「明日から始まるオークションでの、俺たちの狙う獲物はーー全部だ。アンダーグラウンドオークションのお宝、丸ごとかっさらう」
「……本気かよ、団長。地下競売の競売は、世界中のヤクザが協定を組んで仕切ってる。手を出したら、世の中のスジモン、全員的に回すことになるんだぞ」
「怖いのか?」
「嬉しいんだよ……! 命じてくれ、団長。今すぐ!!」
「俺が許すーー殺せ。邪魔する奴は残らずな」
「……っ、ウオオオオオオオオオ大オオオオオオオーーーぶぐッ!?」
「ちょーっと待った」
にっこり不動の満面の笑み。雄たけびを上げるウボォーさんの大口にその辺の瓦礫を躊躇いなくねじ込んだのは、シャルナークさんだった。
あーあ、せっかくの名シーンだったのに。
でも、よく見ると他の団員達も、なんだか頭の痛そうな様子だ。
その原因はーーまあ、言うまでもないんだけど。
「どうした、シャル」
「どうした、じゃないだろ、団長!! ポーはともかく、何で退団になったヒソカやゾルディックの殺し屋にまで作戦への参加を許すんだよ!! いや、百歩譲ってそこまでならまだいいよ……でも!! この子達は何!?」
ビシイッ! と、指さされたのは、私の隣に仲良く並んで座っている、ゴンとキルアである。
「シャルの言うとおりだぜ。蜘蛛がガキ連れて盗みたぁ、いくらなんでも無茶苦茶だろ」
「ノブナガに同意するわけじゃないが、ワタシもそう思うね。大体、何でさも当然のようにこの場にいるのか、訳が分からないよ」
「それもそうだよなーー邪魔なら、ぶっ殺すか? 団ちょ……っ!?」
ズドドドドドドドドドドドドドドッシュウウウウ……ッ!!
ーーそんな、音と共に。
珍しく正装していたフィンクスさんが被っていたアレが、エノキまみれになって吹っ飛んだ。
一瞬のことである。
犯人は、言わずもがな。
「イルミぃ~、くっついてるときに殺気放つのやめてってば」
「ごめん。でも仕方ないじゃない。ーーそこの君、ゴンはともかく、うちのキルに手を出したら、その妙な帽子みたいに瞬殺するから。そのつもりでね」
ズズズ……とその御身から染み出す暗殺者オーラが、ぴったりと密着した背中越しに、私の身体にまでしみ込んでくる……!
てゆーか、いいかげん離して! 抱っこしながら座るのやめて!!
ーーって、さっきから言っても聞く耳もってくれないし。
何が一番恥ずかしいって、こんな様子のイルミを目の当たりにしたクロロ団長が、何やら憐れむような眼差しで私を見つめてくることだ。
ええい! それもこれも全部アンタのせいなんだぞ!!
「ち・な・み・に☆ ゴンに手を出せば、ボクが黙っちゃいないよ? この子達はボクの大切な青い果実なんだから、摘み取ろうとなんか、思うなよ★」
クックック、と、トランプ片手にほくそ笑むのはヒソカさん。
こちらも殺気はムンムンの様子で、ゴンとキルアの背後に控えている。
私は当然、二人の味方だから、これで5対13。
燭台に囲まれた瓦礫の上で頬杖をつき、ふむ、とクロロ団長は頷いた。
「触れると面倒くさそうだったからな。こいつらに俺達の邪魔をするつもりがないなら、このままスルーするつもりだったんだが……ダメか?」
「「ダメに決まってんだろーがーっ!!」」
おお、ノブナガさんとフィンクスさんが一緒に突っ込んだ。
珍しいこともあるもんだ……なんて、呑気に高みの見物を決め込んでいたら、少し離れた位置にいたマチさんが鋭い視線を向けてきた。
「何、ポーっとしてるんだい。こいつらを呼び込んだのはアンタだよ、ポー。ガキは仕事の邪魔になる、さっさと追い返すんだね」
「えっと……」
ううん、確かに、ここで二人にお引き取り頂くという選択肢もあるがーーしかし。
忘れてはいけない本編のストーリーライン。明日から始まるオークションからは、いよいよ、クラピカが参戦してくる。
殺された同胞たちの復讐のため、蜘蛛討伐に燃える彼を止めるには、ゴンとキルア、二人の存在が不可欠なのだ。
だから今、帰させるわけにはいかない。
