ある映画後の奴等の暴走!

 

 

 

 

 

 

みなさまこんにちは。

 

 

 

ポーです。

 

 

 

1月12日、私はとある大事な用事があってお休みを取っていました。

 

 

 

イルミはお仕事中。

 

 

 

彼には街に映画を観に行くと伝えてあるので、私がどこでなにをしているのか知りません。

 

 

 

言うつもりもありません。

 

 

 

だって、言ったらきっと止められると思ったからね。

 

 

 

自分だって、バカなことをしようとしてると思ってるけど。

 

 

 

――でも。

 

 

 

「……まさか、こんなに上手くいくだなんて」

 

 

 

激しく炎上する、教会のような建物。

 

 

 

熱と煙の渦巻くその中心に、私は佇んでいた。

 

 

 

ついさっきまで、ここにはゴンやキルア、クラピカにレオリオ、そして蜘蛛のメンバーが勢ぞろいしていたのだけれど――活劇を終え、彼らは一人残らず去っていった。

 

 

 

そしてそして、彼らが死闘を繰り広げている間、“嘘つきな隠れ蓑”で姿を隠していた私は、ようやく目的を達成することができたのである。

 

 

 

ふっふっふっ。

 

 

 

「……元の世界に一度戻ったことのある菜々実から、1月12日にHUNTER×HUNTER初の映画化、“緋色の幻影”が上映されるって情報は聞いてたけど――でも、まさか、本当に映画上映の同日同時刻に、映画と同じ出来事がこのHUNTER世界でも起こるとは思わなかったよ」

 

 

 

無論、何が起こるかは事前にパンフレットを読み込んで把握済みである。

 

 

 

そして、大まかであれストーリーラインを知った私には、どうしても、どーーーーーーーしても、手に入れたいものができてしまったんである。

 

 

 

誰もいなくなった建物の中、私は足元に横たわっているものにギュウッとしがみついた。

 

 

 

「おまたせチャイナ服姿の等身大イルミ人形――っっ!! よおし、回収完了! さっさと家に帰って、ミルキくんにメンテナンスしてもらおうっと!!」

 

 

 

「待った★」

 

 

 

うわお!!

 

 

 

チャイナ姿のイルミを抱きかかえ、意気揚々と走りだそうとした足元にトランプうううううううううううううっ!!

 

 

 

だ、誰もいないと思ってたのに!!

 

 

 

倒壊する建物の中、音もなく現れたのはかの意地悪き奇術師である。

 

 

 

彼はイルミの人形を背中に抱えたまま硬直した私を一瞥し、面白いものを見つけた、とばかりに金色の瞳を細めてみせた。

 

 

 

き、気がつかなかったあああっ!!

 

 

 

「ヒソカさん!?なんでまだいるんですか、皆と一緒に行ったんじゃなかったんですか!」

 

 

 

「クックックッ☆なんだか、妙に見知った気配がするなあと思ってね。去ったフリをして、こっそり柱の陰から様子を伺っていたのさ。で?ここでナニしてるんだい、ポー」

 

 

 

「ナニって、わ、私はただ、ちょっとイルミの人形を回収に……」

 

 

 

「☆」

 

 

 

「だって!!イルミの等身大人形ですよっ、しかもチャイナ服!!このまま燃しちゃうなんて勿体無いじゃないですか――っ!!本当は光を見つめるゴンの瞳がはまった状態のが欲しかったですけど、映……みんなの邪魔をしちゃいけないと思って、終わるまで我慢してたんです!!止めないで下さい。止めたってコレは私が持って帰るんですからね――っっ!!」

 

 

 

「泣くなよ★そういう事なら、別に止めやしないけど……持って帰ってどうするの?」

 

 

 

「破損部位をミルキくんに直してもらって、抱き枕にします!!」

 

 

 

「あ、いいなあ☆う~ん、それを聞いたら、なんだかボクも欲しくなってきちゃったよ。ソレ、譲ってくれないかい?」

 

 

 

「ダメです!!ていうか、なんでヒソカさんがイルミの人形を欲しがるんですか。そこにクロロのも落ちてるじゃないですか。抱き枕にするなら、そっちにして下さいよ」

 

