ピリリリリリリリリリリリリリ………………ガチャ。
「はい、ヒソカ。ああ、キミか。うん、うん……そう、それは残念★ボクが言うのもなんだけど、キミってこういう運はなさそうだからなぁ~クックック★……え。なに?もしかしてキミ、泣いてるの?え、ちょっと、どうして?なにがあ…………切れちゃった。チェッ★」
「チェッ★じゃないですうううううううううううーーーーーっっ!!!!」
後ろ、後ろ!!
背中にぴとっとおんぶだっこされて、喚くわたしにウインクひとつ。
ヒソカさんは真後から大刀を振りかぶってきた筋肉ムッキムキのヒゲ面男を、振り向きもせずに一刀両断した。
トランプで……うう、そんなトランプでお肉切ったり、ケーキ切り分けたり、リンゴを剥いて食べさせたりしないで頂きたい!!
なんて、贅沢言ってる場合でもないんだけど。
「今ので50人目★食後の運動にしては物足りないなあ」
「満貫会席の次はやきそば、たこやき、お好み焼きのB級グルメ三連発と来て、まさかいきなり50人の囚人相手に戦闘だなんて、思いもよりませんでしたよぅ……あーあ、次あたりに絶対ラーメンが来ると期待してたのに」
「あれだけ食べて、まだ食べ足りないっていうのかい?チビたちの助けがなくても、ほとんどトモ一人で平らげてたじゃないか。トモは本当に食いしん坊さんだなぁ……じゃあ、今夜二人っきりになったら、イイモノを食べさせてあげるよ★」
「★が怖いので遠慮させていただきますぅ!!」
一体ナニを食べさせようというのか!!
妖しくにっこり微笑むヒソカさんの顔つきが、急に真面目になって前を向いた。
ポーン、という、お決まりの機械音がしない。
しないのに、足場から勝手に一本橋が伸びていく。
まっすぐに。
長く、闇の億に消えたかと思った橋の先に、いきなりライトが点いた。
現れたのは石造りの足場。
今までのものの中で最も広い……目測だけど、一辺が10メートルくらいはあるんじゃないだろうか。
しかも、その向こうには--
「扉だ!!」
「ということは、どうやらこの道がアタリだったようだね☆ん~!トモとボクの愛の力だよねー!!」
すりすりすりすり。
「ひゃああああああああああっ!!近い!近いですってばヒソカさん!!そ、それに、喜んでる場合じゃないですよ。あの足場の広さ、嫌な予感しかしないんですけど……」
ヒソカさんにおんぶされたまま、ぴっと前方を指さす。
一メートルも幅のない橋の上を、ヒソカさんは悠然と渡っていく。
下は……ひえ~、底も見えないほど暗くて深い……。
「うん☆ボクのアンテナも最高潮だよ。100%、戦闘があると見てまちがいなさそうだ。楽しみだな~、さっきみたいな雑魚じゃなくて、もっと腕のある相手と戦いたいよ★」
「ほんとにヒソカさんは人と戦うのが好きですね」
「トモは違う?」
「運動全般が嫌いです」
「そう……★」
「あ、で、でも!戦ってるヒソカさんを見るのは好きですよ!なんか、楽しそうだし!」
「そう☆」
振り向いて、わたしのこめかみにキスをひとつ。
「ヒソカさん!?」
「トモ。今からまた、ちょっと危ない目に遭わせるかもしれないけど、ボクの背中にちゃんとくっついてるんだよ?ボクと身体を離さなければ、ボクのオーラで守ってあげられる。ボクの戦いに興奮してくれるのは嬉しいけど、纏をするのを忘れないこと。いいね☆」
「は……はい!ヒソカ先生!」
「よろしい。じゃ、行こうか☆」
トン、と、とうとう最後の足場に降り立った途端、今の今まで歩いていた一本橋が、ゴウンゴウンと音をたてて引っ込んでしまった。
「あっ、橋が……!!」
「退路を絶たれちゃったか。仲間が助けに来れないようにって目的もありそうだけど……クックック★そんなプレッシャー、ボクには効かないな。それで、対戦相手はどこにいるんだい?」
ヒソカさんの問いに、ガー、ピーとスピーカーが鳴った。
流れてきたのは試験官、リッポーさんの声だ。
『見事だ、正解の道を一度のトライで引き当てたのは、君たちが初めてだ。素晴らしい直感力と運、そして、胃袋の持ち主だな。特に100番』
「ヒソカさんだっていっぱい食べてました―!!」
「誉められてるんだから、泣かなくてもいいじゃないか☆底無しに食べるトモも素敵だよ?」
うう嬉しくない!!