例え、危険な場所に赴くとしてもーー居たたまれない気持ちで二人に目を向けると、すっく、とゴンが立ち上がった。
「嫌だ!! こんなところにポーを置いて帰れるもんか! 俺達に帰ってほしかったら、ポーも一緒に帰せ!!」
「俺も。アンタらのお頭さんが、ポーに変なことしないように見張ってないとな。なんたって、俺の姉ちゃんになる人なんだし?」
ね、姉ちゃんて……改めて言われるとちょっと恥ずかしいよ、キルア。
「ポー、かわいい。赤くなってる」
「イルミは黙ってて!!」
「あーっ!! もおーっ!! とにかく! このままじゃとてもじゃないけど、仕事なんて無理だからね、団長!! 」
わいわいガヤガヤ、個性の強い団員たちが、全員同時に自己主張を始めると、こうも騒がしくなるものなのだろうか。
うちの生徒達といい勝負だ……しかも、まとめ役であるはずのクロロ団長は、俺の話は終わったぞとばかりに読書に勤しんでおられるではないか。
ほっとけば収まるということなのだろうか……でも、それだとこの場は収まっても、いざミッションが始まったら、誰かが隙を見てゴンとキルアを殺そうとするかもしれない。
そうさせないためには、二人を彼らの『仲間』にしておかないと。
今、この場で。
「ーーはい、静粛に!!」
パン、と手を打ち、立ち上がる。
いつも、授業で生徒達が騒ぎ出した時と、同じように。
「先ほどクロロ団長さんが、『邪魔をしないなら放っておけ』と言いました。イルミもゴンもキルアも……それからヒソカさんも、私を助けにこの場に駆けつけてくれたんですから、手伝ってこそすれ、邪魔をすることはありません。では、団長の言うとり放っておくべきではありませんか? それよりも、明日に控えた大仕事の計画を立てる方が、先決ではないでしょうか」
「いや、でも流石に、子供はちょっとーー」
「彼らはただの子供じゃありません。私と一緒にハンター試験を受験して、ともに合格したハンターです。しかも、ルーキーで合格した超新星です。肉弾戦では私より、二人の方がずっと強いんですよ? そうですよね、ヒソカさん」
「クックックッ……★ なにしろ、このボクが目をかけている素材だからねぇ。実力のほどは、保証する☆」
「ああ、思い出した。そっちのつんつん頭、前に天空闘技場でアンタ相手に戦ってた子供か……確かに、ガキにしてはなかなかやるよ、そいつ。ただし、念についてはまだまだだね」
「マチったら★ 伸びしろがあるって言っておくれよ~」
「というわけで、決をとります。邪魔をしないという条件のもと、ゴンとキルアの同行を許可するという方、手を挙げて!」
……おお。
以外にあっさり傾いたな。
「シャルナークさん、コルトピさん、パクノダさん、マチさん、シズクさん、クランクリンさん、ボノさん……フェイタンさん、フィンクスさんも! 賛同、ありがとうございます!」
「別に、礼を言われる筋合いはないね」
「邪魔しねーなら放っとくって話だ。ちょっとでも邪魔になってみろ、その場でーー……っ!?」
トストスッ! --っと、粋がったフィンクスさんの喉元から、数センチ横の壁に突き刺さる、エノキとトランプ。
や、やりにくそうだなぁ……。
さあて、あとに残るはこの二人。
「お前ら!! 裏切りやがったなあああああっ!!」
「大体、ポー、何でオメーが仕切っていやがる!!」
認めねえ、認めねえったら認めねぇと言わんばかりに、オーラを高ぶらせるウボォーギンとノブナガさん。
やっぱり、理屈でこの二人は快諾してくれないか。
「職業病といいますか。ほら、私、これでも教鞭をとってますから。もめ事をまとめるのが仕事みたいなもんなんです。そんなことより、強化系のお二人を、これ以上言葉で説得しようだなんて思ってませんからね。ーー身体を使う準備は、いいですか?」
「ああ!?」
「面白れぇ……俺達相手に何で決着つけようってんだ、ポー!」
にっこり笑って、放り込んでやる。
強化系の大好きなーーガチンコ勝負!!
