24 ヒソカと暇つぶし二日間!!

 

 

 

 

 

「ひそかさあああああああああああああああああああああん!!!」

 

 

 

「ト、トモ、嬉しいのはもう充分伝わったよ……!!だ、だから、ちょっとだけ首を絞めてる手を緩めてくれないかな!?」

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさい!!わたしがバカやったせいでこんなに怪我させて……って」

 

 

 

……あれ?

 

 

 

はた、とあることに気が付いたわたしは、涙を拭って顔を上げた。

 

 

 

「ヒソカさん……怪我、あんまりしてないような気がするんですけど……気のせいですかね?」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

確か、何十人もの囚人たちに囲まれて、蹴られどつかれ――フルボッコにされていたはずなのに、その割りにはピンピンしている。

 

 

 

それに、初めに切りつけられた右肩以外の切り傷がないじゃないの。

 

 

 

「な、なんでですか!?」

 

 

 

目を丸くするわたしに、ヒソカさんはニンマリ。

 

 

 

「奇術師に不可能はないの☆でもまあ、トモにだけ特別に種明かししてあげようかな」

 

 

 

サッとポケットから取り出されたのは、一枚の赤いハンカチである。

 

 

 

あっ、そうか!

 

 

 

「“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)”!傷を負ったように見せかけて、ギリギリのところでナイフを避けてたんですね!さっすがはヒソカさん!!」

 

 

 

「クックックッ!トモ、大正解☆あんなザコの殴る蹴るは、纏を行い防御力を高めておけば問題ない。うっとうしいから、我慢するのは大変だったけどね★」

 

 

 

「な、なるほど……」

 

 

 

うーん、これが経験の差ってやつかあ……で、でも、それだったらわたしがやったことって……。

 

 

 

「むむむ無駄でした……!?足手まといになって人質に取られた上、ヒソカさんを助けようだなんて1000万年早かったですか……!!?」

 

 

 

「トモ★」

 

 

 

バッシュウ!!と、涙とオーラを盛大に噴出するわたしの頭を、ヒソカさんはなだめるように撫でていたかと思いきや、

 

 

 

「ふぎゅっ!?」

 

 

 

思いっきり、抱きしめた。

 

 

 

「……トモ。無駄だなんて、言わないでおくれよ。さっき、トモが、ボクのために戦うって言ってくれたとき……ボク、すごく嬉しかった。本当だよ?」

 

 

 

「――ヒソカさん」

 

 

 

よかった……。

 

 

 

ふわりと耳にかかる吐息に、意識が溶けてしまいそうになる。

 

 

 

うっとり、目を閉じかけたそのとき――

 

 

 

「トモ!!ヒソカ―!!」

 

 

 

「大丈夫だったか!!?」

 

 

 

我先に駆けつけてくれる、ゴン、キルア、レオリオ、クラピカ……!!

 

 

 

そして、なぜか胸元が異様に膨らんでいるギタラクルさん。

 

 

 

そっか、ヒソレンジャーたちが囚人をやっつけたから、それまで離れ離れになっていた全ての足場から橋が伸び、ゴール前の足場へとつながったんだ。

 

 

 

「みんな~~!!!」

 

 

ヒソカさんにさんざん宥められて、キスされて、やっとのことで泣きやんだわたしだけど、五人の顔を見るなり、再び涙腺が緩んでしまった。

 

 

 

「コラ★」

 

 

 

ちょん、と長い指におでこを突っつかれる。

 

 

 

「トモ★さっきまでのボクの苦労を無駄にしないでおくれよ。泣くのはやめて、オーラの放出を抑えるんだ。これ以上は本当に危険だよ?」

 

 

 

「は、はい……すみません」

 

 

 

た、確かに……体力はもう限界超えてるし、オーラは尽きかかってるし、さっきからヒソカさんに抱かれてるだけで、身体がフワフワしてる……。

 

 

 

グルルルルルルルルル~~ッッ!!

