「おお!」
次の日の朝。
イルミと共に、小型ボートでゾルディック島へと戻ってきた私は、砂浜に立つ二つの人影に目を丸くした。
片方は、黒いコートを羽織ったチーちゃん。
そして、そのとなりで仏頂面の上、苦虫を噛み潰している黒髪短髪の男の子――
おおー。
おおおー、すごい!!
確かに、まだ標準体型とは言いがたいけれど、それでも突き出たほっぺと胸の贅肉、腹の贅肉はマシになってる!!
昨日のミルキがヒョウタンなら、今日は、そう……ピーナッツ!!
流石は美容魔法師、ビスケさんだ!!
浜に着いたボートからぴょいっと飛び降り、打ち寄せる碧い波の上を、私は駆けていく。
「おはようっ! 痩せたねえ~、ミルキくん!!」
「ていうか、やつれた? まあ、報告メール通り体重は順調に減っているようだから、別にいいけど」
淡々と、私の後を追ってきたイルミが言った。
はああ~……っと、深い、深い溜息が、ミルキの口から吐き出され、
「良くねえ――っっ!! イル兄は今更言うまでもねーけど、ポー姉の薄情者っ!! なんだよ、あのビスケとかいう鬼ババアは!! うちのツボネ以上の鬼ババアじゃねーかっ!! いや、それどころか、あの情け容赦ないしごきっぷりは親父クラスだ!!」
「なに言ってるの。シルバさんにしごかれてもちっとも痩せなかったくせに」
「ちなみに、前に俺がしごいたときにも痩せなかったよ」
くりっと首をかしげながら、人差し指を唇にあて、「もういっそのこと、歯磨き粉みたいに中身を絞り出してやろうかと思っちゃったよー」などと、可愛くのたまうイルミである。
本気の響きに、さあっと、ミルキくんの顔が青くなった。
「……ま、まあまあ、いいじゃないの! ほら、さっきシルバさんから届いたメールにも、お褒めのお言葉が入ってるし! “頑張っているようだな”って!」
「そのメールを開くまでが、大変だったんだけどね」
……まあね。
起き抜けに鳴り響いたゴッドファーザー、携帯画面に浮かび上がるシルバ・ゾルディックの文字に、震え上がらなかったといえば嘘になる。
なんってったって、ご本人に直接の断りなく、小島とはいえ島を一島買い取ってしまったんだもの。
“暗殺予告”の四文字が、頭を過るのは当然じゃない……!!
「だって怖かったんだもん朝っぱらから心臓縮んじゃったよもうーっ!!」
「まあ、半分詐欺まがいの真似をしたからね。命知らずにも、うちの親父相手に」
「危ないと思ったら止めてよイルミーっ!!」
「俺が止めてもやめないくせに」
ポンポンとリズムよくイルミと言い合う私の肩を、チーちゃんが叩いた。
「じゃれあってるとこ悪いんやけどな。ビスケからの伝言や。水中で効率よくウェイトトレーニングを行うための、ノウハウやって」
はい、と手当されたのは、分厚い資料である。
「おおー! ありがたい! 期限まであと三日、これでさらに無駄なく無駄な脂肪が落とせるよ、ミルキくん!」
「もう嫌だコフー!! もう充分痩せたじゃねーかっ、あと三日間も昨日みたいな水中運動と特訓コースを続けるなんて無理だっつーの!! 帰る!! 俺は家に帰る!!」
「やめといたほうがいいよ。シルバさんが言ってたよ、もしあいつが弱音を吐いて脱獄して家に帰って来たら、俺が責任を持って送り返してやるって」
「ぐっ!?」
ククルーマウンテンを背に、不敵に笑うゾルディック家ご当主、シルバ・ゾルディックの姿が、ミルキくんにも容易に想像できたのだろう。
真っ青になった顔面に、汗が玉になって浮かんでいる。
そんなミルキの肩を、にっこり笑ってぽんと叩き、
「まあまあ。そう悲観しないで、頑張った後にはいいことだってあるんだから。今日の水中作業と、ビスケさんの特訓コースが終わったら、皆で町にステーキ食べに行こう! ダイエットには運動と質のいいタンパク質の摂取が欠かせないんですってシルバさんに頼んだら、経費で落としていいって!!」
