目を覚ましたら、ベッドサイドの時計の数字は4時前だった。
しかもAM。
うーん。
だった二日間とはいえ、慣れってすごい。
目覚まし機能なんてついてないのに、ぱっちり目があいて頭の中もスッキリしてるなんて。
「なんてね。ほんとは、定時に起きられるように、ミクロ念の泡にあらかじめカフェインを含ませておいたのでした」
それを取り除くのをすっかり忘れてたよ……あーあ。
せっかく八時まで寝てもいいシチュエーションだったのになあ。
というか、目は冴えてるけど身体はダルいよ……うおおおう……イルミめっ!
好き勝手しまくってからにぃ~~!!
「はっ!そうだ、イル……」
ミ……。
……。
うわああああああああ!!!??
寝てるっ!!
イルミが寝てるっ!!!!
イルミが寝てるううう~~!!!
大事なことなので三回叫びました――!!
私が眠ったあと、ずっと抱きしめていてくれたんだろう。
見上げれば、至近距離にイルミの顔があった。
「な……なんか、そう言えば寝顔見たのって、は、初めてかも」
せっかくなので、しっかり観察させて頂くことにしよう。
うん。
こうしてみると、眠っているイルミはびっくりするくらい可愛らしい。
睫毛は影が落ちるほど長いし、鼻筋は通ってるし、お肌は白いし、髪の毛は真っ直ぐでサラッサラだし。
可愛いというか綺麗?
こんなの、身体さえ見なきゃ完璧に女の人じゃないか……!!
ふおおおう!!!
負けた――!!
色んな意味で負けたあ―――!!!
「イルミめ……昨日は散っ々、意地悪して意地悪して意地悪して……!!」
お風呂でのことは、シロガネさんにキスされたお仕置きだったから仕方ないと言えば……仕方ないんだけど、酷かったのはその後だ。
のぼせてぐったりした私の身体をふいてくれている間に、セクハラにつぐセクハラにつぐセクハラを……。
さらに、気絶寸前の私をベッドに運びこんでから――
***
「なにへばってるの?これからが本番だよ」
「……え?う、嘘………!?」
「嘘じゃないよ。まさか、本当にこのまま眠っちゃうつもりじゃないよね?そんなの俺、許さないから」
イルミはシーツの上に横たわった私を見下ろして、着ていたバスローブを脱ぎ捨てた。
蛍光灯の明かりの下、彼の身体が露になる。
恥ずかしがる必要なんて、何一つないくらい完璧な肉体。
無駄なものの一切を削ぎ落とし、自らを武器として究極にまで鍛え上げ、完成した身体。
彼の仕事である、暗殺という行為を行うために、必要なものが全てそこにある――
殺人マシーン。
闇人形。
イルミやキルアは、自分達のことを語るとき、そんな風に言うけれど……それを目の前にして、私は、彼の身体をとても綺麗だと感じてしまった。
おかしいのかもしれない。
でも、愛しいと思う気持ちは本物だ。
イルミを見つめたまま惚けてしまった私に、彼は、ん?と言うように人差し指を頬っぺたに当てた。
「どうしたの、じっと見たりして」
なにかついてる?
と、イルミ。
いや、なんか、そういうところは天然なんだな……。
「な、なんにもついてないよ……ごめん。ただ、綺麗だなって、思って」
「綺麗?俺が?」
「うん。なんか、洗練されてるっていうか、無駄がないっていうか……いいなあ、私なんか念も身体も無駄ばっかりだもん」
しかも、ここにくる前の二日間は、ゾルディック家ですごしたお陰でステーキ三昧……。
心なしか、お腹の辺りがプニプニと。
ううっ!!
「ヤダ――ッ!!見ないで恥ずかしい!!」
「なに、いきなり。ちょっと、海月。シーツ巻き取るのやめなよ。破いちゃうよ?」
ビキッ!と伸びる、イルミの爪。
イ、イルミもそれ、出来るんだ……。
シャッ!!