 

 

 

「……お腹空いちゃいました」

 

 

 

「はあ!?」

 

 

 

「あんだけ食べてなんで腹が減るんだよ!?」

 

 

 

「だって~!!」

 

 

 

レオリオとキルアが呆れた目でわたしを見てるけど、空いたもんは空いたんだもん!!

 

 

 

仕方ないじゃない!!

 

 

 

「ねえヒソカ、それってやっぱり、こいつらをたくさん出したことに関係あるの?」

 

 

 

五人ものちびヒソカさん……もとい、ヒソレンジャーたちに「ひし……っ!!」と抱きつかれたまま、ゴンが訊ねる。

 

 

 

ヒソカさんはひょい、とヒソピーチをつまみ上げ、

 

 

 

「ふむ。オーラで作った小さなボクを、さらに五体に増幅……消費するオーラは単純計算で五倍。それに、ちびゴンとちびキルアも出したよねぇ。いくらなんでも無理しずぎだよ。今日はもう、念を使うのは禁止。塔を降りたらゆっくり休まないと……二人っきりで、ね☆」

 

 

 

「カタカタカタ……(で、鍵は?鍵がないとあの扉、あかないんでしょ?)」

 

 

 

色気ムンムンなヒソカさんに対し、あくまでも冷静マイペースなギタラクルさんである。

 

 

 

「そ、そうだった!どうしよう……ヒソカさんごめんなさい、わたし、鍵のことなんてすっかり忘れてました……!!」

 

 

 

「大丈夫☆言っただろ?奇術師に不可能はないって」

 

 

 

すっと、差し出された手のひらには、

 

 

 

「鍵!!」

 

 

 

「すっげー、ヒソカ!お前、いつの間に取ったんだ?」

 

 

 

「囚人たちに、よってたかって袋叩きにされたときだよ☆攻撃が終わるのを待ってる間があんまりにタルいんでさぁ、ついでだから探しちゃった☆」

 

 

 

ペロッとおちゃめに舌を出す。

 

 

 

もおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

 

 

この人ったらもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!

 

 

 

「ト・モ★ダメだって言ってるのが分からないのかい?」

 

 

 

「ヒソカさんがテヘペロなんかするから悪いんじゃないですかあああっ!!?はあ、はあ……と、とにかく、鍵を開けましょうか」

 

 

 

「うん☆」

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

ポーン!

 

 

 

“ゴールの扉が開かれました。全ての試練を終了します。受験生は、次の部屋へ進んで下さい”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、行っちゃうんですか?」

 

 

 

こくん、と頷くヒソレッド。

 

 

 

他のヒソレンジャー達も、それぞれ覚悟を決めた表情で、手を振っている。

 

 

 

アナウンスが鳴り、次の部屋へ足を進めようとした私たち――しかし、別れのときは唐突にやってきたのだ。

 

 

 

「ヒソレッド!やっぱり、あなたがいなくなるなんて嫌です!!オーラが底をついたって構いません!!さよならなんて、言わないでください!!」

 

 

 

『☆☆☆☆!☆☆☆☆☆☆!!』

 

 

 

「わ、わかってます。ただの我侭だって……!!でも、私は――!!」

 

 

 

「☆☆☆☆☆☆!☆☆☆☆☆☆!!」

 

 

 

「……ねえ、クラピカ。さっきからトモとヒソレッドは何を話してるのかな?」

 

 

 

「そうだな……ヒソレッドの言葉は私には理解しかねる。だがまあ、身振り手振りから察するに、“キミに泣き顔は似合わないよ、トモ。どうか、涙をふいておくれ☆大丈夫。キミがピンチにおちいった時、ボクらは必ず駆けつける。だから、それまでほんの少しの間のお別れだ”――と、いったところか」

 

 

 

「すっげー!よく分かんなー、クラピカ!」

 

 

 

「嫌ですう!!お別れだなんて!!ずっと側にいて下さい!!!」

 

 

 

涙ながらに訴えても、ヒソレッドは困った顔で首をふるばかりだ。

 

 

 

「ヒソカさんからも言って上げて下さい……!!私、ヒソレンジャーが消えてなくなっちゃうなんて嫌ですう~~!!」

 

 

 

「な、泣かないでよ、トモ☆ごめんよ、一緒に引き止めてあげたいけど、ボクの気持ちもレンジャーと同じなんだよね。早く彼等を引っ込めないと、このままじゃトモの身体がもたないよ」

 

 

 

「そんな!!ヒソカさんご本人まで酷い……!!」

 

 

 

せっかく……せっかく描いたのに。

 

 

 

こんっっなに可愛いヒソカさん達……私、再び生み出せる自信なんてないよう!

