「飛影はいりますよ。」
部屋に入って来たのは蔵馬だった。
飛影はソファーで眠る鳴鈴実の姿に目をやると小さく舌打ちをする。
「なんの用だ?」
普段から愛想の悪い低い声は更に低さを増していた。
「貴方の腕の様子を…」
蔵馬は話しながらソファーで眠っている鳴鈴実の姿に目を見張り、言葉に詰まってしまう。
着物は乱れ、床には帯が落ちたまま、胸元には赤い花が無数に咲いていた。
シーツを掛けてあるが、何があったのかは聞くまでもない状態だった。
規則正しく寝息を立てている鳴鈴実の頬はまだほんのり赤く、さっきの余韻を残したままだった。更に目尻には涙の伝った後が残っていた。
だが、鳴鈴実の左胸には守護者との契約の刺青は記されてなかった。
「彼女を抱いたんですか?」
飛影の妖気は試合前よりも高まっていた事に、蔵馬は最悪の想像をしていた。
飛影は守護者の資格がなかった。即ち、鳴鈴実に情を持っていなかったと。
そう考えた時には窓枠に座る飛影の胸ぐらを掴んでいた。
「フン。勘違いするな。抱いてなどいない。
まだな…。」
「どう言う事ですか!?」
「俺の妖力回復の為にあいつの妖力を流し込まれた。
そのまま少し歯止めが利かなくなっただけだ。
俺はこの大会が終わるまで契約はしないと言ったはずだ。」
「それならあなたのその妖力は一体どう言うことですか!?」
怒りに任せて掴んだ胸ぐらから手を離すと、蔵馬は余裕の笑みを浮かべる飛影を納得がいかないとばかりに睨んでいた。
「あいつの妖気の流れがなんとなくわかった。
あいつと交われば妖力が増すと言う原理がわかっただけだ。」
「ちゃんと説明してください!」
「あいつの妖気は自分の粘膜を通して相手に送り込まれる。
あいつは交わる事で身体が興奮状態になると普段より妖気が膨れ上がり、その状態で自分の粘膜から相手の体に無意識に妖力を送り込む。最後まで抱かずとも興奮させるとそうなるようだ。おかげで俺の妖力が増したと言う事だ。」
飛影の説明に蔵馬は納得したものの、今度はほんのりと頬を赤く染めていた。
「フン、貴様いらん想像はするなよ。」
蔵馬は不機嫌そうに自分の表情を見る飛影から目を逸らすと、鳴鈴実に近寄り抱き上げようとした。
「それなら相当の妖力を使ったはずです、せめてベッドで」
「そのままがいいらしい。いくら俺でもそれくらいは気を使うぞ。」
蔵馬が言い終わる前に飛影は心外だと言わんばかりに蔵馬の動きを制した。
「ん…。」
抱き上げられそうになった身体の振動で私は目を覚ました。
「すみません、起こしてしまいましたね。」
「ううん。蔵馬どうしたの?」
私はシーツで身体を包むと、身体を起こした。
「飛影の腕の様子を見に来たんですが、心配いらなかったみたいですね。」
そう言って優しく微笑むと私の頭を撫でてくれる。
「でも、無理はいけませんよ。ローズティー入れてきますね。」
そう言って部屋を出ていった。
私は床に落ちていた帯とシーツに包った自分の姿を見て一瞬顔を赤くした。
「今更気付いたのか?」
飛影はいつの間にか私の横に座ると私の髪をそっと指で梳かしてくれる。
「興奮すると色が変わるんだな。」
そう言って喉を鳴らして笑った。
私は更に顔を赤くすると、飛影はそっと腕の中に閉じ込められる、
温かい温もりと、飛影の匂いに私は目を閉じて身体を預けた。
優しく髪を撫でながら飛影は私が寝る前に聞いた『前以上』の理由を教えてくれた。自分の体や能力の事なのに、自分よりも良く分かっている相手がいる事が不思議で少しびっくりした。
「お前の意志とは関係ない事だ、俺以外に触れさせるなよ。」
そう言って優しくキスしてくれる。
私はそれに応えるように飛影の首に腕をまわすと包んでいたシーツが床に落ち、慌てて取ろうと飛影の回した腕を放そうとするとまた押し倒される。
「飛影?」
「黙ってろ。」
そう言って私の身体中を確かめるようにキスしていく。
あまりに優しいキスにくすぐったくなって笑いながら身を捩ると満足そうに顔をあげた。
「蔵馬が戻る前に着直せ。」
そう言って帯を拾い上げてくれた。
私はさっと着物を羽織り直して、帯を閉めた。