17 大会本部の思惑 ①

 

 

 

 

 

飛影は鳴鈴実の姿が会場から消えると額当てを外し目を閉じると、邪眼で鳴鈴実の姿を追っていた。


**********



大会本部はオーナー席の真ん中。
審判の対面あたりに位置した一番見通しのいい席にあった。

コエンマがドアを開けるとそこには戸愚呂弟と、今大会出場のオーナー達が勢ぞろいだった。

窓に映ったリングを見ると遠目に飛影と目があった。
私は覚悟を決めると足を踏み出し、部屋へと入った。

「大会本部が、一補欠員に何の御用でしょうか?」

「お初にお目にかかります。戸愚呂チームのオーナーの左京と申します。
是非ともあなたとお話がしたくてね。わざわざお越しいただいて申し訳ない。」

「私なんかに何のお話でしょうか?」

「まーそー警戒なさらずに。お掛けください。
浦飯チームのオーナーであるコエンマさんもどうぞ。」

そう言われ私達は席の間にジョルジュを立たすと席に着いた。

「何かお飲みになられますか?」

「いえ、お構いなく。」

私は断りを入れると本題に入るように促した。

 

「まだ守護者との契約がお済みでない様ですが。」

「ええ、まだ決めていませんので。」

私はあえて決めている事は言わなかった。
言えば飛影を攻撃されてしまう可能性がある、出来る限りの危険は避けたかった。

「それなら提案なんですが、この大会で優勝したチームから守護者を選ぶと言うのはどうでしょうか?」

左京の出した提案に想定ないだった私は動揺する事なく、左京を見つめた。
コエンマは少し動揺しているが、私の姿を見て落ち着きを取り戻す。

「何か勘違いをされていませんか?」

クスリと笑いながら左京を見るとニヤリと笑っていたが、他のオーナー達が動揺し始める。

「癒術師の特性をもう少しご理解いただいた方がいいかと思います。
守護者は誰にでもなれるわけではありません。」

私の一言に一気に他のオーナー達の顔色が変わる。

「ぜひ詳しく教えていただけますか?」

左京は相変わらずニヤリと余裕の笑みを浮かべている。

「守護者との契約は情を交わさなくてはいけません。
その判断は私がするのではなく仙華球がするんです。妖術によって操られる可能性を排除する為に。
だから守護者になる前に私に愛されなければいけない。
自分の命を預ける相手です。そう易々と決めれるものではありません。
ましてや一生に一度しか契約は出来ないんです。
皆さんは私の妖力増幅の能力をお望なんですよね?」


私ははっきりと言った後、持てる妖力を身体の周りに放出した。

その瞬間、部屋の窓・蛍光灯は大きな音を立てて割れた。

「妖力を考えれば、私はS級クラスの妖怪です。
そう易々と手に入る者じゃない。D級以下の者は私に触れる事すらできない。だてに世界一高嶺の花と呼ばれる癒術師 鳴鈴実ではありません。
その事を肝に銘じておいてください。
心配しなくても皆さんの希望通り、優勝チームの誰かと契約する確率は高くなるかもしれません。
私を守る者は強くないといけない。
あなた達の様な奴らから守らないといけないんですからね。」

私はそう言い、席を立つと笑顔で部屋を後にした。
コエンマは慌てて私の後を追って部屋を出てきた。
「そんな心配してくれなくても、私の守護者はもうきまってるの!」

私が呟いた言葉はコエンマに届いていた。

「契約を結ぶのか?」

「あら、聞こえちゃった??」

「ああ、わしは地獄耳でな。」

「うん。この大会が終わったらね。
私の力で勝ったと思われたくないんだって。」

そう言って笑って見せると、コエンマは私の頭を撫でた。

「そうか、飛影が…。よかったの。」

良い様のないくらい温かい微笑みを向けてくれた。


リングへ降りようと観客席に降りていくと1回戦最後の試合、幽助VS酎の戦いが始まっていた。

「鳴鈴実。」

飛影は観客席とリングを分ける壁の上から私を呼んで、そっと手を差し伸べてくれていた。
私はその手を取ると飛影に抱きあげられてリングへと降りた。

「どーなったの!?」

「心配するな、蔵馬と俺が勝ってこれで終わりだ。」

「良かった。それにしても飛影!」

私は抱えられた時に気付いた飛影の右腕を掴むと、飛影は顔をしかめた。

「なにこの腕!?一体何したの?」

「魔界の炎を呼んだんですよ。邪王炎刹拳を使ったんです。」

声のする方を見ると蔵馬が座っていた。

「蔵馬も怪我してるし…。」

私はみんなの姿を見てもう一度この大会がどんなものかを思い知った。

「とりあえず蔵馬から先に治すね。」

そう言って蔵馬の横に座ると私は妖気を集中させた。

髪は金色になり、手を赤い妖気が包む。

「綺麗な色ですね。」

そう言って蔵馬は私の髪に手を伸ばして指で梳かしていく。

「はい、終わったよ。さすがに服は治せないけど(笑)」

蔵馬は身体のあちこちを見渡し、感心した様子でありがとうと言って、茶色に戻った私の頭を撫でた。

「飛影は帰ってからね。時間かかるから。」

私はそう言って飛影の右手を指差した。

リングの上では幽助と酎の肉弾戦、ナイフエッジ・デスマッチが始まっていた。


結局幽助の頭突きで決着が着いた。

決着がついたとたん会場からは六遊怪へのヤジが飛んでいる、それに腹を立てた幽助は観客向かって吠えていた。

「うるせぇぇぇ!!
ぐだぐだ言ってねぇでおりてこいやコラァ!
文句あんならオレが相手だ、とことんやってやんぜ!!」

会場は静かになり、私達は退場した。


次へ