「全く、ポーには甘いよねー。親父は」
甘すぎて気持ち悪いよ、と無表情に毒を吐くイルミ。
彼の横顔を、じっと見上げた。
「……なに」
「あのね、シルバさんからとあるご命令が下りまして……」
「なに」
途端に、ぎょん! と怖くなるイルミの目。
「ひゃあああうっ!! 怖い!! 怖いからそんな目しないでってば!」
「だって、親父の命令なんてどうせろくでもないことに決まってるじゃない。なに? もしかして仕事?」
「ちち違うってば! 三日後の夜にね、パーティーを開きたいんだって。会場を探してたんだけど、せっかく南の島を買ったんだから、ここでやろうって話になってるみたい。ミルキくんのダイエットも、そもそも、そのパーティーに出るためのスーツを着れるようになっるっていうのが目的で……だけど、予想以上に痩せそうだから、今のうちにスーツを新調しておけって。イルミも一緒に」
「パーティ? ああ、親父が俺も参加しろって言ってた、アレか。何のパーティーなんだろう。ミル、何か知ってる?」
「いや。俺も知らない。てっきりイル兄は知ってると思ってたぜコフー」
「ふーん。なんか、嫌な予感がして仕方がないんだけど。ポーは何か聞いてない?」
「……」
「ポー?」
くりっと首を傾げて、イルミは私の目をじっと覗きこんだ。
「なにか知ってるの」
「うん……」
頷いたものの、なんとなく言いよどんでしまう。
イルミは長身をかがめて私の目を覗きこんだ。
「教えて?」
「……うん、あのね……今回のパーティーは」
イルミの目の中に映る私の顔が、みるみるうちに赤面した。
「ポー?」
「……あの、わ、私とイルミの……………婚約発表パーティーなんだって」
「え!」
こちん、とイルミが固まった。
どんな顔をしていいか分からなくて、真っ赤になって俯いていたら、ふいに、なめらかな指に顎を持ち上げられた。
「……ポーはそれを聞いて、出ますって言ってくれたの?」
「……うん」
頷くと同時に、ぎゅうっと抱きしめられる。
体温の伝わりにくい暗殺服と違い、夏麻のシャツは風を含んで温かい。
この島に来て、イルミには潮の匂いがすっかり板についた。
うれしい、と私の肩口に顔を埋めたまま、彼は言う。
「ありがとう」
「……ほんとは、ちょっとだけ迷ったんだけどね」
「えっ、なんで? 今更だけど、俺と結婚したくないってわけじゃないよね」
「ち、違うけど、その……シルバさんはともかく、キキョウさんはまだ良く思ってないみたいだったから」
「母さん?」
まあなあ、と、イルミの背後でミルキくんが深々と頷いた。
「ま、仕方ないかもな。ポー姉はどうみたってママの趣味じゃないしコフ……!?」
言葉を発するが早いか、イルミの姿がシュンッと消えて、次に現れたときには、巨大な(失礼)ミルキくんの身体を片腕一本で締めあげていた。
つま先が完全に宙に浮いている。
「イイイイイルミ、イルミ!! そんなに怒らないで、ほんとのことなんだから!!」
「…………ミル、二度目はないからね」
ひくぅい声で念を押すイルミに、ガックガクうなづくミルキくん。
そのとなりで、チーちゃんはなんだか思案げだった。
こういうとき、
紅い、ルビーみたいな瞳を光らせて、じっと海を見つめている。
「チーちゃん、どうかした?」
心配になって声をかけると、彼女ははっとして、すぐにふるふると首を振った。
「いや……なんでもないわ。ただの思い過ごしや」
くるり、とこちらに向き直り、
「それより、
「うん!」
とはいえ、
さすがゾルディックの人間が二人も手を貸してくれているだけのこ
なので、今日行うことの主なノルマは植え付け作業の残りと、
この二つだけだ。
昨日の作業で水中での活動に慣れたのか、
というわけで、
修行を終えた頃には、ぴったりお昼。
さあステーキだ、とみんなで歓声を上げた途端、
「あたしも行くっ!!!」
シュパッと、ビスケット・クルーガーの右手が上がった!
