3 ☓☓の訓練!?

 

 

 

 

 

新しい朝が来た。



希望の朝だ。



喜びに胸をひらけ。



青空あっおっげ~~♪



「ラジオ~のっ声に~すっこや~かなっ胸を~――って……なにこれ、イルミ」



「ラジオ体操。というか、初めてなのになんでそんなに完璧に歌えてるの?」



「いや、だって初めてじゃないし。この体操との付き合い、けっこう長いよ?小学生の夏休みとか、毎朝六時に叩き起こされてやらされてたんだ」



おかけでもう、半分寝ながらでも身体が動くくらいだよ。



なんか中毒性あるんだよなあ……この音楽といい、ラジオ体操のお兄さんの声といい。



『ラジオ体操~第一~っ!手を上にあげて手足の運動っ!はいっ!いちっにっさんっしっご~ろく……』



まだ夜も明けきってない森の湖の畔。



シルバさん、ゼノさん、マハさん、キキョウさんにカルトくん、ミルキにイルミに、そして私の総勢八人が並んでラジオ体操をしている図……シュールといおうか、健康的といおうか。



「そう。ポーの世界にも出回ってたんだ、この男のテープ」



「テープって?」



「このラジオ体操を作った男、操作系の年能力者でさ」



「ぶはっ!!?」



「テープに念を込めた音声を吹きこんで、世界中にばらまいたんだ。男の正体や、目的は一切不明。でも、全身の筋肉を負担なくストレッチ、さらに耳につく音楽との相乗効果で、いつの間にか覚えてしまう体操として一大ブームになってね。うちのじいちゃんたちのお気に入りなんだよ」



 「そ、そうなんだ……へ~……」



くそ……っ!



身体が、身体が勝手に……!!



「逆らっちゃダメだよ。彼の念、けっこう強いよ?」



「くそお~~っ!!」



結局、ラジオ体操第二までみっちりと操られ、深呼吸を終えるころには全身の疲れはとれ、筋肉はいい感じに温まり、血行もオーラの流れも促進されて……ははは。



恐るべし、ラジオ体操のお兄さんめ!



「はあ~!でも、スッキリした。早起きして体操っていうのも、たまにはいいね」



「そう?」



「うん!お腹もすいたし、朝ごはんいっぱい食べれそう」



「よかったね。でも、朝ごはんはまだ食べれないよ?」



「え……まだ?」



「うん。その前に訓練しなきゃ」



ガシッ。



イルミの手に腕を捕まれた瞬間、頭の中に警戒音が鳴り響いた。



まずい、まずい、まずい……!!!



で、でも、なにがまずいんだろ?



そうだ、昨日、シルバさんたちが教えてくれなかった――



「く、訓練って……なんの訓練?」



くりっ、と、イルミは首を傾げ、



「拷問の訓練」












       ***












お父さん。



お母さん。



海月に好きな人ができました。



その人は殺し屋さんです。



でもいい人です。



その人の家族も殺し屋さんです。



でもいい人たちです。



ゾルディック家は好きです。



「でも拷問は嫌ああああああああ~~っっ!!!!」



「大丈夫。今日は月曜日だから、肩慣らし程度さ。鞭打ち1000回」



「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!」



「優しく打ってあげるから。ね?」



くりっ。



「ね?じゃないっ!!イルミはハンター試験でもヒソカさんと一緒に私のこと鞭打ちしようとしてたよね!?なに?そんなに私のこと鞭で打ちたいの!!?」



「うん」



ドナドナドナ~~っと連れてこられたのは、ゾルディック家地下の拷問部屋。



もちろん、天井も床も壁も雰囲気たっぷりの重厚な石造り……暗い、寒い、怖い。



「ヤダヤダヤダヤダヤダ~~!!!」



ああああ~~っ!!



なんで!



なんでこんなことに!!?



ピシイッ!パシイッ!



「~~~っっ!!?」



そこかしこに跳ね返り、響き渡る鞭の音……先に行ってたキキョウさんが上半身裸になって(まあ、包帯が服みたいなもんだけど)、早々とシルバさんに鞭打ちされてるし。



なんて……なんてムーディ……なんてよだれ垂らしてる場合じゃないよ!



痛そう!



痛そう!!