 

 

「クロロを抱き枕に……!!?クックックッ!!その発想はなかったなぁ~、いいねえ。じゃ、そうしよっと☆☆☆」

 

 

 

よっこらしょ。

 

 

 

二人してイルミとクロロの等身大人形を担ぎ上げ、では退散と思ったその時だ。

 

 

 

「待てゴルアアアアアアアアア――っ!!」

 

 

 

「話は全部聞かせてもらたね!!」

 

 

 

「うん。抜け駆けはずるいなあ、ヒソカ」

 

 

 

「そうですよ。団長の等身大フィギュア、わたしも欲しい~」

 

 

 

「俺も欲しい……」

 

 

 

「ぼくも―」

 

 

 

フィンクスさん!フェイタンさん!シャルナークさん!シズクさん!フランクリンさん!コルトピさん……!!

 

 

 

うわあもう、続々と全員戻って来たんですか皆さん!!

 

 

 

建物は炎と熱で崩壊寸前なんですよ皆さん!!

 

 

 

なんて愛だ……!!

 

 

 

「団長から手を放せ、ヒソカ」

 

 

 

おおう!

 

 

 

チャキ、と鋭い金属音に振り返ると、そこにはバッチリ刀を構えたノブナガさん(黒髪ロング私服バージョン)が。

 

 

 

黒髪ロング私服バージョンが――!!!

 

 

 

「テメェら、そこから一歩でも動いたら、斬るぜ……!」

 

 

 

「あーあ。クロロのフィギュア目当てに皆戻ってきちゃったのかい。マチ、君も?」

 

 

 

「ア、アタシは別に団長の人形なんて欲しくないけど、ヒソカ!アンタにだけはいろんな意味で渡したくないからね!!」

 

 

 

和服姿でビシッと人差し指を突きつけるマチさんに、ヒソカさんは増々笑みを深くした。

 

 

 

「ん~☆さてはマチ、ボクにヤキモチ焼いてるの?可愛いなあ。じゃ、クロロはやめて君の人形を持ち帰ることにするよ☆」

 

 

 

「「「させるかこの野郎!!」」」

 

 

 

異口同音に叫ぶ旅団男性陣。

 

 

 

その気持ち、分からないでもない。

 

 

 

「欲張りさんだなあ。マチか団長か、どっちかにしなよ★」

 

 

 

「団長は俺のもんだあ――!!」

 

 

 

「あっ!ズルいよノブナガ、オレも団長がいいんだからね!!」

 

 

 

「わたしも団長がいいです。ていうか、むしろ首から上だけでいいです」

 

 

 

「だからって引っこ抜くなシズク――!!」

 

 

 

「あれ、そういやシズクの人形がいつの間にかねぇぞ」

 

 

 

「気のせいね」

 

 

 

「……ちょっと、そのもっこりした服の下見せてみろフェイ!!」

 

 

 

「あっ!ナニするね!!」

 

 

 

「それじゃあ、ぼくはマチを貰うね……」

 

 

 

「コルトピ★マチは渡さないって言ってるだろう?ていうか、キミがキミの能力で団長とマチのフィギュアの数を増やせば解決する話じゃないか。オリジナルは二体ともボクが所持するけれど、皆にはコピーしたフィギュアをおすそわけするよ☆」

 

 

 

「んなもん、一日で消えちまうだろうが――!!」

 

 

 

「テメェ、どさくさに紛れて団長とマチの両方持ち去ろうとするんじゃねえ!!叩き斬ってやるこのド変態野郎!!!」

 

 

 

「クックックッ★受けて立つよ!!」

 

 

 

わあ……。

 

 

 

わあー。

 

 

 

激闘、再び。

 

 

 

映画では今頃、晴れ渡った空の下、テロップが流れている頃だっていうのに。

 

 

 

裏ではこんな激闘が繰り広げられているだなんて。

 

 

 

映画見てるひとは皆知らないぞ―。

 

 

 

片や、クロロとマチの人形を担ぎ、団員たちの攻撃を華麗にいなすヒソカさん。

 

 

 

激昂し、襲いかかる団員たち。

 

 

 

うーん、映画本編のクライマックスより、こっちの方がクライマックスしてる気がするのは気のせいか?