 

 

 

「嫌―――!!やっぱり消すなんて嫌です――――っ!!!」

 

 

 

五人のレンジャーをまとめてひしっと抱きしめる私を、困った目で見つめるゴン、キルア、クラピカにヒソカさん……呆れた目で眺めるギタラクル。

 

 

 

「カタカタカタカタ……(もう、いい加減にしてよ。呼んだらまた出てくるって言ってるんだから、さっさと消して次の部屋に進むよ。このままじゃ本当に時間がなくなっちゃうだろ)」

 

 

 

「ギタラクルさんの人でなし!!!」

 

 

 

「あ、あのなあ、トモ。気持ちは分かるが、今お前がしんどいのは、こいつらを出してるのが原因なんだろ?念だなんだって理屈は俺にゃあ分からんが、要するに、こいつらを出しておくにはそれなりのエネルギーが必要で、それは全てお前の体力や精神力で補われてるってことなんだろうが。だったら、無理せずに引っ込めろ

 

 

 

「レオリオまで……うう」

 

 

 

「こいつらだって、せっかく助けたお前を、他ならぬ自分達のせいでぶっ倒れさせたくはねぇはずだぜ。こいつらを生み出した親なら、気持ちを汲んでやれ」

 

 

 

「……あ」

 

 

 

そっと、スーツの胸ポケットから取り出したハンカチで、私の涙を握ってくれるレオリオ――の、首筋にピタリとトランプを押し当てるヒソカさん(大)。

 

 

 

「んぎゃあああああああああ!!!」

 

 

 

「ヒヒヒヒヒヒソカさん!!?ちょっともう、藤原け……レオリオの、折角のいい台詞が台無しじゃないですかっ!」

 

 

 

「だって★」

 

 

 

「だってじゃないですもう!……はあ、分かりましたよぅ。レオリオの言う通りです。私の我侭で、これ以上ヒソレンジャー達を困らせるわけにはいきませんよね……ヒソレッド、ヒソブルー、ヒソイエロー、ヒソグリーン、ヒソピーチ。みんな、本当にありがとうございました……!!」

 

 

 

『☆☆☆☆!!』

 

 

 

「“トモ、忘れないで☆ボクらはいつでもキミの側にいる!!”」

 

 

 

「よく分かるねー、クラピカ!」

 

 

 

「ああ。雰囲気だ」

 

 

 

「はい!絶対に、絶対に、また会いましょうね……ありがとう、ヒソレンジャー!!」

 

 

 

「ありがとう!!」

 

 

 

「またな!!」

 

 

 

金色の、眩しい光がヒソレンジャー達を包み込んだ。

 

 

 

あまりのまばゆさに目をつぶる……そして、再び開いたときにはもう、五人のレンジャー達の姿はどこにもなかった。

 

 

かわりに、

 

 

 

「ちびヒソカさん!!」

 

 

 

『☆』

 

 

 

ぴょーい、とちんまりした両手を広げて飛びついてきたのは、本家本元のちびヒソカさんではありませんか!!

 

 

 

よかった!!

