同じ頃、蔵馬と別れた飛影は昼間特訓をしている岩山に来ていた。
幽助達とは違い、玄海の家からさほど離れていない場所だった。
理由は簡単。
昼間でも何かあればすぐに鳴鈴実の元へ行ける様にだった。
飛影本人は薄々自分の感情に気づいていた。
鳴鈴実と再会してから飛影の中で守ってやりたい気持ちが日に日に強くなっていった。
無事に雪菜も探し出せ、今は安全な氷河の国に帰っている。
一つ安心出来たからこそ鳴鈴実の存在にきちんと目を向けられている。
飛影は淡く光る満月を眺めながら、さっきの鳴鈴実を思い出す。
恐怖に怯える目でも、拒絶の目でもなかった。
俺を受け入れる為に自分の気持ちと戦っている目だった。
そんな目で見つめられたまま、微かに震える体をいくら妖力の為とはいえ抱く気になれなかった。
いや、正確に言うと抱けなかった。
あんな顔をさせたいわけじゃない。
200年忘れられなかった優しい笑顔が見たいと思った。
もっと艶やかな顔が見たいとさえ思った。
馬鹿馬鹿しいと思う反面、情けないと思った。
魔界でも多少名を知られる俺が、女一人に振り回されている気がしたからだった。
死んだと思っていた鳴鈴実が無事覚醒を済ませた事。
あの時渡した、今では染みついていた妖力もない、ただのピアスをまだはめていた事。
飛影を見た瞬間泣きそうになっていた事。
もう一度ピアスを渡してやると大事そうに受け取って嬉しそうにはめていた事。
本心を言えば飛影は嬉しかったのだ。
蔵馬は妖力の為に鳴鈴実に近づいていると思って警戒をしている。
飛影はそう思っていた。
飛影自身そのつもりがまったくなかったかと言えば否定はできなかった。
でも今夜、自分には出来ないと思い知らされた。
鳴鈴実を傷つけたくない。
純粋に鳴鈴実の守護者になって守ってやりたいと言う気持ちが飛影の心に芽生え始めた。
嗚鈴実が心奥にある闇をかくした、あの悲しい笑顔をもう見たくないと思っていた。
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飛影が出ていってしばらくしてから私はもう一度縁側に座っていた。
一体自分はどうしたいのか。
もちろん飛影に守護者になってもらいたい。
でもそれは容易い事ではない。
可能性を考えると無理に等しい。
じゃーせめて飛影のそばに居続けたい。
コエンマは蔵馬をと言うがきっと契約は成立しない。
蔵馬の気持ちは分かっていたし、蔵馬が飛影を警戒している事にも気付いている。
それでも自分にはこの気持ちをどーする事もできなかった。
飛影がたまに見せてくれる自分を見る時の優しい眼差し。
玄海さんが言っていた野良犬は飛影の事だった。
私がここにきてからずっと陰で守ってくれていた事が嬉しかった。
そしてさっきの飛影の目。
力が欲しいという目じゃなかった。
艶やかな、男の目だった。
優しいキスと首筋に残していった赤い花。
飛影が本当に力が欲しくてあんな行動にでたのなら、大会前日の夜に必ずやってくる。
その日にもう一度飛影の気持ちを確かめようと決めた。
3人は別々の場所で、自分の心と同じように淡い光を放ちながら揺らめく満月を、思い思いの気持ちを抱いて見上げていた。