「ですよねー!ビスケさんも一緒にステーキ食べに行きましょう。
「もっちろんだわさ! 全く、この子のしぶとい脂肪のせいで、汗だくでへとへとよ。しっかり食べて栄養補給しないとね!」
「しかも奢りだなんて最高だわさー!」とはしゃぐ彼女に、ふーん、と無表情にイルミが言った。
「殺し屋一家の当主の奢りだけど、いいの?」
「別に構わないわさ。ステーキはステーキ!どこの誰に奢られようが、何にも変わらないわ」
「……ま、そうかもね。ポー、食べ終わったらスーツを仕立てに行くんだろ。その後、寄りたい所があるんだけど、いい?」
「寄りたい所? うん、いいよ」
「ビスケも来て欲しいんだけど」
「あたしも?」
碧い目を丸くするビスケさんに、イルミはこっくりとうなづいた。
「君、ストーンハンターだろ。しかも、この島に店を持ってるってことは、この島で取引される石の情報にも詳しいよね。正式に依頼するから、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」
「ふーん。ま、どこに行くか、なーんとなくわかったわ。OK! 暇だしいいわよ!」
かっかっかーっと笑うビスケさん……なるほど。
店主さんがこんなだから、何年も先まで予約がいっぱいになってるんだなあ。
イルミがどこに行きたがっているのかは気になるところだけど、ひとまずは空腹を満たすために、昼時で賑わうメインストリートへ繰り出すことになった。
***
「ウエストが入らねえ――――っっ!!」
昼食後。
ブライダルストリートの一角に店舗を構える……まあ、私の元いた世界でいうところのアルマーニとか、そういう類の超ハイブランドショップに迷うこと無く入っていったイルミとミルキ。
迎えてくれた店員さんに、イルミが要望を的確に伝え、フィッティングルームに入って三分。
先ほどのミルキくんの絶叫が響き渡ったのである……。
「だから、食べ過ぎだっていったのに」
「アホミルキ」
「こりゃあ、午後から修行のし直しだわねー」
やれやれ、と顔を見合わせる私とチーちゃん、ビスケさんの前で、もうひとつのフィッティングルームがガチャリと開いた。
「全く。呆れを通り越して悲しくなってくるよ……やっぱり、俺が物理的に脂肪を絞り出すしかないか」
「!!?」
イルミが……。
イルミが!!!
「ポー?」
くりっと、傾く彼の首の下。
すっきりとしたダークカラーのタキシードは、細身な彼をよりスマートに、肌色をより白く際立たせる。
ご本人はピンクがいいピンクがいいとことあるごとに仰るがしかし。
やはりイルミには黒が似合う!!
「ポー、鼻血」
「ふわっ!? ご、ごめん、イルミ……そ、そんな格好のイルミ見るの初めてで、私……」
「興奮した?」
「しないよ!?」
ヒソカさんじゃあるまいし……と、ハンカチでゴシゴシと鼻血を拭う私に、イルミはすうっと目を細めて近づいてくる。
長い指で、私の耳朶を摘んで、
「嘘つき。耳まで真っ赤になってるくせに」
「――っ!!」
くい、と上向かされ、唇を奪われる寸前。
バターン! とフィッティングルームの扉が開いた。
「よそでやれよ!!ったく……それより兄貴!80ってなんだよこのウエストサイズ!!入るわけねーだろ、せめて90センチ寄越せよなあ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!」
「イイイイルミ、イルミッ!!こんなところお仕事道具使っちゃダメだって!!」
最近、ちょっと出番のすくない金属製のエノキを、フォーマルスーツ姿のミルきくんの脳天にブッツリと突き刺したイルミは、怖いくらいの真顔をくりっと傾げた。
「俺達の邪魔をするだなんて身の程を知らないにも程があるよ。ここはしっかり躾けておかなくちゃ。長男として」
「お仕事道具はお仕事以外に使っちゃいけません!大丈夫、ミルキくん?」
「うう、痛ぇ……コフー……」
ズプッと抜かれたエノキのあとをさすりさすり、ミルキくんが立ち上がる。
この程度ですむあたり、彼もゾルディックなんだなあ。
そして、ウエストがと彼が叫んでいた通り、高そうなスーツはいまにもはちきれんばかり。
でも……
「え!?むちむちだけどちゃんとズボンまで履けてるじゃない!ウエスト80なんでしょ?すごいよ、ミルキくん!!