 

 

 

「よかった~!!!そうか、ヒソレンジャーはちびヒソカさんをもとに生み出したものだから、消えるともとのちびヒソカさんに戻っちゃうんですね。心配して損した~!!」

 

 

 

「よかったね、トモ☆なるほど、だから彼等は、“いつでもトモの側にいる”って言ってたんだね」

 

 

 

「あっ、ねえトモ!こいつのことを忘れてるよ!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

はい、とゴンが差し出したのはちびゴンだった。

 

 

 

こちらも、ちょっと名残惜しそうな顔で、バイバイと小さな手を振っている。

 

 

 

『!』

 

 

 

「ちいさなゴン!そっか、君も私の念能力だもんね。でも、やっぱりちょっと寂しいなあ……あれ?そう言えば、ちびキルアはどこ?」

 

 

 

「それがさー、途中まで一緒にいたのに、どっか行っちまったんだよ」

 

 

 

「えー!どこ行っちゃったんだろ……」

 

 

 

「カタカタカタカタ……(どうでもいいよ。それより、はやくそのゴンを消して、先に進まないと時間がもったいないだろ)」

 

 

 

「……」

 

 

 

そう言えば、なんかさっきからギタラクルさんがやけにせかせかしてるような気がする。

 

 

 

再開したときから突っ込むまい、突っ込むまいと思っていたけれど、

 

 

 

「……ギタラクルさん。ちょっと見ないうちに、ずいぶんボインになりましたよね」

 

 

 

「カタカタカタ……(気のせいじゃない?ていうか、俺、もとからけっこう胸には自信があるんだけど)」

 

 

 

「あってたまるかあ―――――っっ!!!」

 

 

 

ああんエッチ、と訳のわからない台詞を無表情に呟くギタラクルさんを完全無視の方向で、胸元に手をつっこみ中身を引きずり出す。

 

 

 

「やっぱり!!」

 

 

 

「ちびキルア――――!!!」

 

 

 

「なにやってんだアンタ―――!!どおすんだよ!!可哀想に、息ができなくてまっ赤になって気絶してんじゃん!!!」

 

 

 

「カタカタカタ……(言いがかりだよ。そいつが勝手に潜り込んできたんだよ。俺、悪くないよ)」

 

 

 

「くりっと首かしげても可愛くもなんともないですからね!!!」

 

 

 

まったく、油断もすきもない……。

 

 

 

カンカンになった私の頭を、おおきくて優しい手のひらがぽんぽんとなでて、たしなめてくれる。

 

 

 

「ヒソカさん……」

 

 

 

「まあ、いいじゃないか。ギタラクルの気持ちも分からなくはないし。それに、これ以上もめてると、ホントに時間が無くなっちゃうからさ☆」

 

 

 

「……ヒソカさんも、ちょっと見ないうちに大きくなりましたよね。下半身のあたりが」

 

 

 

「気のせいだよ☆」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も―――ッッ!!二人とも信じられません!!」

 

 

 

「ご、ごめんよ、トモ……ちびゴンがあんまりに可愛かったものだからつい……」

 

 

 

「カタカタ……(いいじゃない。減るもんじゃなし)」

 

 

 

「ギタラクルは黙ってな★」

 

 

 

ギギイ、バッタン。

 

 

 

ようやくたどり着いた次の部屋は、そう、アニメでもあったけど、時間を消化するだけのペナルティールームだ。

 

 

 

ソファが二つ、テーブルとテレビ、冷蔵庫が一つ。

 

 

 

壁に大きな電光掲示板がかかっている。

 

 

 

表示された時間は、

 

 

 

「48時間だとお―――――っっ!!?」

 

 

 

「まずいな。あの大食い試練のせいで、既に半日以上の時間を消耗しているというのに……ここで2日分の時間をロスしてしまえば、のこりの試練を約12時間以内にクリアしなければならなくなる

 

 

 

「ヒソカさんがあんなところでイチャイチャし出したからです!!!」

 

 

 

「ご、ごめんよ★トモ、お願いだから機嫌直して?ね、いい子☆」

 

 

 

「つーんだ!」

 

 

 

「……★」

 

 

 

「ま、自業自得だよな」

 

 

 

「ちびゴンもちびキルアも、窒息寸前でフラフラしながら帰っていったもんね」

 

 

 

そうなのよ!!

 

 

 

もう、もう!!二人とも、ほんっとに可哀想!!