「ひえっ!?」
「なんだか、玉ねぎでも剥いてる気分。……ねぇ、恥ずかしがってないで、海月も見せてよ」
「ええ!?」
「なにその反応。いいじゃない。海月とこういうことするのは初めてじゃないし、さっきだってバスルームの鏡に海月の喘いでる姿とか泣いてる顔とか、全部映って――」
「きゃ――――っ!!!」
パアン!!
あ。
必死のビンタが当たった……手じゃなくて触手の方だけど。
「ご、ご、ごめん、イルミ!わざとじゃなくて、つい!!」
「つい、で張り倒されちゃたまらないんだけどなー。海月のそれ、結構痛いんだよ?避けられないしさ。威力はともかく、速さや狙いの正確さはかなりのものだよね。軍艦島でも食らったけど」
「は、ははは……あ、あの時は、イルミが、なんとなくキスしたとか言うから!」
「うん。それについては、謝るよ。あの時は、俺もまだ自分の気持ちがよく分かってなかったからさ……こんな状況で言うのもなんだけど、その技、ちゃんと自分の意思でコントロール出来るように修業したら、かなり使えると思うよ?」
「そ、そうかな……」
「うん」
のし。
真面目な話をしながらも、行動は限りなく不真面目なイルミである。
破いたシーツを剥ぎ取って、私を組伏せ、脚を開かせると、その中心へためらいなく顔を埋めた。
ぴちゃり、と濡れた音とともに、とんでもない場所に舌が這わされる。
「イ……イルミ、イルミっ!!そ、れっ、やめてって、あっ!さ、さっきも……っ、やああっ!!」
「さっき?さっきはもっと奥まで舐めてって言ってたじゃない。舌でここをゆっくり舐められながら、指を激しく抜き差しされるのが好きなんだよね、海月は?」
「ちが……!?あああっ!!!」
「嘘をついちゃダメだよ?」
ペロ……カリッ!
チュウウウウッ!!
「ひあああああっ!!!やあっ!やめて……あつ……熱いぃっ!!」
「気持ちいいの?よくないの?どっち」
ズ……ッ!
イルミの中指が、一息に根本まで穿たれる。
淡々とした声や、電気をつけたままの明るい室内に、羞恥心が膨れ上がった。
「ふーん、スゴいね。まだこんなに吸いついてくるんだ……ヤらしいね」
「イ……ルミ……やだ……もお、意地悪ばっかり……!」
「意地悪?」
グリッ!!
「――ああッ!!」
「それは海月もおんなじだろ?さっきからやだやだ言ってばっかり。ちっとも素直じゃないよね。せっかく二人っきりで来た旅行なのに、わざわざこんな場所を選んで来たのもそう……」
ズプッ、ズチュッ、ズチュッ、ズプッ!
「は……!!」
「再会して間がないから、気持ちの準備が出来てないっていうのはわかるよ。でも、一度は許してくれたじゃない。家族に認められて、一緒にヨークシンに行った夜はさ。意地張ったりせずに、ちゃんと俺を求めてくれたのに……海月は、俺とするの、嫌だった?ただ、痛かっただけ?」
「そ……そんなこと……ない……けどっ!で、も……は、恥ずかし……」
「海月。それはねー、慣れたら大丈夫なんだよ?だから早く、毎日夜になったら俺に愛されて、抱かれて眠るのが当たり前なんだって思うようになってね」
「!!!???」
「で、気持ちいいの?よくないの?どっち」
イルミが、私の中に指を残したまま、上へ、上へと這い寄ってくる。
何度も、キスをしながら……その度に、私の身体には赤い痕が残った。
イルミのキスマーク……初めてした夜につけられた痕も、まだ、たくさん残っているのに。
「ぷはっ!」
「海月?」
胸の突起を口に含もうとしていたイルミが、弾かれたように顔を上げた。
こんな最中にいきなり吹き出してケラケラ笑いだしたりしてるんだから、当たり前だといえばそうなんだけど。
ツボに入っちゃったんだもん。
仕方ないじゃない……!!