「フロントホックがとまらない時点で、ちゃんと履けてるとはいいがたいけどね」
うん、まあ、それはそうなんだけどね。
イルミの後ろにいる店員さん、笑顔がひきつってるし。
でも、ほんと。
この島に来る前のことを思えば、たった二日間でよく痩せたものだ。
大福餅みたいだったほっぺたも、心なしか骨格がわかるくらいになってきたし。
盛り上がった顔肉のせいで、細くつり目がちだった目元も……あれ。
「な、なんだよポー姉! ち、近すぎんだろ、顔が!!」
「……いや、ミルキくんってさ。痩せると意外と目が丸くって、大きくって、イルミみたいだなーって……え?実は、結構似てる?」
「そ、そりゃあまあ、兄弟なんだからある程度似てるだろうがよコフー……俺と兄貴は、ママ似だし」
「そっか―!! じゃあ、もーっと痩せたらもーっと似てくるよねー!!」
ショートカットのイルミか……悪くない。
それに、ミルキくんはたいてい家にいるんだもん。イルミに似てくれたら、イルミが仕事でいない時も、イルミを見て癒やされることが出来るじゃないの!!
やったー!!
「ポー、ポー、ポーってば、よだれ」
「なんかまた、ヤバそうなこと考えてる気がするぜコフー……」
つんつん、とイルミに人差し指でつっつかれてようやく我に返り。
「ミルキくん!!痩せよう!!あと髪の毛ももっと伸ばして―っ!!」
「言うと思ったぜポー姉の兄貴バカ!!ぜってー嫌だかんな!!それだけは何で釣ってもぜってー御免だぜ!!」
「ミルを俺に似せたいの?そんなことしてどうするの」
「視覚的に癒されたいのー!!イルミがいないとき、たまーにキキョウさんに頼んでゴーグル外してもらうんだけどさー、やっぱりこう、なんっか違うんだよね!でも、ミルキくんなら男の子だし、イルミ昔は髪の毛短かったじゃない?だから、絶対そっくりになると思うんだよね―」
ほわわーんと、半分夢の世界に飛び立とうとしている私を見つめつつ、イルミはくりっと首を傾げた。
「それはそうだろうけど。でも、なんで知ってるの?俺が昔、髪が短かったってこと。写真は、たしか見せてないよね?」
ギク。
……しまった。
本誌のアルカちゃん編が始まったときに、昔のイルミの写真がのってるの、読んだもんだからつい……しかし、ここは落ち着いて。
「え、だって、最初から長かったわけじゃないでしょ?イルミがもーっと小さい時の写真は、額縁入りで持ってるけどさ。一回は、シルバさんの命令でザックリ切っちゃったって、キキョウさんから聞いたけど」
「ああ。うん、そうだよ」
よく覚えてたね、とこっくり頷くイルミに安堵する。
うーん、ゾル家にきてから、私もずいぶん取り繕うのが上手くなったもんだ。
「ま、兄貴の場合、ザックリ切ってからが問題だったんだけどなコフー」
ニヤニヤ笑いのミルキくんの言葉に、イルミの視線が一瞬で厳しくなった。
「ミル。黙れ」
「うぐっ!わ、わかったよ兄貴……」
「えー!気になる!!」
「ほんまやほんまやー!言ってもたもんは最後まで話さんかーい!!」
わいわい、ブーイングする私とチーちゃん。
それをすっと制して、ビスケさんが進みでた。
「まあまあ、無理強いってのは良くないわさ。ところで、イルミ。あんた、随分前にアタシのお店に脅迫まがいに予約を入れようとしたことがあったわねえ」
「うん。ロイヤルヘアトリートメントコース、受けてみたくてね。きっぱり断られたけど」
そういや、その相手ってのが君だったよね、と、ビスケさんを見つめるイルミの目が冷たくなっていく怖いいいいっ!!