「腕相撲で勝負っ!! 私達が勝ったら、ゴンとキルア、イルミとついでにヒソカさんも、仲間だって認めて同行を許可してくださいよ!!」
「乗った!!」
「よっしゃあああああ!! やってやろうじゃねぇか!!」
ですよねー。
ていうか、こういう展開にしたかっただけじゃないんだろうか、この二人。
お昼にあれだけ食べたから、ちょっと身体動かしたいなぁ、みたいな。
クックックッ、と怪しい笑い声が間近でしたと思ったら、いつの間にやら、ヒソカさんがすぐ後ろに立っていた。
「ポーったら、相変わらず環境に順応するのが早いねぇ☆ あの二人の扱いも、見事だ☆」
「ヒソカさんのオーラ別性格判断によれば、強化系は単純一途、でしたっけ?」
「そうそう☆ ゴンから聞いたのかい?」
「ノリがいいから乗せやすいっていうのも、付け加えといて下さいよ。ちなみに、ああ言ったもののノープランなんですけど、ヒソカさんって腕相撲は得意なんですか?」
「クックックッ☆ 君らしいねぇ。そうだね、ボクは上から数えて三番目くらいだったかな……蜘蛛の中では、ね」
にっこり、とほほ笑む奇術師。
うわあ、意味深。
「……なんとなーく察しはついてましたけど、クロロ団長の言ってた四番って」
「うん、ボクのこと☆」
ですよね。
原作でも、確かマチさんに、これ以上サボったら団長自ら制裁にーーとか言われてたっけ。
「もともと、組織とか仲間とかってものに向いてないんだよ、ヒソカは」
「その様子じゃ、イルミも知ってたんだ。ヒソカさんが蜘蛛の一員だって」
「まぁね」
「ひっでー! 教えろよ、兄貴!」
そーだそーだ、と騒ぐお子様二人組に、だって必要ないと思って、とイルミ。
そうこうしているうちに、蜘蛛の強化系二人組は、部屋の中にある椅子やらテーブルやらをかき集めて、即席の腕相撲リングを作り上げた模様だ。
バアン!! と、ウボォーさんの大きな掌が天板を打つ。
「準備は出来たぜ! 一番手は俺だ!! 誰が相手になる……?」
不敵に笑うウボォーギン。
さあて、ここからは全くノープランだけどーー
「シャルナークさん、旅団腕相撲番付を上から順番に教えてもらってもいいですか?」
「えっと、上からウボォーギン、フィンクス、ヒソカ、フランクリン、フェイタン、マチ、団長、ボノレノフ、ノブナガ、僕、パクノダ、シズク、コルトピの順番だったと思うけどーー」
「えっ!? クロロ団長さんってそんなもんなんですか?」
「へー、大したことないんだ」
「確か、団長はマチより弱かったんだよね☆」
チラリ、と見ると、黙々と本を読んでいた団長が、そっと表紙で顔を隠した。
……あまり、触れないでおこう。
「はぁ……期待してたのに。仕方ない、なら、一番手はイルミ。組んだらできる限り粘って、ウボォーさんの筋肉を消費させて。可能なら針を打って操作。無理なら指か手首を脱臼させてくれると助かる。次にフェイタンさんが爪をはがして、最後にフィンクスさんかヒソカさんでトドメをーー」
「お前、意外とえげつない奴ね」
「待て待て待てやごらああああああああああああああああっ!!」
「お前ら!! 何、団体戦みたいな戦略立ててんだこの野郎!!」
私、イルミ、ヒソカさん、ゴン、キルア、フィンクスさん、フェイタンさん、マチさん、シズクさん、パクノダさん、シャルナークさん、フランクリンさん、ボノさん、コルトピさんの総勢14名で円陣を組んで作戦を立てていると、強化系二名から怒号の突っ込みが飛んできた。
「だって、反対してるのは二人だけだから。言いましたよね? 私達と勝負って。それにほら、なんてったってウボォーさんと勝負するわけですから。こちらも全員全力で臨まないと」
「なに、君、自信ないわけ?」
「……っ、言いやがったな、この殺し屋女顔野郎が!! いいぜ、束になってかかってこいやあっ!!」
よかった。イルミの絶妙なタイミングでの挑発のおかげで、まんまと乗ってくれたーーそう、ほくそ笑んだ時。
「ポー、それはズルいよ!」
「――っ!?」
ゴンんんんんんんんっ!!