 

 

 

「えーっと……でも、どうやら争点となっているのはクロロとマチさんとシズクさんの人形のようなので、私は行ってもいいよね?イルミのチャイナ服人形、頂いていきまーす」

 

 

 

「待った」

 

 

 

ガシイ!

 

 

 

肩をひっつかまれ、振り向いた先には――

 

 

 

「イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!?」

 

 

 

サラリ、と流れる黒髪が目にまぶしい。

 

 

 

シンプルな黒のハイネックノースリーブの暗殺服に身を包んだイルミが、無表情に立っていた。

 

 

 

右手を腰に。

 

 

 

「ここで何してるの?」

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

ヒュ……、と熱風を穿つ軌跡。

 

 

 

イルミの針が、耳元ギリギリをかすめていった。

 

 

 

「今日は街に映画を観に行くって言ってたよね。それなのに、ここで何してるの?」

 

 

 

「えええええっとっっ、いいいいつものごとく厄介事に巻き込まれました……」

 

 

 

「ふーんそう。じゃあ、迎えに来てあげたからとっとと帰ろうか。その肩に担いでいる、不気味なものを今すぐおろして。行くよ、ポー」

 

 

 

「ヤダー!!このチャイナ服のイルミは持って帰って抱き枕にするんだもん!!チャイナ服のイルミを置いて行くなんて絶対嫌っ!!チャイナ服のイルミを家に置くのがダメなら、職場に飾って眺めて癒されるもん痛いっ!!」

 

 

 

スコンスコーン!と、立て続けにエノキを投げつけてくるイルミである。

 

 

 

「チャイナ服チャイナ服って、連呼するのやめてくれないかな。しかもその服、随分前に着てたやつだよ。デザインが古すぎる。恥かしいから、このままここで燃やして闇に葬って」

 

 

 

「ダメだって言ってるでしょ!なにが気に入らないの、この肩と背中のむき出し具合、最高だよ!!胸の合わせのところなんか胸筋の割れ目がチラッと覗くようにデザイニングされてて今回の映画のスタッフさんは本当によく分かってくれてると思痛ーい!!」

 

 

 

「なに訳のわからないこと言ってるの。とにかくもう帰るよ。あいつらの戦闘も増々ヒートアップしてるみたいだし、この建物もそろそろ焼け落ちそうだ」

 

 

 

「いやああああああああああああああ強制連行するならチャイナイルミも連れて行くううううっ!!」

 

 

 

「ダメ。放して。いい加減にしないと怒るよ」

 

 

 

「じゃあ置いていく代わりに、イルミがチャイナ着て添い寝してください!」

 

 

 

「別にいいけど」

 

 

 

「いいの!?」

 

 

 

「いいよ。でも、ポーも一緒に着せるからね、俺とおそろいのチャイナ服」

 

 

 

「う……!し、下にズボン履くデザインなら――」

 

 

 

「却下」

 

 

 

「ズルい!!じゃあイルミもズボンなしのスリット入りチャイナ着させるからね!!」

 

 

 

「別にいいけど」

 

 

 

「いいの!!??」

 

 

 

「どうせ最後には脱がなきゃいけないんだし」

 

 

 

「……ちょっと待って、今なんかボソッと爆弾投下した気が」

 

 

 

「気のせいだよ。ほら、約束したからさっさとその不気味な人形を置いて、行くよ」

 

 

 

「うう……!ごめんね、チャイナイルミ……!!」

 

 

 

あとでこっそり回収に来るからね!!!

 

 

 

さりげなくしっかりと“驚愕の泡”でコーティングしたイルミ人形を残しつつ、私は映画激闘の地を後にしたのでした。

 

 

 

ちなみに、クロロ人形はイエス・キリストの遺体よろしく、旅団全員で10分割して持ち帰ったのだとか。

 

 

 

元四番のオモカゲさん!

 

 

 

貴方の作った人形は、ちゃんとみんなに愛されてますよ!