21 100階到達おめでとう会!!

 

 

 

 

 

 

「全く。嫌な奴らに目をつけられたもんだよね」

 

 

 

「ご、ごめんイルミ……」

 

 

 

「ポーが悪いんじゃないよ。先に絡んできたのはあいつらの方だろ」

 

 

 

よかった……。

 

 

 

隠れて逃げて、100階到達選手部屋。

 

 

 

ここに来るまで不機嫌極まりなかったイルミだから、また寝台に押し倒されたりしないだろうかと不安だったんだけど、どうやら今回は大丈夫のようだ。

 

 

 

ぽすっと寝台の上に私を下ろし、隣に座って携帯電話を取り出す。

 

 

 

「どこにかけるの?」

 

 

 

「家」

 

 

 

ピリリリ……ピリリリリリ……!!

 

 

 

『はい、ゾルディック家執事室です。――イルミ様。はい、かしこまりました。ミルキ様ならお部屋におられます。今すぐお繋ぎいたしますので、少々お待ち下さいませ』

 

 

 

おお、ゴトーさん。

 

 

 

私の時と違ってなんてスマートな対応なんですか。

 

 

 

そんなこんなで、三秒も立たずして電話口にミルキが出た。

 

 

 

こころなしか、声が上ずってる気がする。

 

 

 

『イイイイル兄!?お、俺にな、何か用かよ?』

 

 

 

「10万出す。ランとシロガネという名の、二人組の暗殺者についての情報が欲しい。名前は偽名の可能性が高いけど」

 

 

 

『……ふーん。それって急ぎ?俺、今別件を抱えててさー。10万ぽっきりじゃあ弱いかなって――』

 

 

 

「分かった。なら、一億出したっていいよ」

 

 

 

『マジで!!?』

 

 

 

「うん。それで、家に帰ったらお前を殺すから。命が惜しかったら、俺に一億払ってね」

 

 

 

『……いいよ、10万で。ちょい待ってよ、今、裏情報サイトで検索かけてみてるから……何、命でも狙われてんの?』

 

 

 

「うん。俺がっていうか、ポーが目を付けられちゃってさ。やっかいなことに、わりと腕の立ちそうな奴らなんだよねー」

 

 

 

『はあ!?ポー姉、大丈夫なのかよ!ちょっと、イル兄!そいつらの情報、外見とか、使ってる武器とか、わかってること全部送って!!』

 

 

 

「……何、急にやる気になってるの」

 

 

 

「ミルキくん、ごめんね!お仕事忙しそうなのに」

 

 

 

『大丈夫だけど……ポー姉、あんまりヤバイことに首つっこみすぎんなよ?なんかさ、俺のパソコン勝手に使ってA国海軍払い下げ品のボルテックスランサー買い漁ってたみたいだけど、なにに使うんだよあんな軍事機器……』

 

 

 

「ポー……?」

 

 

 

「べべべべ別にっ、危ないことに使おうっていうんじゃなくって、アレだよ!?超大型の海洋生物に襲われた時の威嚇装備として――」

 

 

 

『いいけどさあ……あれ?ちょっと、イル兄。駄目だ、全然引っかかんねーぜ』

 

 

 

「本当に?メールで写真も送ったはずだけど。お前の探し方が悪いんじゃないの?そんなんじゃ金は払えないね」

 

 

 

『出てこないもんは来ないんだから仕方ないだろコフー!!っていうか、そもそもそいつら本当に殺し屋なのかよ!?イル兄を狙うんだったらまだしも、なんでポー姉を狙うんだよ!?身代金目的の誘拐ならいざ知らず、命を取るならそれなりの恨みを持った依頼人がいるはずだろ?イル兄ならまだしも、ポー姉はこの半年間、ほとんど海の中にいて陸に上がってねーって話なんだから、いねーだろ、そんな奴コフー!!』

 

 

 

「まあ、それもそうだね。じゃあいいよ。この話はなかったことにしておいて」

 

 

 

『あっ、ちょっと待』

 

 

 

プツンッ!

 

 

 

……切っちゃった。

 

 

 

「……いいの?イルミ」

 

 

 

「いいよ。あーあ、それにしても、大した情報は出てこなかったな。予想はしてたけど……よいしょ」

 

 

 

「わっ!?」

 

 

 

イルミの腕に巻き付かれたかと思ったら、バッタン、と後ろに倒される。

 

 

 

そのまま、気がついたら横抱きにされていた。

 

 

 

え?