 

 

 

「ちびゴンもちびキルアも、あんなに頑張ってくれたのに!よりにもよって、あ、あ、あんなところに突っ込むだなんて!!」

 

 

 

「泣かないでよ~、トモ~★★★」

 

 

 

「触らないで下さい」

 

 

 

「……★★★」

 

 

 

さっきから頭をよしよししてくれているちびヒソカをきゅっと抱きしめてそっぽを向くと、長身の奇術師はガクンと項垂れて、しまいには三角座りで床にのの字を書き始めたみたいだけど、完全無視の方向でっ!!

 

 

 

「ヒ、ヒソカ……泣かないでよ。あ、ねえねえ!こっちの棚に、いっぱいゲームがあるよ。みんなでやろうよ、時間つぶしにさっ!」

 

 

 

「お、いいねえ~!言っとくけど俺、ゲームなら自信あんぜ?二番目の兄貴と散々やりつくしたからな!」

 

 

 

「しゃあねぇ。俺もいっちょ付き合ってやっか。ほら、トモ!いつまでも拗ねてないで、機嫌直して遊ぼうぜ?」

 

 

 

「レオリオ~!!」

 

 

 

今度こそ、胸ポケットのハンカチで涙をフキフキしてもらっている私の背後に何かがいる気配がするけれど完全無視の方向でっ!!

 

 

 

「あ――っ!!★ちょっとトモ!!それは流石に浮気って言うんだよ!?」

 

 

 

「ヒソカ、少し落ち着いたらどうだ……全く、トモが絡むと普段の冷静さが微塵もなくなるのだな」

 

 

 

「ほっといてよ、クラピカ……★」

 

 

 

「カタカタカタカタ……(ま、いいじゃない。この際だから体よく遊んで、トモにさっきのいざこざを忘れてもらおう)」

 

 

 

「聞こえてますよ――!!」

 

 

 

……ま、いいや。

 

 

 

いつまでも怒ってても仕方ないし。

 

 

 

「どんなゲームがあるの?」

 

 

 

「色々あんぜ?チェスに将棋に、オセロに、囲碁に、軍棋だろ?あとは、人生ゲームに、ウノに……あれ、なんだこれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん大きいね。木で出来た四角いゲーム板みたいだけど。真ん中に円が書いてあるってことは、ダーツなのかな?」

 

 

 

「いや、待て。このゲーム版の厚み、そして、四隅に穴が空いていることから、ビリヤードのように何かを落とすことを目的としたゲームではないかと推測する」

 

 

 

「何かって、なにを?」

 

 

これは……。

 

 

 

「キルア、その穴の中に、袋かなにか詰めてない?」

 

 

 

「えっ?あ、ほんとだ。袋の中に、赤と青の丸くて平たい積み木がいっぱい入ってるぜ。これ、何に使うんだ?」

 

 

 

「トモ、これがどういうゲームか知ってるの?」

 

 

 

知らんでかっ!!

 

 

 

「知ってるよ!このゲームはね、カロムっていうの!!」

 

 

 

「カロム!」

 

 

 

「そう!最大四人で遊べるボードゲームでねっ、クラピカの行った通り、ビリヤードみたいな卓上ゲームなの。こうやって、赤と青の平たい色玉(パック)を交互に、ボードにあるセンターサークルに沿って並べるでしょ?それで、自分はこの白い手玉(ストライカー)を指で弾いて、丸玉を四隅にある穴の中に落としていくの!!上手く落とせたら、失敗するまで続けて打てるよ。でも、手玉も色玉も赤と青の二色しかないから、向い合って座った二人は味方同士になるんだ」

 

 

 

「この、いちばん大きい玉は?」

 

 

 

「それは王様(ジャック)。ボードの中心に置いて、自分の色玉を全部落としてからじゃないと、落としちゃいけないってルールがあるんだよ!もし、ゲームの途中で王様を落としたら、罰金としてそれまでに落とした色玉を十個追加!あ、自分の手玉が穴に落ちちゃっても、罰金一個ね」

 

 

 

「カタカタ……(へー。地味なゲームだね)」

 

 

 

はう!

