7 ヒソカとはぐれて霧の中!!

 

 

 

 

 

 

生クリームみたいな霧の中を、ヒソカさんは私を抱きかかえたまま、まっすぐに走っていく。



出だしは遅れたものの、流石はヒソカさんだ。



先頭集団に追いつくのに、ものの五分もかからなかった。



でも、追いついた先がちょっと嫌な雰囲気というか……なんだか、四方をガラの悪い面子に囲まれてしまったのである!



“飛ばすからしっかり掴まってるんだよ☆”



との忠告どおり、ヒソカさんは常人じゃ考えられないくらいのスピードで走っていく。



だから、私も思わず首に手を回したりなんかして、彼の身体にギュウッ!としがみついていたのだけれど。



彼らはどうも、それが気にくわなかったらしい。



ガラの悪い面子はヒソカさんと私を一目見るや、聞こえよがしに舌打ちをしたのだ。



「……このイカれ野郎、女連れでハンター試験かよ」



「ナメた野郎だ。しかも、女の方はガキじゃねーか」



「イカれた上に、ロリコンかよ!ギャハハハ!どんだけ変態なんだよ!?」



ま、まずい!



このパターンは!!!



「ヒソカさん、失礼します!!」



ガシッ!



「わっ!どうしたんだい?いきなりボクの耳を塞いだりして」



「なんでもないですから気にしないで下さい!!」



「おいコラ、変態!どうせ連れてくるなら、ガキじゃなくてもっといい女を連れて来いよ!」



や、やっぱり絡み出した!!



この命知らずの馬鹿野郎どもめ……。



人殺しを生き甲斐にしてるようなお方めがけて、よくそんな風に絡めるわ!



尊敬するわ、逆に!!



ヒソカさんの耳に当てている手に、ぎゅっと力を込める。



でも、聞こえていないのをいいことに、ガラの悪い面子はますます調子に乗り出したのであります!



「ハハハ!!ほんとだぜ、あーあ、もっと色気のある女だったらなーあ、俺たちで可愛がってやるのによ?」



「顔はともかく、せめてもう少し胸が欲しいよなー。わからないねー、変態さんのご趣味は!」



「ギャハハハ!!」



むぎぎぐぐぎぎぎがぎぐごごごっ!!



くそう……!!



言いたい放題言いやがって……お前らの命は今、私の両手にかかってんだぜ!?



わかっとんのかゴルアアアアアアアアア――――!!!!



「トモ★」



「はっ!あ、纏、纏ですよねっ!!」



怒りのあまり高めていたオーラを慌てて静める私に、しかし、ヒソカさんはうっすらと笑って、首を振った。



「コレ、あげる」



「なんですか?……あ、かわいいっ!てんとう虫の髪止め」



「さっき、町で別れたあとに目についてね。小さくて、ちょこちょこしててカワイイところが、トモに似てると思って、思わず買っちゃったんだ。受け取ってくれるかい……?」



「は、はい!もちろんです!」



ありがとうございます!



――と、髪止めを受け取ったとき、ヒソカさんの耳から手を離した。



それで、気づいた。



「……あれ?聞こえないのに、なんで普通に会話出来てたんですか?」



「トモはおバカさんだなあ☆唇の動きを読むくらい、わけないよ☆」



「あ、そっか。なーんだ」



あはは、流石はヒソカさん。



………え?



ということは?



ということは、である。



「トモ★下におろすから、自分で走ってくれるかい?それから、下りたら出来るだけ全速力で前の方に行くこと。ちゃんと纏をするんだよ?ボクは少し用事が出来たから、終わってから追いかける★」



「ヒソカさ―――ん!!?」



「ダーメ★ボクに絡んで来るだけなら見逃してやろうと思ってたけど……トモのことをあそこまで酷く言われちゃね……★★」



「どででででっでもでも!!ダメですっ!ヒソカさん、また失格なんてことになったら、私、私……!!」



「泣かないで★大丈夫だよ。バレないように殺るから★★★」



そういう問題じゃな――――い!!!



でも、ヒソカさんはそんな私のおでこにチュッ!とキスを落として笑うばかり。



人の話なんて聞きやしない……!!



「……や、約束ですよ、ヒソカさん!」



「うん☆絶対に、失格なんかにならないよ☆」



パシャン!



ヒソカさんの腕から飛び降りた私は、その途端、前に向かって全速力で走った!



悪く思うなガラの悪い面子たちよ!!



もとはと言えばお前らが悪い……!



童顔で悪かったなコンチクショ――!!



「クックックックックックッ……!★★★」



ヒソカさんの楽しそうな笑い声が、白い霧の向こうに溶けていく――