『ナニコレナニコレ珍百景!!アラウンド・ザ・ワールド!!!!』
『みなさ~ん、明けましておめでとうございます!これまでにも世界中の「ナニコレ!?」な珍百景を体当たりで取材してきた当番組、新春初放送!記念すべき第一回目の珍百景は~ズバリ!!“パドキア共和国ベントラ地区、山の中に突如現れる巨大な扉がある光景”!!』
『おお~!!なんですかなんですか!そんなの本当にあるんですかあ~!?』
『はい!こちらはですね、実は以前から頻繁に情報が寄せられていたのですがっ、あまりに辺鄙な土地のために、なかなか取材に行けず、確かめられずにいたんです!!』
『ほうほう!』
『しかし!そうこうしているうちに投稿数は鰻のぼりに!そしてついにダブルミリオンに到達してしまった今回、ついに……ついにリポーターが真相を調べに遥々、極寒のパドキア共和国まで行ってまいりました!!!それでは、VTRスタート!!』
***
「あ、コレのオンエアって今日だったんだ!ベントラ港で、私とイルミも取材を受けたんですよ――って、うひゃあっ!?なんですかシルバさん、黒豆の爪楊枝で脅さないで下さいよ怖い!!」
「言い残すことはそれだけか」
「ススストップストップ!!言っときますけど投稿したのは私じゃないですよ!?この番組って、同じ国に住む複数の人の応募がないと採用されないんですから!文句言うなら20万回投稿してくれたパドキア国民に向かって言って下さい!!」
「ぐ……っ!!」
「ポー、父さんとなに言い争ってるの――って、あれ?もしかしてこの番組」
「イルミ!ちょうどいい所に来たね、今から始まるよ。ナニコレ珍百景、アラウンドザワールド!」
「俺とポーが映るかもしれないやつだね。俺も見よっと。ポー、ソファもうちょっと詰めて」
「うんっ!」
「お前もグルだったのか、イルミ……」
「グル?別に、家の中に取材陣が詰め寄せるわけじゃないんだしいいじゃない。父さんは号泣観光バスのツアーだって黙認してるだろ?同じだよ」
「それとこれとは……何というかこう、地元の観光ツアーとテレビでは規模が違うだろう……」
「同じだよ。家の宣伝にもなって丁度いいじゃない。ねえ、爺ちゃん達」
「ん?おお、構わん構わん。家も本名も隠しておらんしのー」
「親父、だが――」
「あー!!映ったあ!イルミと私、リポーターさんに試しの門のこと聞かれてるっ!!」
「いいね、新婚さんいらっしゃいって感じだね」
「イル兄……それ、別番組だからなコフー」
「うわ、いたのミル。鏡餅かと思った」
「誰がデブで鏡餅だコフ――!!」
「イルミ。お前には殺し屋としての慎重さと言うものがないのか。こんなに堂々と顔を晒して、万が一ターゲットに感づかれでもしたらどうす……」
「あーっ!ねえ、見てみて、ゼノさんとマハさんがジョギング中に声かけられてるー!」
「!!?」
「あー、ほんとだね。うわあ、わざとらしい。二人とも、第一村人みたいな顔して」
「イル兄。それも別の番組だぜコフー」
「お、お、おや、親父達までっ!?全く、何を考えているんだ何を!!」
「そう怒るなシルバ。いいじゃないか、ただの正月番組なんじゃし」
「父さん。正月くらい目くじら立てるのやめたら?」
「……」
「貴方!正月早々、なにをむさ苦しく怒鳴っていらっしゃるの?あら、こ、この番組は……カルトちゃん!!」
「はい。間違いございません、お母様」
「間違いないって――あーっ!?キキョウさんとカルトくんだ!二人も取材されに行ってたの?ずるいー!!」
「うわあ、わざとらしい。二人とも、となりの人間国宝さんみたいな顔して」
「あのさあ、イル兄。しつこいようだけどそれも別番組だからなコフー!?」
「キキョウ。これはどういうことなんだ……」
「ウオホホホホホホホッ!!いえね、偶然たまたま、外の空気が吸いたくなってカルトちゃんとお散歩してたら取材陣に囲まれてしまって……リポーターったら興奮して、こんな山の中に絶世の美女と美少女を発見!ですって!!ウオホホホホホホオホホホホ!!」
「……」
「父さん、正月くらい青筋立てるのやめなよ」
「そうそう。元旦くらい、暗殺はお餅に任せてのんびりしましょうよー」
「うるさいっ!!俺は……物心ついてからというもの、かれこれ50年以上もこの番組を見続けてきたんだ。そして、いつか!いつかはうちが取り上げられないものかと、コツコツ投稿を続けながら待ちわびてきた!!それなのに……その記念すべき放送に、ゾルディック家当主の俺を差し置いて!!」
「ななな泣かないで下さいよシルバさん!!」
「まあまあ、仕方のない人」
「自業自得だよ。“殺し屋に年末も年始もない”とか言っちゃってさ。年末ギリギリまで仕事突っ込んだのは父さんじゃないか。俺達は、たまたま休みだったんだよ」
「……」
「おや、どこに行くんじゃシルバ」
「……ミケの散歩に行ってくる」
「……」
「……」
「……行っちゃった。ねえ、イルミー。話しを聞いてたらなんだか気の毒に思えてきたよ。シルバさんはお仕事してくれてたわけだしさ、なのに、私達だけいい目見たみたいで――」
「まあいいんじゃない、気にしなくて。これに懲りて、来年は父さんも年末返上で仕事するとか言い出さなくなるだろうしさ。そしたら、来年こそは年越しデートできるじゃない」
「わあ!それもそうだねー……って、違う!やっぱり可哀想だよ!なんとかならないかなあ……うーん、と……ああ!そうだ!!」
「携帯なんか取り出して、どうするんだよポー姉コフー?」
「投稿するの!“巨大すぎる犬を連れて山中を散歩する、渋めのナイスミドルがいる光景”って!携帯からでもできるよねっ?」
「……」
「……」
「……」
「……あれ、もしかしてダメ?」
「ううん。言われてみればものすごくシュールだなと思って」
「シュール過ぎて笑えて来たぜコフ―……」
「よかった!そうだな~、パドキアの漁師仲間や美食屋さんたち、学生さん達に声をかけて投稿してもらおうっと。ふふふ~、採用されるといいなあ!」
ぎゅ、と送信完了した携帯電話を握り締める。
遠くの森で、ミケを連れたシルバがくしゃみしたとかしなかったとか……。
【おまけ】
「ポー」
「なんですか、シルバさん?」
「今テレビでやっている『今日のワンコ』という番組だが――誰でも投稿できるのか?」
「……さてはミケを投稿する気ですね?」