「どうしたの……?」
流石に指を抜いて、ぽかーんとした顔で、イルミ。
なおもこみ上げてくる笑いを必死にこらえ、私はなんとか言葉を絞り出した。
「……ご、ごめんなさい……!っ、だってイルミ、毎晩とか言うから……こんなにたくさん、毎晩キスマークつけられたら、そのうち豹柄みたいになって、キスするところもなくなっちゃうかもって……そしたら、おかしくてたまらなくなって……!!」
「………そう」
シーツの上で笑い転げる私を、イルミは不思議そうな目で見下ろしていた。
その目が、ふっと、柔らかく細められる。
「本当に、海月は変わってるね」
「ご……ごめん、そういう雰囲気じゃないのはわかってるんだけどさ、我慢しなきゃって思ったら、余計に出来なくて……」
「本当に、殺し屋にも向いてないよね」
「う……」
「でも、それでいい」
「え」
「海月はそれでいい」
「……イルミ」
ゆっくりと。
イルミの唇が降りてくる。
そのときのキスが、あまりにも、優しくて――
ああ、私のことをちゃんと愛してくれているんだなって、実感できて。
「イルミ……ごめんね、なかなか、素直になれなくて……ごめん」
「海月……」
「でも、好きだよ。イルミに愛されるのは気持ちいいし、幸せだし。イルミのこと、ちゃんと好きだから、私――」
イルミの目がまん丸になる。
その首に腕をまわして、今度は私から彼に口づけた。
***
なんてことがありました。
うーん。
わ、若気のいたりっ!
今回は最後までしちゃったけど、すごく優しかったし、イルミ、もう怒ってなかったらいいなあ……。
「……」
それに、今日はイルミの機嫌がよくないと困る。
シロガネさんとランさんとの対決のため、天空闘技場100階を目指さなきゃならない私なんだけど、今のままでは攻撃はぬるいわ、防御は生半可だわ、とてもじゃないけど100階到達は夢のまた夢。
そこで、鍵となるのは堅と流。
強力な攻撃と強固な防御力を瞬時に切り替える、この二つの技をなんとしてでも会得しないと!
で、そのために会わなきゃいけない人がいるんだよねー。
実は、昨日、あの騒動の終盤に偶然出会って、びっくりしたんだ。
そのひと、念を教えることについてはまさにスペシャリストな……男の人なんだけど。
だから、その人に修業をお願いする前に、イルミになんとかお許しをもらっとかないと、後が怖いというか、あんな恥ずかしいお仕置きは、もうこりごり……。
というわけで。
この場は、彼の好きなキスでもして、起こしてみようと思います。
「イルミー」
ちゅ。
「朝だよ、起きて」
まだ五時にもなってないけど。
「……」
あれ?
イルミ、起きない……。
気配ですぐに目を覚ますと思ったのに。
意外と鈍感なんだな、殺し屋さんのくせに。
仕方ない、もう一回。
「イルミ、朝だよ!ちょっと早いけど起きて?」
チュッ!
「……起きない」
チュッチュッ!
「えー!なんで!?」
おかしい。
これはいくらなんでもおかしい!!
脈は……あるし。
さ、さては……!!!
「イルミ―――っ!!!狸寝入りするな!起きろ―――っ!!!」
ぱち。
途端に開く、真っ黒猫目。
「や。おはよう」
「や。じゃないよ!」
「俺のお嫁さんは、朝から積極的で嬉しいよ。昨日のお仕置きがよく効いたみたいだね。よかったよかった」
「よくない!人には嘘つくなって言ったくせに!」
「俺も嘘なんかついてないよ?ポー、今何時だと思ってるの。それに、昨日だって寝たのは深夜すぎだったし。仕事のない日はよく寝るんだよ?俺」
「う……」
そ、それは悪いことしたかもしれないけど。
「やっぱり普通に起こせばよかった……」
「どうして?嫌だよ。あれがいい。これから俺がいるときは、ああやって起こしてね?」
「え――!!」
「その代わり、俺が先に起きたときは、俺がキスして起こしてあげる」
「!!?」
そ……。
それは、確かに嬉しいかもしれない……!
「嫌?」
くりっ、と、首を傾げるイルミ。
「い、嫌じゃ……ないよ」
「そっか。なら、それでいいね」
「うん……」
こっくり頷いた私の頭を、イルミはハンター試験中によくしてくれたようにぽんぽん、と柔らかく撫でた。