夕方から降りだした雨は次第に激しさを増していき、無意識に縁側の近くを通るたびに外を気にしていた。
「そんなに雨が気になるかい?」
玄海さんは私の様子を見て問いかけた。
「あっ、いえ…」
「何だい?」
「きっとワンちゃん濡れるなって…。」
玄海さんがいなかった夜から始めての雨。
私はわざと飛影とは言わなかったが、それに気付いた玄海さんはクスリと笑ってお茶を飲んだ。
「お前がそんなに気になるなら、私がいない間、縁側になら置いてやってもいいよ。」
「本当ですか!?」
「ああ、ただしあの犬がこればの話だがね。」
そう言ってまた幽助との修行をする為に出ていった。
あの日から2日に1度は夜も修行に行ってしまう。
私は傘をさして飛影のいるであろう木の下へとやってきたが、もしかしたらいないかもしれないと思って見上げていると飛影の声がした。
「何か用か?」
「雨降ってるから、きっと濡れてると思って…。」
「雨ぐらい大して邪魔にならん。」
「今日ぐらい縁側にいて。
気になって私が寝れないから。」
「フン。しょうがない。」
飛影はそう言うと木から下りて縁側へと歩いて行く背を私は慌てて追った。
バスタオルで頭を拭きながら、縁側の柱にもたれて座っている飛影の横に腰を下ろした。
「明日も雨かな?」
「しらん。」
会話はほとんどなかった。
それでも嫌な感じはなく、むしろその沈黙が落ち着く。
私はしばらく縁側に座って空を見上げていた。
「お前と会った日も雨だった。」
飛影は私と同じように真っ暗な空を見上げながらポツポツと話しだした。
「うん。この前も言ったけど、目が覚めたら飛影いなかった。」
「雨があがるまでと言っただろ。」
「起してくれたら良かったのに。」
そう言って昔を思い出してプウっと頬を膨らます。
「お前が探している奴はどんな奴だ?
気が向いたら邪眼で探してやってもいい。」
「ううん、いいの。知ってるから。」
「探してるんじゃなかったのか!?」
飛影は驚いた顔をしていた。
「探してたけど見つけた。」
「ならさっさと守護者としての契約を結べ。」
「出来ない。きっと断られるから…。」
思わず俯いてしまう。
「蔵馬と契約するのか?」
「なんでその事!?…私は蔵馬とは契約できない。好きだけど、愛情とは違うから。」
私は苦笑いを浮かべて飛影の顔を見た。
「ならどうするんだ?」
「コエンマに守護者を持たないって言ったら怒られちた(笑)」
「当たり前だ。お前を狙う奴は多い。」
「そんなに多い?」
「今のままでは魔界になど到底帰れんな。」
「そっか…。
情を交わす必要がなかったらよかったのにな…。」
私はため息をつきながら廊下に大の字に寝転がった。
「命を預ける事になるんだ。誰でも良い分けにはいかないだろ。」
「もしも必要がなかったら、飛影は癒術師の守護者になりたいと思う?」
私は覚悟を決めて聞いてみた。
「相手による。少なくてもお前なら守護者になってもいいだろうな。」
「私?」
「ああ。お前次第だがな。」
私はその一言にびっくりして飛影の顔た。
「驚く事でもないだろう。」
「いや…驚くでしょ?
だって死ぬまで守るんだよ??」
「どこでどうなっているのか気にする位なら、そばに置いておく方が効率がいい。」
「心配して探してくれてたの?」
飛影は再会した時に私が死んでいると思っていた。
霊界の結界の中にいた私は邪眼には映らない。
黙ってしまった飛影の言葉を待ちながら、どうせ断られるなら言わないでおこうと思っていた気持ちがぐらぐらと揺れる。
いっそ当たって砕けた方がスッキリするのかもしれない。
断られれば飛影の言葉どおり、傍にいてくれる間だけでも一緒に居れればいい。
私は迷っていた。