「いや―――っ!!痛いのは嫌!!絶対嫌!!なにがなんでも嫌っ!!!」



「ポー、俺と初めてした夜もそう言って逃げ回ったよね……大丈夫だって。ポーは念が使えるんだし、しかも防御向きだし、1000回打たれ終わるまで纏を持続させれば問題ない」



「え……念、使ってもいいの?」



「当たり前だろ。そのための訓練なんだから。俺たちは皆、ガキのころから毎朝これを受け続けてるから、全員が念使いだよ?」



「あ、そっか……!皮膚に日常的な刺激を与え続けることにより、オーラが身体を守ろうとして流出を止め、留まる……自然に纏の形が身につくってわけだ!」



おお~!



面白いな~それ!



「分かってるじゃない。じゃ、打つよ。服脱いで」



「べ、別に脱がなくったっていいじゃないの!」



「いいけど、破けるよ?」



「破けないー!纏はいっちばん得意だもん」



「ふーん。ま、いいか」



打ちながら脱がせていくのも悪くないし。



聞き捨てならないことをサラッと呟くイルミである。



ピシイッ!



真っ黒な鞭がしなり、床を鳴らす。



壁にかかった数多くある鞭の中で、イルミが選んだのは編み上げ型の一本鞭。



丈夫でしなやかで、打撃の力加減がしやすい……というのは、トリックタワーの中でヒソカさんに教えてもらった蘊蓄だ。



あのときは、鞭を触手に見立てて、物に巻きつかせて捕る方法を仕込んでもらったけど、こんなことなら人を打つ方法も教えてもらっとけばよかったかな……。



「いくよー」



「うん、いつでもどうぞ!」



ピシイッ!



ぷるん!



ピシイッ!



ぷるん!



「……流石だねー。その守りの泡。結構強く打ってるのに、本当に破けないな」



「や、優しく打ってあげるって言ったくせに!!」



「だって、それだと訓練にならないだろ。よし。じゃあそろそろ、ちょっと本気を出そうか……」



「!!!??」



パンッと鞭が張られたときだ。



背筋にものすごい寒気が走った。



ヤバイ。



ヤバイ!!



凝をする。



やっぱり!



さっきと違って鞭の先までイルミのオーラに包まれてるじゃないの……!!



物質にまでオーラを纏わせ、強化する。



これは、これはあれだ!



「『周』!!」



「なーんだ。知ってたんだ」



ズバ―――――ンッッ!!!!



直後、さっきとは比べ物にならないほどの速さで飛んできた鞭が、衝撃を生んだ。



なんとか紙一重でかわしたものの……ふと足元を見ると、石の床にパックリと切れ目が。



「ひええええっ!!」



「あ、ダメだよ。避けたらー」



「むむむ無茶言わないでよ!こんなの当たったら死んじゃうよ!!」



「死なない、死なない。ポーは自分で思ってるよりずっと丈夫なんだよ?」



「死なないとしても痛いでしょうが――!!」



バシイィン!!



パシイイィン!!



ズビバシ――ンッ!!



うあああああああ……!!!!



イルミのバカ――――ッ!!!



スパルタ式鬼畜仕様冷血操作系――!!



もう、どれくらい打たれただろう。



そのうちのほとんどは避けてるけど、当たったことを考えたら気が気じゃない!



しかも、イルミ……これだけ打ってるのに汗ひとつ流してない。



呼吸も……オーラも乱れてない。



す、すごい。



流石はイルミだ。



鞭を使ってるけど、周によってオーラで包まれているから、動きは私の“見えざる助手たち(インビシブルテンタクル)”とよく似ている。



でも私ならきっと、ものの一時間ともたない。



イルミと違って、オーラの使い方に無駄がありすぎるからだ。



そうだ!



これって触手を使った攻撃に活用できるんじゃないのかな……。



よし、そうとわかればじっくり観察して――



「終わったよ」



「えっ!もう!?」



そんな!



せっかくまともに観察しようって気になったのに!



「追加、500回お願いします!!」



「なにそれ。今の今まで嫌がって逃げ回ってたくせに」



「いいから!私、打たれた分しか換算しないからね。だから、避けられた分だけ打ってお願い!!」



「いいけど。今度は本当に本気でいくよ?」



イルミがオーラを高める……ぞくぞくした感じがどんどん強くなる。



望むところだ!!



イルミの鞭打ち、絶対に会得してやるんだから……!!



「来い!!」