あー……。
あああ~っ、そうか、君がいたなあ……君はきっとそう言うんだろうなあ。
「馬鹿! せっかく相手がこっちの有利な条件に乗ってきたのに、何言いだすんだよ!」
うんうん、キルア。言ってやって。もっと言ってやって。
……無駄だろうけど。
「でも駄目だ! そんなやりかたはズルい! 皆で寄ってたかって勝っても、ちっとも嬉しくないよ!!」
「だから、嬉しいとか嬉しくないって言ってる場合じゃねーだろ馬鹿!! この勝負に勝たないと、俺達、ポーと一緒に行動できなくなるんだぜ?」
「それなら、俺がやる! 俺が腕相撲して、あいつに勝ったらいいんだもんねっ!!」
バシッと、掌にこぶしを合わせ。
「俺が相手だ! ウボォーギン!!」
身の丈二メートルを超える巨漢、ウボォーギンの前に、一歩も引くことなくゴンが立つ。
しばらく、じっとその姿を睨みつけていたウボォーさんだったが、ふいに、物も言わず右手を振り上げ、
「うわっ!?」
がっしりと、ゴンのつんつん頭を鷲掴みにした。
「――小僧、お前良い根性してんじゃねぇか。気に入ったぜ!」
ガシガシグリグリ、とやや乱暴に、ゴンの頭を撫でまわすウボォーギン。
途端、ノブナガさんが堰を切ったように笑い出した。
「だーっはっはっはっはっ!! おめぇ、さては強化系だな? 強化系に理屈は通用しねぇ。状況がどうあれ、通す筋はとことん通さねぇと気が済まねぇもんなぁ~!! ウボォー! その小僧、お前そっくりだぜ!!」
「ああ!? そういうお前だって強化系だろうがよ!!」
「違ぇねぇ。だーっはっはっはっはっ!!」
「なんだよ! 笑ってないで勝負しろよ!!」
まん丸いほっぺたを、さらに膨らませて抗議するゴン。ひとしきり笑い終えた強化系二名の大人たちは、気が済んだとばかりに息を吐いた。
おい小僧、とウボォーギン。
「ゴンとか言ったな。邪魔しねぇっつーんなら、ついてきな」
「いいの!?」
「ああ。だが、ガキにゃ色々と辛ぇぞ? それでも来るか」
「――行く。一緒に行って、ポーを守るよ!」
「一丁前に抜かしやがる。――ってことだ、団長。俺達にも意義はないぜ」
「邪魔したらぶった切る。お前ぇら、よく覚えとけよ」
おお。
おおおおお~!!
流石はゴン!! 主人公パワー!!
原作ではノブナガさんにエンドレスで腕相撲させられてたから冷や冷やしたけど……
無事に済んでよかった。
―ーと、思ったそのとき。
「待って! やっぱり……そんなのズルい!!」
「ゴン!! なんとなく言うような気がしてたけど、ダメだって。ちゃんと腕相撲で勝負をつけたい気持ちはわかるけど、明日の作戦や計画を立てないと。もうあんまり時間がないんだから」
なんか、ハンゾーさんとゴンが戦った時のことを思い出すわあ。
あのときも、参ったって言ったハンゾーさんに、それはズルい、ちゃんと話し合いで決めようって一点張りで、引かなかったもんなぁ。
「でも!!」
「……ウボォーさんと腕相撲、したいんだね?」
「うん!!」
正直だなぁ~……まあ、そこが可愛いんだけどね。
「ウボォーさん、本当に申し訳ないんですが、後ででもいいので……」
「おう、いいぜ。だが、手加減しねぇぞ?」
「俺だって、負けないもんねっ!」
がっしり、二人が握手を交わしたところで、この場は収まりがついた。
ようやくかとクロロ団長が進み出る。シャルナークがタブレットに表示する現場の資料をもとに、蜘蛛たちの作戦会議が始まった。
***
蜘蛛たちの計画はこうだ。
まず、明日の夜、都内のホテルを貸し切って行われる地下競売場に潜り込み、客を一掃する。
そして、オークショニアを見つけ出し、金庫の在りかとパスワードを拷問にて聞き出した後、シズクさんの能力で宝を奪い、ホテルの屋上に用意した気球に乗って逃走――追手は、市街にて好きに殺してよし。
なるほど。話の流れは原作とまるきり同じみたいだ。
メインストーリー通りに進めば、ここで、クラピカと幻影旅団が出会う。
どうしたものかなぁ……。
「――それで、少し問題なのが逃走手段なんだ。気球を用意するのに時間がかかりそうでさ。観光用の熱気球を一機、失敬しようかなと思ってはいるんだけど……」
「気球か……」
