1 癒術師

 

 

 

 

今霊界は厳重警護の元、慌ただしくしていた。

「コエンマ様、一体何が始まるってんですかい?」

朝から部屋の中を行ったり来たり、落ち着きのないコエンマに向かって霊界案内人のぼたんは痺れを切らしていた。

「そうか!お前は知らんのだったな。」

コエンマはいい時間つぶしが出来たとばかりにジョルジュとぼたんを座らせる。


「今から200数年前、S級妖怪に滅ぼされた癒術師の話は知っておるか?」

「癒術師ってあの高嶺の花と呼ばれていた種族の事ですか?」

「ああ。元々自分の妖気と体内に持つ仙華球と呼ばれる玉とを同調させて傷や病気を治す能力を持っていた。それともう一つ、交わった者の妖力を一時的に増幅させる能力。その為に襲われたんだ。」

「なんて酷いんだい。」

ぼたんはその状況を想像して思わずブルッと身震いをした。

「結局その時、身を守る為にその場にいた癒術師の女達は死を選んだ。
自ら自害した者、守護者に頼んだ者・・・。
霊界が連絡を受けて駆け付けた時には十数人の癒術師達の死体があっただけだった。」

「守護者ってなんですか?」

ジョルジュは話を聞きながら聞きなれない言葉に質問を投げかけて行った。

「癒術師は妖気の大半を治癒に使う。さらに元々好戦的ではない種族じゃった。
その能力のおかげで妖怪に狙われる事も多い。
だから癒術師は個人で自分の身を守ってくれる者と契約を交わし、自分を守護してもらっておったんじゃ。
それが守護者じゃ。」

3人は何とも悲しい運命に黙りこんでしまった。

 

 

「契約ってのは?」

「契約は癒術師と守護者が情を交わして交わること。
契約が終わると両者の左胸に花の刺青が刻まれる。
その花によって誰の守護者かがわかるようになっておるんじゃ。」

「なるほど。愛した相手を死ぬまで守る。
純愛ですねぇ。コエンマ様!!」

頬を染めて手を組むジョルジュにコエンマは首を横に振った。

「そんな良いものじゃない。
もしも守護者が癒術師を守れず癒術師が死んでしまうと守護者は癒術師との一切の記憶を失ってしまう。
もちろん癒術師の力で増幅された妖力はなくなり、契約前の妖力まで下がってしまう。」

「守れなかった罰ですか・・・。」

「逆ならどうなるんですかい?」

「守護者が死んで癒術師が生き残った場合はもう癒術師は他に契約する事は出来ない。
契約は一生に一度きり。」

「じゃ~身を守ってくれる人はいなくなってしまうんだね?」

「そうなる。」

人は何とも悲しい運命に黙りこんでしまった。

「それにしてもコエンマ様詳しすぎやしませんか??」

ぼたんの問いそれまで悲しい顔をしていたコエンマの表情がパッと明るくなる。

「それが今回の慌ただしさの理由じゃ。」

嬉しそうに語りだしたコエンマにぼたんとジョルジュは顔を見合わせた。

「全滅したと思われていた癒術師が一人、その事件の時に霊界からの依頼で人間界に居る事がわかったんじゃ。」

「じゃー癒術師は全滅していなかった、ってことですか!?」

「ああ。その癒術師には子供がおって、無事に仙華球を受け継ぎ200年の眠りに入っておる。
この霊界でな。」

コエンマは嬉しそうに笑った。

「そ奴が数日内に覚醒されると言われておるんじゃ。」

「それでコエンマ様落ち着きなかったんですね?」

「ああ。なんせわしは鳴鈴実と仲が良かったからな。
この日を200年楽しみにまっておったんじゃ。」


「コエンマ様仲が良しかったんですか!?」

「ああ。奴が8歳の頃から一緒におったから・・・7年位は面倒見ておったかの?」

ぼたんとジョルジュは納得したように身を乗り出していた体制からソファーに身体を埋めた。

「だからこんなに詳しかったんですね?」

「ああ、鳴鈴実の母親の事ももちろん知っておった。
早く目覚めてくれんかのぉ~。」

コエンマはそうつぶやくなりまたソワソワと部屋をウロウロし始めた。

ぼたんとジョルジュは自分たちまで楽しみになってコエンマの様子を笑顔で見つめていた。

「その子はもう守護者を決めてるんですか?」

ジョルジュはさっきの話を頭の中で整理してふと疑問に思った事を聞いてみた。

「そこなんじゃ!!
鳴鈴実は自分のなかでもう決めている様な事を言っておったんじゃが、わしにはそれが誰なのか見当がつかんのだ。」

「名前聞いてなかったんですか?」

ぼたんはあり得ないとばかりに身を乗り出す。

「眠りについてる間に探してやるつもりだったんじゃが口をわらんかった。
正確に言うと名前は知らなかったらしい。」

「名前も知らない人を守護者にですか?」

「ああ、その頃奴のそばには昔の蔵馬もおった。
奴に聞いてもわからんかったんじゃ。」

「蔵馬を知ってたんですか!?」

「わしも当時は知らんかったんじゃが、数か月前蔵馬の口から鳴鈴実の名がでてな。
一部の妖怪には鳴鈴実の存在は知れておったからの。
霊界に匿われている事を知ってる妖怪も少なくない。」

「じゃ~覚醒したらまた狙われるんじゃ!?」

「だから鳴鈴実を人間界で玄海と蔵馬に世話してもらおうと思っておるんじゃ。
幽助達もおるしな。」

「じゃー私も仲良くなれるかな。」

ぼたんは嬉しそうに部屋を出て行った。

 

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