 

 

 

「ちょ、ちょちょちょっとイルミさん!?」

 

 

 

「さんづけ禁止って、ハンター試験で言ったよね。はい、キス一回」

 

 

 

「続行!?え、それって今でも継続してたの!?」

 

 

 

「当たり前だろ。あ、そうだ。深海に生身で潜ってたことといい、さっきのミルキの話といい、ポーってさ、俺に黙って結構危ないことしてるよねー。それも加算しないといけないな。てことで、キス10回ね」

 

 

 

「アバウト過ぎるよ!?」

 

 

 

「するの?しないの?」

 

 

 

「……する」

 

 

 

しないとこの場で即お仕置きだと、その真っ黒な瞳に書いてあります。

 

 

 

はい。

 

 

 

寝台に寝転がったままイルミと向かい合い、目を閉じて、唇と唇が触れ合おうとした、そのとき――

 

 

 

コンコンコン!!!

 

 

 

「ポーさん、イルミさん。そこまでです。約束の時間はとっくに過ぎていますよ?」

 

 

 

チッと、イルミが舌打ちをした。

 

 

 

ウィングさん……ある意味ナイスなご登場です。

 

 

 

だって、絶対キスだけで終わらせる気ないもんイルミは!!

 

 

 

「邪魔しないでよ、ウィング。うっかり殺しちゃうよ?」

 

 

 

「イルミさん。ポーさんを連れて今すぐ部屋から出ていらっしゃい。ランとシロガネの試合映像が手に入りましたよ」

 

 

 

「……本当に?」

 

 

 

イルミはすっと身を起こしてドアへと向かった。

 

 

 

離れる直前、唇に軽いキスを落としていくのも忘れなかった……うう、イルミめ。

 

 

 

扉を開けると、ウィングさんが満面の笑みを浮かべて立っている。

 

 

 

“修行をサボってなにやってんだこの野郎”と言わんばかりのオーラは見ないふり。

 

 

 

「ありがとう。さっき、家の人間を使ってあの二人の素性を調べようとしたんだけど上手くいかなくってさ。助かったよ」

 

 

 

すっとぼけるのはお手の物。

 

 

 

こけし並みの不動たる無表情を盾に、イルミがつらつら状況を述べた。

 

 

 

「……まあ、良いでしょう。せっかくの敵情視察も失敗だったようですね。どうやら、彼らはあなた方が思っている以上に、注意と警戒心を払っているようだ」

 

 

 

「うん。そうみたい。で、早速だけど、このテープに連中の試合内容が入ってるの?」

 

 

おお!

 

 

 

い、今、ほんとに見えなかったぞ!

 

 

 

優雅に差し伸べられたイルミの手には、ついさっきまでウィングさんが手にしていたビデオテープが握られている!

 

 

 

ビデオテープ……うわあ、なんて懐かしい響き。

 

 

 

目を丸くする私とは対照的に、ウィングさんは渋い顔で、

 

 

 

「そうです。しかし、感心しませんね。念をそのようなことに使うのは」

 

 

 

「ははは。何言ってるの。俺は殺し屋なんだから。テープをとるのも、お前の胸から心臓を抜き取るのも、大して変わらないよ。ウィング」

 

 

 

「イルミ!!お仕事以外で、そういうこと言わないの!!」

 

 

 

「……ごめん」

 

 

 

「私じゃなくって、ウィングさんに謝りなさい!!」

 

 

 

「ごめんね」

 

 

 

「……あなた方は、本当に良いご夫婦ですね」

 

 

 

にーっこり笑ったと思ったら、そのままお腹を抱えて笑い出す師範代である。

 

 

 

今のの何がツボだったんだ、ウィングさん!!

 

 

 

「っははははは!!し、失礼……あははははっ!!」

 

 

 

「……知らなかったー。この人って、こんな風にも笑うんだ」

 

 

 

「意外だね」

 

 

 

うーん、と顔を見合わせる私たち。

 

 

 

ああでも、考えてみればウィングさんって、私やイルミと同い年くらいじゃないのかなぁ。

 

 

 

こうやって、砕けた表情をみているとそう思う。

 

 

 

よし、20歳以上だったら、今度イルミと一緒に飲みに行く時誘ってみようっと。

 

 

 

「ねー、ウィング。馬鹿みたいに笑ってないで、早く観ようよ。シロガネの奴が16時に試合を指定してきたから、準備時間が少ないんだよねー」

 

 

 

「……わかりました。私とズシが使用している部屋が、200階クラスにあります。そこなら、ビデオデッキが常設してありますよ。ズシが先に行って準備をしているはずですから、参りましょう」