シャルナークさんの指摘に、ふむ、と考え込む団長。漫画を読んだときには深く考えてなかったけど、確かに、気球を用意するっていうのは簡単なことじゃなさそうだ。
ていうか、アレ、観光用だったんだ……。
何てことを考えていた時である。「おい、ポー」と、フィンクスさんに名指しされた。
「お前の能力で運べるんじゃねーか?」
「はい? 私の能力でって……もしかして、今朝のクラゲ落下傘ですか? やれなくはないと思いますけど。でも、あの技はオーラの消費量が相当大きいですよ?」
「俺達が餌になりゃ、済む話だろ。団長、聞いての通りだ。ポーは念の泡と触手を組み合わせて空が飛べる。実際、今朝、俺とフェイタン、ノブナガとウボォーはその能力で森に行き、獲物をしとめて帰って来た。錬でオーラの供給さえ行えば、大人数でも大丈夫なはずだ」
「なるほど。そういえば、あんな巨大な魚をどうやってアジトまで運んだのか、疑問だった。念のクラゲか……ポー、出来るか」
「はい。オーラの供給さえ、きちんとやってもらえれば――希望としては、ウボォーさん、ノブナガさん、フィンクスさんの強化系ステーキトリオは必須。それに、推進力強化のために、フランクリンさんの放出系のオーラも欲しいところです」
「いいだろう。ステーキ三人とフランクリンは襲撃組に加われ」
「誰がステーキだ、団長!!」
「まあまあ、ノブナガ。あとは……現場の指示役として僕。お宝の輸送手段にシズクの能力が必要かな。戦力的には、これで十分だと思うけど」
「よし。では、襲撃は以上のメンバーで――」
「ちょっと待った」
スコーン! と、クロロ団長の額にぶつかるエノキの頭。……よかった。針の方じゃなくて。
「イルミか……何だ?」
「一応断っておくけど、俺はポーと一緒に行動するから。ポーが行くなら、自動的に俺も襲撃に参加することになるけど、いいよね」
くりっと、可愛く首をかしげるイルミである。
「……」
沈黙は、肯定の意。
「待つね。なら、ワタシも行くよ。ゾルディクの殺し屋は信用ならないからね」
おっと……! ここで原作通り、フェイタンさんが加わるのか。それなら、きっとあの人も――
「団長、アタシも行くよ。シャル以外、血の気の多い連中ばかりだから、何だか嫌な予感がする」
「マチ。それは、勘か?」
「勘だ」
「……いいだろう。お前の勘はよく当たるからな。では、襲撃はこのメンバーで」
「ちょーっと待った!!」
ビシッと挙手して立ち上がる。ダメダメダメ!! このまま行ったら、原作通りに事が進んじゃう!
「なんだ、ポー」
「いくら何でも重量オーバーですよ!! 目測ですけど、フィンクスさんとノブナガさんが80キロくらいでしょう? イルミとシャルナークさんが70キロ、マチさんとフェイタンさんがそれぞれ4,50キロ。ウボォーさんとフランクリンさんにいたっては一人100キロ以上あるんですから!!」
「誰が4、50キロね!!」
「ふむ……言われてみれば、確かに重いか。なら、誰か外していいぞ」
よし……!
「なら、フィンクスさんを外してゴンにチェンジで。これなら、軽量化しつつ強化系のオーラを減らさずに済みます――頼んだよ、ゴン」
気づいてほしい。この指名の裏にある、私の真意に。
そんな思いで名を呼んだ。ゴンは、こっくりと深く頷いて、
「……! うん、俺、頑張って錬するね!」
「チッ! なら、オレは留守番かよ……足引っ張んなよ、ガキ」
ゴン。
おそらく、いや、きっともう気が付いているはずだ。
助けが来てもなお、私が蜘蛛に残ることの本当の意味に、気づいてくれているはずだ。
もちろん、クロロ団長に私のことをちゃんと諦めてもらうためっていうのは、嘘じゃない。
でも、もう一つ大きな目的がある。
それは、大事な友達を救うこと。
物語の主軸を曲げて――そんなことが出来るかどうかは、分からないけれど。
原作にはいない私がここに存在することで、何かが、変わるかもしれない。
だから――
「――では、以上で終了とする。作戦開始は、明日の夜八時だ。それまで、各自必要な準備を終えておけ」
解散、とクロロ団長。
時刻は真夜中の12時。
9月1日。
いよいよ、ヨークシン編が幕を開けようとしている。