 

 

 

「じっ、地味じゃないもん!指先と指先で競い合う熱いゲームだもん!!」

 

 

 

「トモ……なにも、泣くまで力説することでもあるまい。だが、なかなか面白そうなゲームだな。どうだ、せっかくここまでルールがわかったことだし、やってみないか」

 

 

 

「賛成!!」

 

 

 

「おう!あ、待てよ。このゲーム、一度に四人までしか出来ないんじゃねーの?」

 

 

 

「大丈夫!二人一組でチーム戦にすれば、一度に八人で遊べるよ!」

 

 

 

「一人足りない分はどうするんだい?☆」

 

 

 

「カタカタカタ……(ははは。そんなの、ヒソカが一人だけペアなしで参加すればいいに決まってるじゃない)」

 

 

 

「いい加減にしとかないと、うっかり口が滑っちゃうよ、ギタラクル★」

 

 

 

「ま、まあまあ、ヒソカさん。それは、ちびヒソカさんも参加すれば問題無いです。本人、ものすごくやる気だし」

 

 

 

やる気もやる気。さっきからゴンの肩の上で、えいえいおーと、ちっちゃな拳を振り上げている。

 

 

 

かっわいいなあチクショウメ!

 

 

 

「トモ!じゃあ、トモはボクとペアになってくれるんだねっ!!☆」

 

 

 

「いいですよ――むぎゅっ!」

 

 

 

「よかった☆もー、怒ったトモは手が付けられなくてどうしようかと思ったよ☆☆」

 

 

 

ムッキムキの腕で抱きしめて、頬ずりしてくるヒソカさんである。

 

 

 

うん。これくらいお灸をすえておけば、もうちびゴンをあんなところやそんなところに突っ込んで隠したりはしないだろう。

 

 

 

……たぶん。

 

 

 

「じゃあ、他のチームは、レオリオとクラピカのペア。キルアとギタラクル。で、俺とちびヒソカ。これでいいよねっ!」

 

 

 

「異議なし!」

 

 

 

「ふむ、そうか。色玉も手玉も赤青の二色しかないから、二つのチームが共同で戦うしかない。つまり、四人対四人で戦っていき、勝ち進んだ四人が、最終的にニ人対ニ人で決勝戦を行う――これは、かなりの時間を潰せそうだ」

 

 

 

「決勝戦までに、中指の爪が割れないことを祈るといいですよ、クラピカ……」

 

 

 

カロム!!

 

 

 

それは、わたしの出身地、滋賀県に古来より伝わる伝統遊戯!!

 

 

 

そのゲームボードの普及率は、一家に一台必ずあると言っても過言ではない。

 

 

 

大阪人のたこ焼き器のような存在!!

 

 

 

うおおおお負けるもんか……負けるもんかあああああああああああああ!!!

 

 

 

「トモ、纏。なんかキャラが変わってるよ?★」

 

 

 

「ま、なにはともあれゲーム開始!!」

 

 

 

「よーし!絶対勝つぞ――!!」

 

 

 

『☆☆☆!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、リッポー。なあにあんた、まださっきのこと怒ってるの?」

 

 

 

「当たり前だ。メンチ試験官。私の試験で勝手な乱入妨害をしてもらっては困る」

 

 

 

シャワーを浴び終え、乾かしたばかりの髪を三つ編みに結いながら、メンチがふらりと監視室に現れた。

 

 

 

片手には缶ビール。

 

 

 

全く、悪びれがないにも程がある。

 

 

 

不機嫌を露わにせんべいを噛み砕きつつ、リッポーは自分に近づいてくる若手女性ハンターに鋭い眼差しを向けた。

 

 

 

「何の用かね」

 

 

 

部下ならばこれだけですくみ上がるだろうが、この天真爛漫な美食ハンター相手ではそうもいかない。

 

 

 

ひょっこり、肩をすくめてペロッと舌を出し、「ゴッメ~ン☆」の一言で済ませようとする小娘にはもう、ため息をつくしか対処法がないのが現実だ。


 

 