 

 

 

「あ、そっか!ズシくん、200階まで上がってるんですよね!すごいなあー!!」

 

 

 

「いえ、まだまだ。貴女と同じで、ズシは今が伸びざかりです。甘やかすわけにはいきません」

 

 

 

そんなことを話しながら、三人で200階行きのエレベーターに乗り込む。

 

 

 

「うーん」

 

 

 

人差し指を顎に当て、何やら考え込んでいたイルミがふいに口を開いた。

 

 

 

「前から言おうと思ってたけどさ。ウィングって結構スパルタだよね」

 

 

 

「イルミが言う!?ハンター試験中にイルミがやったことに比べたら、ウィングさんの修行なんてVIPルームでエクストラサービス受けてるようなもんだよ!?」

 

 

 

「……だってさ、ウィング。元ポーの師匠として言わせてもらうと、ポーの無理やダメにはもっとしてって意味と、まだまだいけるって意味があるから。遠慮無くビシバシ鍛えてね」

 

 

 

「参考にしましょう」

 

 

 

「ちょっとおおおおおおおおおおおおごめんなさい!!!」

 

 

 

「ははは。今更遅いよ」

 

 

 

チーン。

 

 

 

落ち込む私をよそに、エレベーターは200階に到達。

 

 

 

ウィングさんの部屋は入り口にほど近く、中ではズシがビデオ鑑賞の準備をすっかり整えて待っていた。

 

 

 

「わあい、ケーキだ!!」

 

 

 

「町まで行って、買ってきたっす!ポーさん、100階到達おめでとうっす!お酒はないっすけど、お茶やジュースもあるっすよ!」

 

 

 

「ありがとう!!」

 

 

 

「俺、チョコケーキね」

 

 

 

「さぁせるかーーーーっっ!!!」

 

 

 

もの凄い勢いでストロベリーショコラケーキに伸ばされたイルミの手を、負けじとテンタくんで絡めとる!!

 

 

 

ゆ、油断も隙もない!!

 

 

 

「室内戦で殺し屋の俺に勝てると思ってるの?」

 

 

 

「イルミこそ。食べ物絡みで私に勝とうなんて100年早いよ!!」

 

 

 

「……はあ、全く」

 

 

 

「私だってチョコケーキ食べたいもん!!私へのお祝いなんだから、私優先でしょ!!」

 

 

 

「分かったよ。じゃ、一口頂戴って言ったら、ポーが俺にあーんしてね」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「俺にチョコケーキをくれるなら、俺がポーにあーんしてあげてもいいんだけど。どっちがいい?」

 

 

 

「ふ、不自由な二択!!」

 

 

 

「ポーさんとイルミさんはほんっと仲がいいっすねー」

 

 

 

トクトク、人数分のグラスにジュースを継ぎながら、しみじみとズシくんが漏らした。

 

 

 

「阿吽の呼吸ーーそれが、夫婦というものです。さて、盛り上がっているところを邪魔するようですが、二人とも。敵情視察ですよ。イルミさん、テープを」

 

 

 

「はい」

 

 

 

「ランさんとシロガネさんの試合のビデオさんて、よく入手できましたねー」

 

 

 

「あの二人の試合は人気がありましたから。個人撮影のビデオがダフ屋に出回るのも早かったのです。しかし、イルミさんが調べようとして失敗した通り、二人の素性は一切知れず、謎に包まれています。この闘技場には多くの格闘マニアも感染のために集いますが、彼等の中にも、二人のことを詳しく知るものはいません」

 

 

 

「……素性が知れない人たち。もしかして、流星街の出身者かもしれないってことでしょうか?」

 

 

 

「ポーは知ってるの?あの街のこと」

 

 

 

「うん。まあ、名前くらいはね。聞いたことがある。たしか、キキョウさんや執事見習いのカナリヤちゃんも」

 

 

 

「うん。あの街の出身者だ。俺の家に務めているものの中には多いよ。街全体が組織のようなものだから、あの街で育ったヤツは自然と、そういった中で力を伸ばせる人間になっていく」

 

 

 

「うわー!それ、海洋幻獣ハンター向きの人材だねー、いいなあ」

 

 

 

「だからって、あの街にスカウトになんかいかないでよ。危ないんだから」

 

 

 

あ、考え読まれた。

 

 

 

くっそう。

 

 

 

ぱくん、と最後に残しておいたケーキのイチゴを頬張る私に、ウィングさんは意味深に目配せした。

 

 

 

「では、再生します。用意はいいですか?」

 

 

 

「バッチリです!!」

 

 

 

イルミと二人、すぐさまオーラを高めて凝をする。

 

 

 

よくできました、と微笑んで、彼は再生ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

 

「み、見えないっす……戦いどころか、動いているところすら見えないっす!!」

 

 

 

「数メートル離れた敵が倒れてるんだから、動いてるはずだけど。この映像だと粗すぎて分かんないね。いくら凝をしても無駄みたいだ」

 

 

 

困りましたねえとウィングさん。

 

 

 

し、師範代。貴方にも無理なのか……!!