『ククク……だが、おめでとうと言うには、少々早すぎる。見たまえ』
ウィーン……。
足場の中央から現れたのは、巨大なモニター。
写し出されたのは数字だった。
横並びに、ゼロが5つ。
“000:00”
「時間……?」
『その通り。君たちにはこれから、500人の囚人達相手に戦ってもらうわけだが――』
ご……?
「500人!!!!????」
「わっ!?ト、トモ!耳元で怒鳴っちゃダメだってば!」
「すみません!でも、でもでもご、ご、ごひゃくにんだなんて!!」
さっきのの10倍だなんて!!
無理!!
「無理ですよう~!!第一、こんな足場に入りきる人数じゃな
いじゃないですか~!!」
「トモ、纏★大丈夫だから、落ち着きなって。ボクがいるだろ……?」
「ヒソカさん……」
『ゲホンゴホン!!……続けてもいいかね?えー、500人の囚人の中に、ゴールの扉の鍵を持っている者が一人だけ存在する。その人間を見つけ出し、鍵を奪えば試験終了だ』
「つまり、運がよければ戦う相手は一人だけですむ、ってことですか?」
『ノーコメントだ』
「ですって、ヒソカさん!」
「却下。とりあえず、全員倒してから鍵を探そう。生きてるとなにかと面倒くさいし……それで、このモニターには経過時間でも表示されるのかな?」
『その通り。戦闘開始とともに、秒刻みでカウントされていく。そして、この時間は君たちのペナルティーとなる。1分につき1時間。もし、ゴールにたどり着いたとしても、次の部屋で時間分の足止めを食らってもらおう』
「えええ―!!!」
ここでも来るのか――!!
制限時間設定!!
そうだよ……この塔って、確か三日以内に下に降りなきゃいけないんだった。
忘れてたあああああ!!
ククククク、と、ひくーい声で笑いながら、リッポー試験官がスピーカー越しにパキンとクッキーをかじる。
『……もう気づいていることとは思うが、この塔は刑務所を兼ねている。囚人達は刑期100年以上の重犯罪者ばかりだ。彼等は自分達の刑期を減らすためならどんな手段もいとわない……1分につき、1年。彼らの刑期が減らされていく仕組みだ』
「もう嫌だ、こんな刑務所!!ううう……冨樫先生の馬鹿……っ!!」
「誰だい、それ?そんなに慌てなくったって、ボクなら500人ヤるのに10分もかからないさ。あ、その後に鍵を探さなきゃいけないんだっけ。面倒だなあ、倒すだけなら楽勝なのに★」
これを聞いても、まだ全員ぶっ殺す気でいらっしゃる!!
「ヒソカさん!た、確かにヒソカさんだけなら楽勝かもしれませんけど……!」
「けど、なんだい?」
くるっと首だけ振り向いたヒソカさんは、満面の笑顔だった。
有無を言わせない笑顔。
「け、けど……わ、わたしが、こんな、しがみついてたんじゃ……その、お邪魔になるんじゃ――わっ!?」
「……★」
いきなりだった。
いきなりのキスだった。
でも、いつものようにヒソカさんからされたんじゃない。
したのだ。
わたしから。
唇が、まるで、吸い寄せられるようにヒソカさんの口元に飛びついていったのだ!
重なる寸前、彼の口角がにいっと意地悪く吊り上がるのがわかった。
「!!??」
やられたーーっ!!?
“伸縮自在の愛(バンジーガム)”だああああああああああーーーーっ!!
