5 格闘王への道!!

 

 

 

 

パドキア共和国東。



キルア曰く『野蛮人の聖地』。



ヒソカ曰く『格闘のメッカ』。



ショッピングビルや、オフィスビルが建ち並ぶ街の中心部に、天高くそびえ立つ塔……天空闘技場。



空港からゾルディック家専用のハイヤーで走ること30分。



念願の場所にたどりついた私は、感無量の思いで塔を見上げた。



原作はもちろん、アニメよりも迫力があるぞ!!



「でかい!高いよ!イルミ!!」



「そう?こんなランドマークタワーより、うちの方がよっぽど大きいし高いじゃない」



「ク、ククルーマウンテンは山でしょ?そんなのとくらべちゃダメだよ」



「いいじゃない。世界一高い場所にある私邸は俺んちだと思うんだけどなー。まあいいや。ポーは最上階には興味がないんだっけ?」



「うん。というか、正直言っちゃうと200階クラスにも興味ないんだよね。ほら、ファイトマネーが出なくなるじゃない。名誉とかいらないし」



「うわ。ポーはお金が目当てなんだ。酷いなー、俺とのせっかくの旅行なのに、ポーはお金稼ぎのためにここに来たの?」



「ちがーう!違うからエノキはしまって!ゴンとキルアの話を聞いて、面白そうだからいつかイルミとも来てみたいなって思ってたの!」



「ふーん。どうして?」



「……だって、イルミの戦ってるところって、まだ見たことないんだもん。試験中は不意討ちとかが多かったでしょ?最終試験だって、ほとんど不戦勝みたいなもんだったし。でも、ちゃんと戦ったら、か、かっこいいだろうなって……」



「……」



ガシッ!



「ひい!ごごごごごごめん、動機が不純でし――」



ぐい、と強引に腕をひかれる。



ちゅっ、と、白昼堂々、公衆の面前でのキス。



舌の先で軽く唇をなぞったあと、イルミはなに食わぬ顔をして離れていった。



「~~~~!!」



「行くよ」



「え!!?どどどどこに!!?」



ままままさか!



真っ昼間からラブホテル連行とかやめてくださいイルミさん!!!



がっつり掴まれた腕の強さに、赤くなったり青くなったりする私に、眉根ひとつ動かさずして、淡々として言う。



「どこって、受付。エントリーしに行くよ。俺の戦ってるところ、見たいんだろ?」



「……うん」



「ほら」



掴んでいた腕を離して、手を差し出してくれる。



繋いだ手のひらが熱かった。



こっくり頷いた私の頭を、イルミはだまってくりくり撫でた。










       ☆☆☆












「ようこそ!天空闘技場へ!まずこちらにお名前と生年月日、その他必要事項をご記入ください」



「はーい!あ、そうだ。イルミ、何年生まれかわかんないから、写させて?」



「いいよ。……ふーん。ポーは8月8日生まれなんだね」




「うん。イルミは?」




「内緒」



「え――!!」



思いっきり不満そうな顔をする私に構いもせず、イルミはさっさと用紙を提出してしまった。



ううううう……ケチ!!



いいもん、ゾル家に帰ったらミルキやカルトくんから聞き出すから!



「……ご登録、ありがとうございました。確認いたしますので、少々お待ちくださいませ」



ガラス越しの痴話喧嘩をやんわり受け流し、受付のお姉さんは満面の営業スマイルを張りつけている。



「イルミさまは、以前にも何度か200階に到達されておいでですね」



「ああ」



「では、当闘技場のシステム及び、今月から新たに加わった新ルールについても、すでにご承知でしょうか?」



「……新ルール?」



「なにそれ?200階までは10階単位のフロアに区切られてて、1階で戦ったとき、実力ごとに各フロアに振り分けられた後は、勝ち進むたびに上に登ってファイトマネーゲット!!――っていうんじゃなくて?」



「はい。今月から100階以上のフロアーでは、ダブルス登録が可能になりました」



なんですと……!!?



「ダブルス!?」



「へー、初耳。おもしろそう。詳しく聞かせてよ」



「かしこまりました。ダブルス登録は、100階以上で行われる各試合に、二人一組で参加するというシステムです。ただし、試合自体は個別に割り振られるため、ダブルス登録をされたお客様は、ご自身の試合とパートナーの試合、その両方に参加していただくことになります」



「つまり……?」



「俺とポーがダブルスを組んだ場合、ポーはポーの試合にも出なきゃいけないし、パートナーである俺の試合にも出なきゃいけないってこと」



「二回戦うのか―。その場合って、ファイトマネーはどうなるの?」



「ダブルス登録されている場合、支給されるファイトマネーは一試合につき一人分です」



「え―!てことは、二人で割ったら半分になっちゃうってことじゃないの!なんで倍じゃないの!?」



「二人がかりの方が有利だからだろ……やっぱりお金目当てなんじゃないか」



ギリギリギリギリギリ!!



「いたたたいたいいたいいたい!!ちっ、違うもん違うもんっ!!夏に備えて新品の高速船が欲しいとか、飼育用の30センチ幅強化ガラス超大型水槽が欲しいとか、高水圧制御装置が欲しいとか、私用深海探査球が欲しいとか、思ってない!!」



……。



……はっ!?



「……ふーん。わかった。すみませーん、俺とこの子、ダブルス登録で」



「……あれ?」



怒られない?



なんで?



「今日中に100階まで登るつもりだけど、いいよね?」



「う、うん……いいけど、イルミ」



「なに?」



「怒ってないの?」



「怒ってるよ?」



「え!!!」



「当前じゃない?せっかくの休みでせっかくの旅行なのに、研究の資金集めに付き合わされるなんてさ。しかも、ポーは嘘をついたよね?俺の戦ってるところを見てみたいだなんて」



「それは嘘じゃないもん!!」



「ダメ。俺、今回は本気で怒ったからね。許さない。今日中に100階に登って、個室を貰ったら、ポー。分かるよね?」



「!!!」



「じゃ、行くよ」



くるりと背を向けて、一階闘技場のゲートへ歩いていくイルミを、私はただただ震えながら見つめるしかなかった……。