 

 

 

「二人の動きが早すぎるんだよね?だったら、この映像自体を細かく解析するしかないよ。イルミ、もう一回、ミルキくんに連絡して!」

 

 

 

「いいけど。どうするの?」

 

 

 

携帯を取り出すイルミの前に、ノートパソコンとケーブルを並べる。

 

 

 

さっすが200階クラスのVIPルームだ。

 

 

 

通信機器関係も充実してる。

 

 

 

「映像の解析を頼むの。あんなスペックのパソコン、三台も持ってるんだもん!なんだって出来るよ!」

 

 

 

「ふーん。ポーはそういうの詳しいんだね。はい。ミルが出たよ」

 

 

 

はっし、と差し出された携帯電話を受け取り。

 

 

 

「もしもし、ミルキくん!!今から送る映像解析お願い!!十分以内にお願ーーーい!!」

 

 

 

『なんだよ!!さっきからイル兄といいポー姉といい!!俺だって仕事中なんだって言ってあっただろ!?』

 

 

 

「嘘ですー!!今、PCゲームのHUNTER×HUNTERオンラインのログイン情報見てみたら、ミルキくんオンタイムでインしてるじゃない!!!お仕事サボってゲームやる時間があるんだから、映像解析なんてちょちょいでしょ!?」

 

 

 

『チッ!バレたか……』

 

 

 

「ポー、代わって。もしもし、ミル。俺だけど。今すぐポーの言うとおりにするか、数時間後に俺に殺されるか、どっちか選べ」

 

 

 

『イル兄はポー姉に甘すぎるよコフー!?フン!そんなの脅しにならないね!誰かに依頼もされてないのに、勝手に身内を殺るなんて――』

 

 

 

「ポーがしてくれるよ。ね、ポー」

 

 

 

「えー。でも私、お金ないから半殺しくらいでお願いしようかな?」

 

 

 

「うん、じゃあ半額にしとくね」

 

 

 

『分かったよ!!映像解析でもなんでもやってやるよコフー!!で、どれ!?』

 

 

 

「ありがとう。素直に最初からそう言えばいいんだよ。映像は今、ポーがPCに落としこんでメールに送付したから。十分後にまた連絡する」

 

 

 

「あ、イルミ待って!ミルキくん、そのパソコン、スカイシステム使えるよね?今すぐ繋いで画面共有しながら作業して!」

 

 

 

『グ……ッ!』

 

 

 

「あ、なるほど。抜け目ないねー、ポーは」

 

 

 

「海洋幻獣ハンターは、発見したターゲットをその場で分析する、素早い画層解析が命だからねっ!」

 

 

 

『だあーー!!くっそおおお!!今日は親父もママも仕事だから、久しぶりに羽根がのばせると思ったのにコフー!!……ん?な、なんだよこいつらの動き……!?』

 

 

 

「見えないでしょ?凄いでしょー?16時から戦わなきゃいけない人たちなんだけど、これじゃあ下調べにもならなくってさー」

 

 

 

「テープに入っている試合は3つ。ランとシロガネ、二人がダブルスで戦っている映像だけど、一番目はおそらく、シロガネしか動いてない。恐ろしく早い手套だ。相手のコンビは、スピード重視の選手たちなのに、その二人をほぼ同時に気絶させてる」

 

 

 

『親父並だな、それ……お、限界までコマ送りさせてみたら、ちょっと写ってるぜ?』

 

 

 

「うわあああ!!ほんとだ!!飛んでるっ!試合開始の合図と一緒に飛びかかってきた相手を、右手でひとり、左手でもう一人……仕留めて着地。ど、どうやったらこんな早さで動けるの……?」

 

 

 

「念の力です。凝をして見てご覧なさい。シロガネの両脚部先端、そして、両手の指先にのみオーラが集中しています。それ以外は、絶で気配を消しています。この状態で戦えば、常人には見えないように見える。かなりの修行を要する高度な技です。勿論、相当の使い手でなければ、行うことなど出来ません」