「……君の役目はもう終わったはずだろう。さっさと飛行船に戻り給え」

 

 

 

「冷たいこと言わないでよ。サトツさんじゃあるまいし。いいじゃない。試験が終わって暇になったら、アンタにもアタシの気持ちが分かるわよ!」

 

 

 

手元の菓子袋から、ひょい、と何の断りもなく醤油せんべいを一枚失敬し、あっというまに平らげる。

 

 

 

「ふむ、美味しい。大量生産品にしてはまずまずね」

 

 

 

「……何の用かと聞いているのだがね。メンチ試験官。ウチの可愛い料理人達をこき下ろしただけでは気がすまなかったのかね?」

 

 

 

つい先程まで、ここトリックタワーの監獄厨房にこもっていた彼女。

 

 

 

彼女が試練に使用する料理をつくり上げるまでの道のりには、それはそれはもう聞くも涙、語るも涙、筆舌に尽くしがたい騒動があったと報告されている。

 

 

 

やれ包丁の研ぎが甘い、鍋が煤だらけで使い物にならない、フライパンがドロドロ、シンクの隅にカビが生えていて汚い、料理人の顔が全体的に陰気臭い云々。

 

 

 

重箱の隅をつついてつついて、穴を開ける勢いで文句を垂れ流す姿はまさに、鬼姑のごとし。終いには、総勢50名いる監獄料理人を一列に並ばせて、順番にビンタを叩き込んでいったという。

 

 

 

強面の料理長がむせび泣きながら駆け込んできたのは約10分前の出来事ではあるまいか。

 

 

 

「全く……試験のことといい、私に権限がありさえすれば500年ほどこの監獄にぶちこんでやるものを」

 

 

 

「あら、いいわねー!ブタ箱の飯は不味いっていう固定概念を、このアタシが変えてやるわ!!」

 

 

 

「……」

 

 

 

恐ろしい。

 

 

 

考えただけでも鳥肌が立つ。

 

 

 

もうなにも言うまい……と、無言で嵐が去るのを待つ構えに入ったリッポーの横に身を乗り出し、胸を突き出して、メンチはズラリと並んだモニターを順に眺めている。

 

 

 

「ねえ、リッポー。あいつらは?」

 

 

 

「……君が料理を担当した、例の問題児たちかね?彼等は今、ペナルティールームにいる。ロスタイムは残り45時間と28分53秒。D-4のモニターだ

 

 

 

「へえ、なんだか随分と楽しそうね。皆でなにやってんのかしら」

 

 

 

「カロムだ。詳しくは知らないが、とある部屋の管理人が持ち込んだ、非常に民族的な遊びらしい。こんな場所で普及されても困るのだが」

 

 

 

「へー。指でやるビリヤードって感じね!ちょっと、この画面大きく映しなさいよ。音量も上げるわよ」

 

 

 

「あっ、コラ!勝手に--」

 

 

 

 

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビジュ、カコーン!!

 

 

 

『いよしゃああああああ!!見ろ!!色玉が二ついっぺんに入ったぜ!どうだ、レオリオ様のミラクルシュートは!!』

 

 

 

『バカ言え!!今のは明らかに線を越えて打っただろ!はい、罰金三個ー』

 

 

 

『あっ、コラ待て言いがかりだ---!!』

 

 

 

『ズルはダメだよ、レオリオ!えへへ、でも、カロムって楽しいね。最初は、ビシュッて中指で打つときの力加減が難しかったけど、カコーン!って穴に入ったときの音が気持ちいいよね!!』

 

 

 

『おう!単純なのに、奥の深いゲームだよなー』

 

 

 

『でしょ!?』

 

 

 

ビシュッ、カコーン!ビシュッ、カコーン!!ビシュッ、カコーン!!!

 

 

 

『おいこらトモ!!お前、少しは手加減しろよ、経験者なんだから!!』

 

 

 

『手加減?何ふざけたこと言ってるのレオリオ。ジャポン出身、滋賀県人の誇りと名誉にかけて、カロムで手加減するなんてことは、しませんっ!!!!』

 

 

 

『トモ!立派だ!!一族の伝統と文化を重んじるその気持ち、私にはよーく分かる!!』

 

 

 

ドン!

