 
つ、ついに来ちまったか、三次試験!
 
 
 
バトルの匂いがプンプンするぜ……!
 
 
 
こういう戦いの予感ってやつに、ヒソカさんは人一倍敏感であるらしい。
 
 
 
今朝起きたときから、それはもう上機嫌で鼻唄なんか歌ってたし、朝御飯のときも、バターとハチミツをたっぷりつけたホットケーキを五枚も食べていた。(ちなみに、わたしは八枚食べたけど)
 
 
 
もちろん、それはちびヒソカさんも同じだ。
 
 
 
今も、飛行船のタラップの手摺を滑るように降り、三回転してスタッと着地。
 
 
 
ヨイヨイ、となんだかわからない躍りを踊っている。
 
 
 
た、楽しそうだなあ~!!
 
 
 
「クックックッ☆きっと、ちいさなボクにもわかるんだねぇ。この塔から滲み出してくる殺気、闘志、妬みに怨み……ああっ!そんなに昂られたらボク、興奮しちゃうよ……★★★」
 
 
 
「わああっ!!わ、わかりましたから、どさくさにまぎれて抱きつかないでくださいっ!!」
 
 
大興奮のヒソカさんと一緒に、踊るちびヒソカさんを眺めていたところへ、ゴンたち一行プラス、ギタラクルさんがカッタカッタ軋みながら飛行船を降りて来た。
 
 
 
「トモ、ヒソカ!おはようっ!!」
 
 
 
「おはよー、トモ。よく眠れたか?」
 
 
 
溌剌と駆け寄るゴンと、ニヤニヤ顔のキルア。
 
 
 
クラピカとレオリオも、なにかこう、言いたそうな雰囲気……そ、そりゃあそうだよね。
 
 
 
あんな別れかたしたらさあ……。
 
 
 
ははは。
 
 
 
 
「お、おはよ!大丈夫、ゆっくり休めたから心配しないで……」
 
 
 
チラリ、とヒソカさんを見上げる。
 
 
 
うん。
 
 
 
それはほんとなんだ。
 
 
 
お風呂ではあんなことがあったけど、その後は嘘みたいに紳士的だった。
 
 
 
寝台の上でも、結局はじゃれ合っただけだったし。
 
 
 
キスは……いっぱいされたけど。
 
 
 
色んなところに……。
 
 
 
……。
 
 
 
……はっ!?
 
 
 
「全然紳士的じゃなかった!!?」
 
 
 
「トモ、トモ!さっきから、思考がすべて声に出ているぞ!!?」
 
 
 
「うええっ!!」
 
 
 
「クックックッ!トモったら大胆だなあ☆そんなところも素敵だよ☆」
 
 
 
「お、お前ら、ハンター試験中に……うおおおのれ、ヒソカ!!うらやましすぎるうぅぅ~~っ!!!」
 
 
 
「カタカタカタ……(まあ、ある意味紳士的だよね。変態という名の)」
 
 
 
 
「うひゃあ~、ムーディームーディ!ごちそーさま!!」
 
 
 
「ねぇ、キルア?色んなところにキスするってなに?おでことほっぺたと唇の他に、するとこあるの?」
 
 
 
くりん、とツンツン頭を傾げるゴンである。
 
 
 
……まずい。
 
 
 
「どこって。バッカだなーゴンは!色々あるじゃん!」
 
 
 
「例えば?」
 
 
 
「え、うーんと、例えばだなー……」
 
 
 
「……」
 
 
 
「……」
 
 
 
「……」
 
 
 
「あっ!手の甲とか!!」
 
 
 
 
「そっかー!」
 
 
 
あはははっ!
 
 
 
無邪気に笑い合うお子さまたちの背後で、大人五人は滝のような冷や汗をぬぐいとった。
 
 
 
まったく、心臓に悪いよ……!!
 
 
 
なんてことをしてる間に、アナウンスが流れた。
 
 
 
三日のうちに、この塔を下まで降りなきゃいけないっていうのは、原作どおりだ。
 
 
 
でも、塔のてっぺんはなんにもない円形の広場。
 
 
 
飛行船もいってしまうし、残された受験生たちは皆、困り顔を見合わせている。
 
 
 
そして、塔の外壁をつたって降りようとしたロッククライマー、冨樫先生は、怪鳥という名の編集さんに連れ去られてしまった。
 
 
 
バイバイ、冨樫先生。
 
 
 
仕事して下さい!!
 
