その晩。
私は夕食を済ませると、そそくさと部屋に戻った。
キルアも一緒に部屋に戻ってきたから私はそのまま机に座って仕事を始めた。
「奈々実?ホントに仕事でなんかあった??」
「なんで?」
目の前のソファーからテレビを見ながら少し心配そうな顔でキルアが私の顔を見ていた。
「特にトラブルはないけど??」
「ふ~ん。」
「どーしたん?」
「酒も飲まずに仕事してるからさ。」
キルアの言葉は最もだった。
家で仕事をする時は特に気にする事なくいつも通りお酒を飲む事が多い。
私は動揺する心臓を抑え込む様に冷静を装う。
「最近ゆったり過ごしてたからかな?油断しててちょっと微熱あるからさ。
これ終わったらとっとと寝ようと思って。ちょっと熱下がるまではお酒やめとくつもり。」
「熱?大丈夫かよ!?」
「うん。微熱程度やし平気。
ちょっと大人しくしてたら治るよ♪」
そう言って笑顔を向けるも、キルアは心配そうな顔をしていた。
私は仕事を済ませると、サッとシャワーを浴びてベッドに潜り込んだ。
なかなか寝付けないまま、寝返りを繰り返していると、寝室のドアが開いてキルアが入ってきた。
「寝れないのか?」
ベッドに腰かけて私の髪を撫でてくれる。
いつもなら安心するはずなのに不安は消えずにいる。
そんな私に気付いたのかキルアは心配そうな顔で覗きこんできた。
「なぁ?菜々実ホントは何があったんだ?」
キルアの瞳が揺れている。
「キルア、あの…」
私は言い掛けて口を閉ざしてしまった。
次の言葉が出てこない。
キルアがどんな反応をするのか怖い…
そう思うだけで身体が震えそうなくらいの恐怖に自分が引き摺り込まれる様な感覚にさえ陥る。
「言って。俺に教えて。菜々実が何を悩んでるのか。」
そう言ってキルアは優しく抱きしめてくれると自然と涙がこぼれてしまった。
そんな私に何も言わずに優しく頭を撫でてくれる。
この人との子供を産みたい。
育てたい。
今まで不安でしかなかったものが希望へと変わっていくのを感じた。
「今月来てなくて…妊娠…したかもしれんの…」
私は小さな声で言うとキルアは黙っていた。
顔を見るのが怖くて俯いているとそっと頬を両手で包まれ上を向かされた。
「俺、気付いてたんだ。菜々実が今月来てない事。
さっき兄貴達と話してて気付いたんだ。」
キルアは不安そうな顔をしていた。
「俺男だから奈々実の気持ちわかんなくて。でももし子供が出来てるなら俺は産んで欲しいと思ってる。菜々実は不安かもしれないけど。」
その言葉に止まっていた涙がまた溢れ出した。
「産んでいいの?喜んでくれるん?」
「当たり前だろ!?
俺菜々実が産むのが不安で言わないんだと思った。」
「ううん。私はキルアがなんて言うか不安で…」
「ばっかじゃねぇ!?
子供出来るかもしれないって分かってて俺、菜々実の事抱いてるんだぜ!?」
「そーなん!?」
キルアの口から出てくる言葉一つ一つが驚きで私は目を見開いていた。
「お前な~。好きな女抱くのにそんな事考えもしない男だと思ってたわけ!?」
キルアは心外だと言わんばかりの呆れ顔で私を見ている。
私は慌てて首を横に振った。
「そーゆー意味じゃないけど、そこまで考えてると思ってなくてびっくりした…」
大きなため息と共に私はまたスッポリとキルアの腕に閉じ込められた。
「医者にちゃんと診てもらおうぜ?」
「明後日レオリオが来てるから診てもらう。」
「もしかしてその為に約束してたのか?」
「うん。」
私はキルアの顔を見上げるとキルアは額をくっつけてきた。
「ま~しょ~がない。おっさんもたまには頼ってやるか(笑)」
そう言って2人で笑い合った。
その晩眠っているキルアの腕が腰でわなくお腹に手を当てているのを感じて私は幸せな気分でぐっすりと眠れた。
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「ごめんなレオリオ…
わざわざ来てくれたのに…」
「かまわんさ。
それよりあんなに不安そうだったのに、お前ら2人共なんか残念そうだな?」
そう。妊娠していなかった。
キルアに打ち明けた翌日のお昼、私は覚えのある腹痛に襲われた。
慌ててトイレに向かうとちゃっかりやって来た毎月のお客様。
少しガッカリしながらトイレから出てきた私に気付いたキルアは苦笑いをしていた。
「でもこれで良かったんだよ。」
そう言って笑うキルアに私は首をかしげた。
「だってさ、俺子供は欲しいけど、もうちょっと菜々実と2人でゆっくりしたいからさ。」
優しく頭を撫でながら微笑むキルアの言葉が私の胸に浸み込んでいく。
もう少し、もう少しだけ2人の時間を過ごしたい。
「だったらちゃんと避妊するんだな。」
そう言うレオリオも、私達の様子を見て安心している様だった。
「嫌だね。」
キルアはニヤリと笑っている。
「え??もうちょっと2人で過ごすんじゃないの??」
「そうだけど、やっぱり授かりものなんだから、チャンスは多いに越したことないじゃん♪」
そう言って笑うキルアに私はなぜだか背中に冷や汗が流れるのを感じた。
もうしばらくはゆっくり眠る事は出来そうにない事を感じると、今のこのお客様が来ているうちにしっかり寝ておこうと心に決めた。
~Fin~