 

 

 

『だから、クラピカもドン突き禁止だっての!!』

 

 

 

 

『はいはい、罰金一個ね』

 

 

 

『カタカタカカタ……(ねえ、この罰金の色玉を積み上げたペナルティータワー、そろそろ崩していい?)』

 

 

 

『えー!!★ダメだよギタラクル!もっともっと、高く積み上がるまでの我慢!!』

 

 

 

『そうだよ!だるま落としみたいに、下から順番に打ちぬいていくのが楽しいんだもんね!!』

 

 

 

『カタカタ……(えい)』

 

 

 

ズシャアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

『ぎゃあああ----!!ほら見ろ、言わんこっちゃない!!タワー天辺の王様(ジャック)が穴に入っちまったじゃねーかあああああああ!!!!』

 

 

 

『カタカタカタ……(はは。どんまい)』

 

 

 

『はーい、キルアチーム罰金十個追加ー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盛り上がってるわねー」

 

 

 

「ローカルだ。非常にローカルだ。だが、それ故に新鮮味があり、伝統遊戯だけあって奥が深く、やり込める。やり方によっては多人数で試合も出来る--時間つぶしには最適だ」

 

 

 

「どう思ってるのよ」

 

 

 

挑戦的な――聞きようによってはやや挑発的な口ぶりに、リッポーは視線を向けた。

 

 

 

メンチの瞳は、溢れる生命力で輝いている。

 

 

 

彼女の全身から、炎のように熱く立ち上る、オーラの高ぶりを感じる。

 

 

 

「……何のことかね」

 

 

 

「とぼけないで。アイツらのこと!どおすんのよ、このままじゃ裏ハンター試験をするまでもなく、全員念に目覚めちゃうんじゃないの!?」

 

 

 

「どうするも何も、どうもしない。私にどうにかできる問題ではないからな。それに、このこと既に会長がご存知だ。昨晩、彼等と話もされたらしい」

 

 

 

「で、なんて?」

 

 

 

「“面白そうじゃから手出し無用”だそうだ」

 

 

 

 

「会長らしいわね!ま、いいわ。毎年毎年、一人か二人くらいしか合格者がいないのもつまんないもの。今年くらいはどばっと新人が欲しいもんよ。ああー!誰か美食ハンター志望の子はいないのかしら!可愛がってあげるのにい~!!」

 

 

 

「ククク。賞金首(ブラックリスト)ハンター志望は、三人もいるがね」

 

 

 

「はあ!?ちょっとリッポー!ふざけんじゃないわよっ!!なあに、アタシに許可もなく抜け駆けしてるわけ?却下よ、そんなもん!!」

 

 

 

「……本人たちの希望だから、仕方がないがね。志望者は44番と301番。あと、あのクルタリアンの少年だ」

 

 

 

「あら、なーんだ。あの超問題児二人が入ってるんなら、まあいいわ!あげる!!」

 

 

 

いや、くれても困る。

 

 

 

そんな気持ちを沈黙に込めて見つめると、メンチはなにを思ったか、よし!と拳を打って踵を返した。

 

 

 

「アタシ、ちょっと狩りに行ってくる!リッポー、ペナルティールームのあいつらの栄養管理はアタシがするから、勝手に変なもん食べさせるんじゃないわよ!!」

 

 

 

「あ、コラ、また勝手に――行ってしまった。全く」

 

 

 

困ったものだ。

 

 

 

だが、そう呟くリッポーの口元にもまた、いつのまにか深い笑みがうかんでいるのだった。

 

 

 

仕方がない。

 

 

 

力は力に惹きつけられる。

 

 

 

それが、善悪関わりなく巻き込んでしまうほど大きな力の渦であれば、なおのこと仕方がない。

 

 

 

「……私も、楽しみだね」

 

 

 

人知れず呟かれたリッポーの言葉に、ドアの閉まる音が重なった。