 

 

 

ウィングさんの言葉の通り、凝をしたら空中にいるシロガネさんの両手両脚部に――しかも、ほんの僅かな部分に、凄まじいくらい凝縮されたオーラが集められているのが分かった。

 

 

 

「こここれって……もしかして、イルミが試合で使った技?」

 

 

 

「よくわかったねー。その通り。無音歩行術である暗歩や、緩急をつけ、相手の目に残像を残す肢曲……俺たち暗殺者には様々な歩行術があるけど、これもその一つだ。単純に言えば、常人には見えない速度で素早く動く技。ゾルディック家にしか使えないと思ってたけど、こいつ、本当にムカツクね」

 

 

 

『手足の動きだけならまだしも、こんなジャンプまで見えないなんて、こいつ相当だぜ!?ほんとにこんな奴らと戦うのかよコフー!!』

 

 

 

「だって、宣戦布告されちゃったんだもん」

 

 

 

「俺も。普段だったら面倒だから死んでもゴメンだけど、ポーにあんなことした奴をのさばらせておくわけにはいかないからね。あ、父さんが帰ってきたら、ひょっとしたら俺より強いかも知れない奴と戦うけど、ごめんねって伝えといて」

 

 

 

『俺が殺されちまうよコフー!!……と、次のには女の方が戦ってるシーンが写ってるな。うおっ!?すっげー美人!!』

 

 

 

「でしょ?これでビッシバシ鞭で戦うんだよ。カッコイイよねー!」

 

 

 

「浮かれてる場合じゃないよ。ほら、解析されたら見えてきた。鞭の周りを覆うオーラ。威力を高める周に加えて、オーラを見えにくくする陰を応用し、鞭筋自体を見えなくしてる。これも、かなり高度な暗殺術だ」

 

 

 

「やっぱり、ランさんとシロガネさんは暗殺者なんだ?」

 

 

 

「十中八九そうだろ?でも、妙なことはいくつもある。俺をゾルディックと知りながら、奴らは常にポーの方に注意を向けている点。殺す機会はいくらでもあるのに、それをしない点……遊ばれているとしか思えないんだよね。同じ暗殺家業の者としては」

 

 

 

「殺す気があって戦いたいんじゃないってこと?うん、私もなんとなくそう思う。確かに怖いけどさ、怖さの種類がなんか、違うんだよね。ほんとにこっちの命を奪おうとしてるような感じじゃない……そうだ、そう言えば似てる気がするよ。イルミの家に、始めて来たときの感じと、とってもよく似てる!」

 

 

 

「力を試されてる感じがするってこと?……そうだな。俺も、そっちが正解のような気がしてきた」

 

 

 

「ポーさん!イルミさん!3つ目の試合の映像も、解析されたみたいっす!!」

 

 

 

興奮のあまり、パソコン画面に身を乗り出すズシくん。

 

 

 

その、いが栗頭の向こう。

 

 

 

解析されて見えるようになった、ランさんと、シロガネさんの見事なコンビネーションに、私はただ、言葉を失ってしまった。

 

 

 

「……すご」

 

 

 

凄い。

 

 

 

凄すぎるうううううう~~!!!!

 

 

 

「わああああああ!!凄く強い人達だってことは分かってたけどコレはないよ!?これはもうなんかアレだよ、ヒソカさんが二人いるレベル!!!」

 

 

 

「実際にはそれ以上だと思うけど。アイツは単独の戦闘しか好まないからね。この試合みたいに、自分の分身と一緒に戦っているような戦闘はできないよ」

 

 

 

「この、3つ目の映像は190階クラスで行われた中で、もっとも相手のコンビが長持ちした試合です。相手がもうちょっと頑張ってくれたら、二人の戦闘スタイルの分析も、もう少し詳しくできたんですけどねぇ」

 

 

 

「戦闘スタイル」

 

 

 

『これ以上詳しくったって、流石にもう無理だぜコフー!!』

 

 

 

「分かったよ。ミルキ、晴れて自由にしてあげる。仕事をサボってゲームで遊んでいた件については、帰ってからじっくり話そうか。じゃ、切るよ」

 

 

 

ポチッと、イルミがスカイラインを切る寸前、ものすごい悲鳴が聞こえていたみたいだけど…………いいや、今は。

 

 

 

そんなことより!!