「~~~~っっ!!!」
「……クックック★トモ……そんなに、暴れないでよ……」
ちゅるっ。
ちゅく……ちゅぷっ。
「ん、んんぅ……っ!」
ぴちゃぴちゃと、恥ずかしい水音が立つように、わざと舌を動かしながら、ヒソカさんが喉の奥で笑う。
唇が離せない。
思うように息ができない。
苦しい。
目頭から勝手に溢れてくる涙も、
ヒソカさんに舐められ、吸い上げられている舌も、全部。
苦しいほどに熱かった。
「ん……っ!んーっ、んん……くっ!!」
それまで、ガンガン背中を叩いていた腕が、どうしてだか言うことをきかない。
まるで、接着剤でくっつけたみたいに、オーラのガムに捕えられて、全身がヒソカさんの身体に密着してる……!!
「……っ、ソカさ……や……っムグッ!?」
「……」
唇を離して喋ろうとすると、お仕置きとばかりに引き戻される。
それから、またキス。
噛み付かれるように、何度も何度も繰り返される深いキスの嵐に、ただでさえ働かない頭は、どんどんなんにも考えられなくなって――気がついたら、抵抗する気も失せていた。
「クックック……可愛いなぁ。悦くしてあげるから、そのままいい子にしてなよ……★」
されるがままになったわたしに気をよくしたのか、ヒソカさんはニヤリと笑うと、パーカーの前をはだけて手を差し込んだ。
「ーーっ、あ……ひゃう……っ!?」
下着越しの手のひらが、やんわりと、胸の膨らみを包みこむように揉みしだく。
「ふ……っ、やっ、ヒソカさ……やめ……」
「クックックッ……!ダメダメ★まだまだ、これからだよ……」
ゾクゾクと背筋を這い上がってくる感覚に堪えられずに身を捩っても、ヒソカさんは許してくれなかった。
泣かされて、喘がされて。
バカみたいにヒソカさんの名前を繰り返すだけでーーそうして、やっと気がすんだのか、唇が離れていく。
「トモ」
くてん、と力の抜けたわたしの身体を横抱きにすると、ヒソカさんはあちこちに、新たなキスを落とした。
こんなのおかしい……。
オーラの拘束はいつの間にか解放されていて、手も足も自由になっているのに……ダメだ、なんかもう、気持ち良すぎて、動けない。
「……ん……、ふ……ぁ」
「……トモ?」
「ん……んや……ぅ、ヒソカさ……」
「トモ、今のキミ……すごくヤらしい顔してる。誘ってるの……?★」
「……っちが、ソカさんが……、こ……なに、キス、するか……ら……ぁ」
「悪いのはトモだろ?つまらないことを言おうとするからだよ★キミを邪魔だと思うなら、最初から、あの路地でキミを拾ったりしない」
「……っ!」
涙の向こうで、ヒソカさんは笑っていた。
それは今までわたしが目にした中で、一番奇麗で、かっこよくて、優しい微笑みだった。
「トモ、今回はキスで許してあげるけど――次は、犯すよ?抱くんじゃなくて、犯す。意味の違いはわかるよね……」
「……は、い」
こくこく、冷や汗を流しながらうなづくと、ヒソカさんはぽんぽん、と頭を撫でて、
「いい子だ★」
チュッと、最後に眦に溜まった涙を舐めとってくれた。
「よし。じゃあ、お仕置きはここまで。そろそろ闘るから、背中に戻って★あいつらも我慢の限界って顔してるし――キスしてる間に10分経っちゃったからね」
「――へ?」
あいつらって……。
チラ。
んぎゃあああああああああああああああーーーーーーっっ!!!!
いいいいいいつの間にやら、総勢500人の囚人さん達が遠巻きに見つめていらっしゃるううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!
しししかも、なんだかちょっと気の毒そうな顔をしていらっしゃるううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!
ぎゃーーーーーっっ!!!
しかもしかも、向こうの足場にいるゴンもキルアもギタラクルも、クラピカもレオリオもこっち見てるううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!
「こここんな大勢の前であんなディープキスしてたんですか恥ずかしいいいいいーーーっ!!」
「ト、トモ、トモ!纏……★全くもう、言ってるしりからオーラが大放出してるよ?言うこと効かないなら、またお仕置きするからね。ボクがいいって言うまで、指定した場所にキスしてもらうよ。さっきみたいにじっくりとね……」
「遠慮させていただきますっ!!!」
ええいもう、いろんな意味でヒソカさんのバカ----っ!!!