 
 
「さて、どうしよっか?☆」
 
 
 
「どうにかして、この塔の中に入らなきゃですね。たぶん、床に仕掛けがありそうですけど」
 
 
 
くるっとひっくり返ってバタンとしまる的な。
 
 
 
きっとこれも原作どおりだろうと、私たち七人はそれぞれの足元を探してみた。
 
 
 
「あった!!」
 
 
 
「こっちも!」
 
 
 
「俺も見つけたぜ!クラピカは?」
 
 
 
「おそらく、これが隠し扉だろう。トモやヒソカたちはどうだ?」
 
 
 
「あるにはあったんだけど……」
 
 
 
「カタカタカタカタ……(一つしかないね。困ったなー。俺は、次の仕事の都合上、どうしてもハンターの資格が必要なんだよね。てことで、ヒソカ。諦めてよ)」
 
 
 
「どうしてボクだけなんだい?トモはどうするの」
 
 
 
「カタカタカタカタ……(俺が抱えて一緒に入る)」
 
 
 
「却下★ギタラクル、そういうアイデアがあるなら先に言いなよ。トモはボクと一緒にイク。キミは……そうだなあ、そこの、銀髪の坊やでも抱っこすればいいじゃないか☆」
 
 
 
「カタカタカタ……(えー。それは流石にまずいよ?)」
 
 
 
ギギギギイ……ッ!
 
 
 
っと、首を180度回転させるギタラクルさんに、ひいっ、とドン引きして後ずさりするキルア。
 
 
 
「キモ!!俺、ぜってー嫌だかんな!!一緒にいくならゴンといけよ!!」
 
 
 
「えー!!酷いよキルア!」
 
 
 
なんて、二人が騒いでいる間に、ちゃっかり先に落ちるレオリオとクラピカである。
 
 
 
「じゃ、ボクらも行こうか☆」
 
 
 
「はい!」
 
 
 
「あっ!!待てよ、お前ら――!!」
 
 
 
バタン!!
 
 
 
ごめん、ゴン、キルア!
 
 
 
また、あとで会おう!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
       ☆☆☆
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ドサッ!
 
 
 
「ふぎゅっ!」
 
 
 
スタッ!
 
 
 
「大丈夫かい、トモ?」
 
 
 
アイタタタタ………。
 
 
 
落下の拍子に、ヒソカさんの腕から転がり落ちちゃったよ……鼻打った……。
 
 
 
「だ、大丈夫……です」
 
 
 
「ゴメンよ★今度からは小さなトモを落っことさないように、強く、強く……っ!、ギッチギチに抱きしめてあげるからね……!」
 
 
 
「そんなにしたらつぶれちゃいますよぅ!!あ、あれ?ゴンとキルアは?」
 
 
 
落ちたところは、まるで独房みたいな石造りの部屋。
 
 
 
先に降りていたクラピカとレオリオが、私たちの姿を見てほっとしたような、ひきつったような笑顔を浮かべた。
 
 
 
「二人はまだのようだ。もめているのかもしれないが、もしかしたら、私たちとは別のルートに落ちてしまったのかも――」
 
 
 
ぴっ、と、クラピカが人差し指で天井を指差したとたん、四角い隠し扉がくるんと一回転。
 
 
 
ゴンが飛び降りてきた。
 
 
 
「ゴン!」
 
 
 
「みんな!よかった、一緒になれたんだね!」
 
 
 
「ということは、キルアはやっぱりギタラクルさんと?」
 
 
 
「うん。すごかったんだよー、キルアが本気で暴れても、びくともしないんだ!!」
 
 
 
「……ははは」
 
 
 
キルア、可哀想に。
 
 
 
「あっ!来た!!」
 
 
 
「えっ?」
 
 
 
ゴンが嬉しそうに見上げるのと、ギタラクルさんが「ギギギギギイ……!!」と、飛び降りてくるのは同時だった。
 
 
 
腕の中には、暴れ疲れてぐったりしたキルアの姿が。
 
 
 
「ギタラクルさん、キルア!よかった。みんな一緒になれましたねっ!」 

「……よくねーよ、トモ!ゴン!お前ら、よくも俺を見捨てやがったな……!!」
「でもさ、キルアだって昨日の夜はわたしのこと見捨てたじゃない。だから、おあいこ!」
 
 
 
ギタラクルさんの小脇にかかえられたまま、キルアはムキーッと髪をかきむしる。
そんな銀髪のにゃんこを尻目に、レオリオが憂鬱そうにヒソカさんを見上げた。
 
 
 
 
「にしても、トモやチビどもはともかくとして、そっちの危ない兄さんたちも一緒とは……はあ、心強いがおっかねーぜ」
 
 
 
「クックックッ!!心配ないよ。まだ熟してもいない青い果実を、もぎとるようなもったいない真似はしない主義なんだ☆キミたちは、これからもっと経験をつんで……もっと、もーーーっと美味しくなるんだから……まっ赤になったら、もいであ・げ・る★」
「……」

「……レオリオ、彼のことはもう気にするな。それよりも、どうやらこれで全員揃ったようだから、現状を整理するとしよう」

……クラピカさんの、そんな冷静さを尊敬します、わたし。