人間界に来て1ヶ月。
暗黒武術会出場まで残り2週間。
蔵馬と桑原君・玄海さんと幽助、それぞれ家から一山超えた所で昼夜かかわらず特訓を続けていた。
でも、必ず玄海さんは夜になると私の為に家へ帰ってきて朝まではいてくれる。
私が覚醒した事を魔界で感づいている者が出てきているかもしれない。
人間界に紛れている妖怪に狙われる可能性があるからと、私が一人なる事はなかった。
「今日から2日程、悪いけど私ゃ帰ってこれないからね。」
夕食を終え片付けをしていると唐突に話しだした。
「えっ!!私一人になるんですか!?」
私は慌てて玄海さんを見た。
「心配ないよ。あんたが家に来てから野良犬が紛れ込んで番犬になったみたいだからね。
もし不安なら門の横の木にでも行ってみな。」
そう言って出ていってしまった。
「野良犬???」
私は縁側で夕涼みをしながら、フッと門の方を見たけど野良犬どころか動物の気配すらなかった。
少し不安になって私は寝室に戻るとそのまま布団に潜り込んだ。
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私は夜中にバッと目が覚めた。
「血の匂いがする…!!」
私は慌てて外に出て、血の匂いをたどって行くと、さっき玄海さんが言っていた門の横の木に辿り着いた。
木を見上げていると何の気配もなく誰かが木から降りてきた。
「こんな夜中に何をフラフラしている。」
「飛影!?
怪我してる!?」
「これくらい舐めとけば治る。」
そう言って腕の傷口の血をペロリと舐めた。
よく見ると左の腕だけでなく、脇腹からも出血してる。
私は慌てて飛影の腕を掴んだ。
「おい!」
「だめ!私の前で流血したままなんて許さない。」
そう言って縁側まで連れて行った。
飛影を縁側に座らせて隣にすわる。
月明かりの下、私は意識を右手に集中させた。
自分の肩からはらりと落ちた髪が金色に変わっている。
飛影は何も言わずに髪の色が変わるのを呆然と見ていた。
「ちょっと痛熱いかもしれないけどじっとしてて。」
そっと飛影の怪我している腕に手をかざすと、私の手は赤く淡い光に包まれる。
そして傷口を撫でると傷は跡形もなく消えた。
「上脱いで。」
私は脇腹を指さして言うと飛影はため息をつきながら、しょうがないと言わんばかりの顔で上服を脱いだ。
私はさっきよりも少し深い傷に顔をしかながら、撫でるように手を添えると一瞬飛影の顔が少し歪む。
「ごめん。傷が深い分刺激が強いかも。ちょっと我慢して。」
私はそう言うとさっきよりもゆっくりと傷口に沿って手をあてた。
私が手を離すと飛影は感心する様に傷のあった場所に触れていた。
「便利なもんだな。」
「昔は同じ様な傷を直すのに何時間もかかってたからね。」
私は額の汗を手で拭った。
簡単そうに見えてかなりの妖気と集中力を使う。
時間をかければ自分の負担は軽減するが、それでは飛影が途中で止めてしまいそうで、出きる限りの力を使っていた。
飛影に顔を向けると頬に流れた汗を拭ってくれた。
「こんな傷に本気でかかるな。」
そう言って私を見つめていた。
「折角だから成長を見せておこうと思って。」
私は笑いながら飛影を見つめた。
月明かりに照らされて、飛影の瞳が妖艶なまなざしへと変わる。
次の瞬間、私の背中は縁側の床についていた。
「癒術師と交わると妖力が上がるらしいな。
・・・幸い今夜は玄海もいない。」
飛影がニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「一時的には1クラスぐらいあがるって言われてる。
でも決して持続するものじゃない。」
私は動揺する気持ちを抑えこんで平然を装ってまっすぐ飛影を見つめた。
どれぐらいの時間そうしていたかわからない。
きっといくら私が動揺を隠そうとしたところで飛影は気付いている。
飛影に抱かれるのを拒否していた訳ではない。
ただ妖力の為だけに抱かれる現実を、私はきっと受け止められない。
暗黒武術会の為に妖力の増幅を、と思っているのかもしれない。
それに応えてあげたい気持ちがない訳でもない、ただ…。
じっと何かを探る様に私の瞳を見つめていた飛影の顔が徐々に近づいてくる。
思わずギュッと目を閉じた。
私の唇に飛影のひんやりとした唇が触れる。
そして首筋にも、そのまま下へと舌を這わされる。
私の身体がビクンとはねた。
「フン。
どうせ抱くなら大会の前日の方が効率がいい。」
いつの間にか飛影は私から身体を離して起き上がっていた。
私は慌てて起き上がろうとしても体に力が入らなかった。
そのままの体勢で飛影を見上げていると、ふわりと体が宙に浮いた。
「え????」
「安心して寝ろ。
何かあれば声を上げるなりなんなりしろ。」
飛影はそう言うと私を寝室へと運び、布団に降ろす。
月明かりを背にしているおかげで飛影の表情はみえなかった。
そしてそのまま門へ向かって歩いて行った。