でも、落ち着き払って彼女は言った。
「いいわよやってあげても。そのかわり、さっきの話の続きを聴かせてよね!」
「……わかった」
はーあ、と溜息ひとつ。
イルミは誰とも視線を合わせずに、ぼそっと言った。
「女が群がってきたんだよ」
「え?」
「それだけ」
おしまい、と口をつぐんでしまったイルミだけど、言葉足らずにもほどがある。
見かねたミルキくんが、横から補足を入れてくれた。
「だからさ、兄貴の婚約者の座を狙ってた女達だよ!」
「へ? あ、ああ、そっか!」
「すげー数だったんだぜー? しかも、タチが悪かった。大体が他の殺し屋名家の令嬢か、マフィアやギャングの娘。試しの門をよじ登ったり、根性ある奴は開いて中に入ってきたり、あげく、兄貴の仕事先を突き止めては強引に絡んできたりしてさぁ!一時は兄貴が仕事に出るたびに、執事たちが10人以上で警護に当たらなきゃ追いつかねーくらいの、すっげー騒ぎになって……ギャアアアアアアアアアアアアア兄貴っ、痛いっ、痛いって、ガチで刺さってるって!!」
「刺してるんだから当たり前だろ。全く、お前の口には本当に余計なものしか出入りしないよね。いっそのこと、にいちゃんが針と糸で縫い合わせてあげようか」
「ひいいいいっ!? ポー姉、助けてコフー!!」
「ス、ストップストップ!イルミ、それ、お店の仕立て用のやつだから!勝手に持ってきちゃダメでしょう!?こんなお店で兄弟喧嘩しないの!」
ほんとにいつの間に持ってきたのだろうか、イルミの手にあるいかにもプロ仕様な針山と、それに刺さった針と糸を取り上げる。
すると、くりっと彼は首を傾げ、いつもより少し低い声で私をよんだ。
「ポー」
「な、なに?ダメなものはダメだからね」
「うん。そうじゃなくてさ、今の話、気にしないでよね」
「え……?」
「髪を切った俺に群がってきた女達のこと。俺、誰一人として相手にしなかったから。自分がモテてるって自覚もなかったし、実際、そうじゃなかったし。あんなのは全員、うちの金目当てに押し寄せてきたハイエナだ。ただ、俺が髪を切った時期と、奴らの考える結婚適齢期が重なっただけ。あいつらがほしがったのは俺じゃなく、ゾルディックだ。だから、気にしないで……」
お願い、と、握りしめてきた指の先が、震えている。
表情にはわからないけれど、彼が饒舌になる時は、何らかの不安を抱えている場合が多い。
うん、と私は頷いた。
「大丈夫、気にしたりしてないよ。でもさー、それって普通にモテてたんだと思うよ? 確かに、イルミがゾルディックっていうこともあっただろうけど、それだけじゃなくて、イルミがよかったんだよ。その人達、ミルキくんには求婚しにこなかったんでしょ?」
「うん」
「そんなにはっきり頷かないでくれよ、兄貴……」
「でしょ? イルミは綺麗だし、カッコイイもん。この島の通りを一緒に歩いてると、皆が振り返って見るしね。もし私が全くの他人だったとしても、そうすると思う。ゾルディックって家名を外しても、イルミはちゃんと男性的に魅力のある人なんだから。町ゆく女の子の誘惑には気をつけて下さい」
「わかった」
こっくり、神妙な顔で頷いて、イルミはそっと長身をかがめ、私の頬にキスをした。
「……ありがとう」