「ただいま…。」
私はゾル家に帰るなり、広間のソファーに倒れるように身体を預けた。
「おい、菜々実大丈夫か?」
その姿を見ていたキルアは心配そうな顔で私の頭元に座った。
「無理…もう死ぬ…」
睡眠を満足に取れていない&時間感覚が麻痺している事で体力は限界に近かった。
誰か手伝ってくれ…
そう心で願った時だった。
「あれ?イル兄何やってんの?俺も手伝おうか?」
キルアが何やらイル兄のお手伝い…
お手伝い…
お手伝い!!!!!!
私はガバっと起き上がるとキルアに向かって飛びついた。
「うっうわぁ!!
どうしたんだよ急に。」
キルアは突然の行動に驚きながらも、なんとか私の身体を受け止めてくれた。
「お手伝い…」
「???」
「キルアお願手伝って~~!!!!!」
私は泣きつくようにキルアにしがみ付いた。
すると耳元から不敵な笑いが聞こえた。
「…?」
「俺に暗殺やれって??」
私は冷たい声に驚いて咄嗟にキルアの腕の中から身体を放し、後ろに飛び退いた。
「ですよね…ごめん…。」
俯きながらしょんぼり謝ると、キルアに顎を持ち上げられた。
「報酬は?」
「へ?」
「報酬だよ。まさかただでなんて言わないよな??」
「3分の2!!」
咄嗟に報酬金額の割合を口にするとキルアは盛大なため息をついた。
「はぁ~。お前なぁ~。
金の話じゃなくて、それ以外だよ。暗殺が嫌で家を出た俺に暗殺させるんだから、それなりの報酬考えてんだろ??」
相変わらず、私の顎をもって上を向かせているキルア。
私の視線の先のキルアはそれはそれは意地悪な、アニメで何度悶えたかわからない、悪い悪い不敵な笑みを浮かべている。
私は内心身の危険を感じて後ろへ一歩足を引くと同時にもう片方の腕で腰を引き寄せられた。
「!!キッキッキルア…あの…。」
背中にはたっぷりの冷や汗が流れていく。
「そ~だな。
3日間くらい2人で部屋から出ないでずっとベッドで過ごすとか?」
「!!!」
「それとも、菜々実がこの先ずっと風呂で俺の身体素手で洗ってくれるとか?」
「!!!!」
「あっ、もちろん俺が菜々実の身体洗ってやるからな。」
次々とキルアの口から零れる言葉に真っ赤になるのを通り越して私の顔は真っ青になっていく。
ここまで来て初めて自分がキルアに頼んだ事が重大な失態だった事を思い知った。
でも背に腹は代えられない…
このままでは依頼が全て完了しない。
しかも自分自身最後まで体がもたない。
必死で考えた私の出した答えは…。
「1つだけ…
1つだけキルアのお願聞く。
その代りあんまり生々しい言い方せんといて(泣)」
私は半泣きになりながらキルアを見ると腰に回された腕に力が入って奪うようにキスをされた。
「!!!やぁ…ん…」
突然の刺激に眩暈を覚えながらも徐々に甘い物に変わっていく感覚に、身体はふわふわとし始めて私はそのまま意識を手放すように眠ってしまった。
**********
結局キルアは残りの仕事をすべて手伝ってくれた。
そのおかげでシルバさんとキキョウさんが不在の間の仕事をこなす事が出来た。
あの日以来、キルアは報酬の話はしてこなかった。
一体どんなお願をされるのか…
仕事が全て終わった今、私はにやりと笑うキルアの前に立っている。
気分は死刑を宣告される被告の気分。
話しの内容を聞いたシルバさんとキキョウさん。
更にあの時現場に居合わせていた他の家族全員が揃っている。
「じゃ~今回奈々実からもらう報酬は…」
「まっまっ待って!!」
私はその場の空気に耐えきれずに思わずキルアの声を遮ってしまった。
すると大きなため息をついたかと思うとキルアの顔が耳に近づくと小声でささやかれた。
「!!!!!!」
その言葉に顔を真っ赤にしてキルアの顔を見上げると、満足そうに広間を出て行った。
私はあまりの衝撃的な言葉に悶絶して、腰を抜かして座り込んでしまった。
~おまけ~
「キルアはなんだって?」
イル兄が私のそばにやってくるが、口を開くことすらできない私の代わりに、一番近くでキルアの声が聞こえていた様子のミルキが頬を染めながら口を開いた。
「あいつ、あんな顔であんなセリフさすがの菜々姉もそりゃ放心するよ…。」
「キルアはなんて言ったんだ!?」
焦れたシルバさんが有無を言わさぬ声でミルキ迫った。
「『奈々実の腰が立たなくなるほど愛させて』だって。」
その言葉を聞いた全員が流石に頬を染めて固まっていた。
すると広間に戻ってきたキルアは何食わぬ顔で私を抱きあげると『じゃ~そう言う事で』とみんなに言うとそのまま笑顔で広間を出て行った。
もちろん目的地は私達の部屋…。