 

 

 

「戦闘スタイルかあー、この二人だと、“とにかく早く、速く動く”って感じだよね?」

 

 

 

「単純に言えばね。あと、急所を一撃で狙ってくる。これがどういうことだかわかるかい、ズシ」

 

 

 

「えっ!?自分っすかイルミさん!?え、えーっと、相手を早く倒したい……ってこと、っす、かね……?」

 

 

 

「……」

 

 

 

そんなにくりくりした目で見つめないで欲しいっす……と、消え入りそうな声で呟くズシくんである。

 

 

 

か、可愛い!!

 

 

 

「……正解。そうすることで、戦う相手にも、周りにも、余計な情報を極力与えない。俺達みたいに映像で相手のことを知ろうとする奴らに対する防衛手段にもなる。ポー、これで分かっただろ。こいつらは強い。単独ならヒソカと同等に強い。でも、強さの種類が違う。彼等はヒソカのように、戦闘を楽しむタイプじゃない」

 

 

 

「うん。恐らく、二人は試合開始の合図と同時に、私たちを仕留めにくる。見えない速さで――イルミ、私の念の泡で、二人の攻撃を阻むことは出来るかな?」

 

 

 

「俺も、それについて考えてたとこ。この映像を見る限りでは、ランもシロガネも実力の100分の1も出していないだろうから、なんとも言えないんだよねー」

 

 

 

パソコンの前から離れ、イルミはテーブルの上に確保していたチーズケーキへ手を伸ばした。

 

 

 

イルミは甘党だけど、どっちかと言えば程よく酸味があって、さっぱりした甘さのものが好きだ。

 

 

 

アイスティーには必ず、ガムシロップを3つ。

 

 

 

「ウィングはどう見る?」

 

 

 

「そうですね。ポーさんの防御法は独特です。攻撃を真正直に受け止めて防ぐのではなく、加わった力を受け流す。これなら、相手の攻撃がいくら速くても防げますし、また、強力な攻撃も相殺できる」

 

 

 

「となると、やはり問題は二手目からだ。攻撃を防がれたシロガネとランが、次にどう出るか」

 

 

 

「はいはい!!私が攻撃を防いでいる間に、イルミが後ろに回って仕留めちゃえばいいと思います!!」

 

 

 

「……それが出来れば苦労しないと思うけど。手はあるの?」

 

 

 

「できなくはないと思うよ?リングに上った時から念の泡を発動しておくでしょ?で、シロガネさん、ランさんの攻撃を防いで、ついでにテンタくんで捕まえます。私が二人のオーラを吸い取ってる隙に、イルミが手刀で--」

 

 

 

「完璧っす!!」

 

 

 

「えー。そんなに上手くいくかなー?」

 

 

 

「いくにしてもいかないにしても、対策としてはこれがベストだと思うな。二人よりも速く動いて攻撃を避けるっていうのは、イルミにはできても私には無理だもん」

 

 

 

「まあ……あの二人は、ポーの念を見たのは今日が初めてだろうし、泡の防御と触手のことは知られていても、その威力までは知らない。新しく編み出した、“オーラを食べる”っていう戦闘スタイルのことも……確かに、悪くない手だ」

 

 

 

「やったー!殺し屋さんから合格点!」

 

 

 

「でも、楽観的すぎる。俺が一撃で奴らを仕留められるとは限らないだろ」

 

 

 

「無理なの!?」

 

 

 

「うん。言っただろ。奴ら、単独ならヒソカと同レベルだって。特に、シロガネ。あいつは相当タフだね」

 

 

 

「うーん、確かに……防御のための攻防力移動。厄介だよね、どうにかして無防備な部分を狙えないかなあ」

 

 

 

「そんな隙のある戦い方、あの二人がすると思う?望み薄だね」

 

 

 

「そうかなあ。確かに動きは速いけど、だからって隙が生まれないって考えるのは間違いなんじゃないかなあ。例えば、相手が……あーーーっ!!!」

 

 

 

「……何?突然」

 

 

 

ガタタっと、椅子からイルミが滑り落ちた。

 

 

 

耳元でいきなり叫んだから、当然といえばそうなんだけどさ。

 

 

 

でもでも!!

 

 

 

それくらいいい考えが浮かんじゃったわけ!!

 

 

 

「あるよ!ものっすごい隙!!」

 

 

 

「え」

 

 

 

「ホントっすか!?」

 

 

 

キラッキラした目で見つめてくるズシくんに、私はパソコンを抱え、頷いた。

 

 

 

「うん!あのね――」