3 ★ゾル家地下室での千一夜。

 

 

 

 

 

 

突然ですが、皆さん。

 

 

 

私、蓬莱海月ことポーには、幼少の頃から大嫌いなものが一つあります。

 

 

 

それは。

 

 

 

注射です。

 

 

 

嫌いです。

 

 

 

刺すのも抜くのも嫌いです。

 

 

 

予防接種や脂質検査という呼び名からして嫌いなのです。

 

 

 

予防接種はまだいいよ。

 

 

 

脂質検査?

 

 

 

はあ???

 

 

 

要は注射じゃないですか……注射だったら注射だってはっきり言ってくれないとね。

 

 

 

心の準備が出来てないわけですよ受診者は!!!!!

 

 

 

てっきり体脂肪率でも計られるんだろうなーなんて気持ちでお医者さんの前に座ったら、

 

 

 

「はーい、じゃあ採血しますねー」

 

 

 

なんて!!!

 

 

 

ぶっとい針の注射器を取り出してきて!!!!

 

 

 

逃げ出そうにも、腕は細いゴムホースで拘束されている始末!!

 

 

 

罠だよ!!

 

 

 

巧妙かつ卑怯な罠だよ!!!!

 

 

 

「ブツブツ喚いてないで、さっさと腕を出しなよ」

 

 

 

ガッシ、と私の右腕を掴んで迫るイルミ・ゾルディック。

 

 

 

いつものことながら喜怒哀楽のまったく伺えない無表情である。

 

 

 

手には注射器。

 

 

 

見るからに怪しい液体が、針の先からつつっと垂れ落ちる。

 

 

 

その冷たい針の先が無理矢理あてがわれようとした――瞬間、守りの泡が自動発動し、皮膚の貫通を免れた。

 

 

 

ジロリ、と漆黒の目が私を向く。

 

 

 

「海月」

 

 

 

「いや――――っ!!注射は嫌!!嫌ったら嫌!!痛いの怖いの子供のころから大嫌いなんだもん―――――っ!!!!」

 

 

 

「あのね、何度も言うけど、これはお仕置きなんだよ?お仕置きは辛くなきゃ意味ないじゃない」

 

 

 

ね、とまったくもって理不尽な理屈を述べるイルミを斜め下から睨みつけ、

 

 

 

「お仕置きって言ったでしょ!!注射打つとは言ってないじゃない!!!」

 

 

 

「じゃあ聞くけど。言ったら素直にこの部屋まで来た?」

 

 

 

「ううん」

 

 

 

「でしょ?」

 

 

 

だから言わなかったんだよ、と言わんばかりにくりっと首を傾げるイルミである。

 

 

 

うううう!!!

 

 

 

そんなのってズルい!!

 

 

 

ガックリと項垂れた拍子に、首にはめられた金輪つきの鎖がジャラリと硬い音を立てた。

 

 

 

実は、私たちがいるこの場所。

 

 

 

いつものイルミの部屋ではございません。

 

 

 

暗殺一家ゾルディック家地下室のさらに奥、さらに地下深くにある、イルミ曰く秘密の拷問部屋です。

 

 

 

床、天井を含めて六面が石壁になっている他は、豪華なホテルの一室と言っていいくらいに趣味のいいお部屋です。

 

 

 

ベッドには真っ白なシルクのシーツが敷かれ、しかも、天蓋付きのキングサイズだし。

 

 

 

ソファはふかふかだし。

 

 

 

テレビは大きいし。

 

 

 

奥にはトイレとバスルームとキッチンまでついている。

 

 

 

なんだこの豪華な拷問部屋は。

 

 

 

ちょっと私、ここに住んでもいいですか……?

 

 

 

ゾルディック家についてから、周囲へのあいさつもそこそこに引きずられてきたこのお部屋。

 

 

 

彼が昔、今よりももっとキルアに歪んだ愛情を注いでいた頃、幼い弟をこっそり閉じ込めておくべく、おこづかい(暗殺報酬金)をコツコツ貯めて造ってしまった場所なんだとか。

 

 

 

で、シルバさんに見つかって怒られて封鎖されてしまったらしい。

 

 

 

ナイスですシルバさん。

 

 

 

ついでにぶっ壊しといてくれればよかったのに……!!

 

 

 

「……この状況でまーだ他の事考えてる余裕があるんだねー」

 

 

 

ある意味感心するよ。

 

 

 

ため息まじりに呟きながら、イルミは構えていた注射器を、ベッドサイドに置いてある銀色の医療トレイの中へ戻した。

 

 

 

ほっ。

 

 

 

「安心するのは早いよ。海月」

 

 

 

「え?ってちょ――――!!?ちょっとイルミなにそれ怖い!!」

 

 

 

振り向いたイルミがかわりに手に取ったのは、またまた見るからに怪しい液体の入った小瓶だった。

 

 

 

アンプル、と言ったらいいのか、キャップがなく、瓶の口の先端が円錐状に熔封されたガラス器である。

 

 

 

イルミの親指の爪が僅かに伸び、その瞬間、すっぱりと切断されたアンプルの頭がシーツの上に転がった。

 

 

 

「ちょちょちょちょちょっと待って!!それって注射器の中に入れる薬剤そのものでしょ!?怪しいよ!!怪しすぎる!!せめてそれがなんなのかくらい教えてよ!!?」

 

 

 

「いいけど。答えるかわりに条件があるよ?」

 

 

 

「な、なに……?」

 

 

 

ジャラジャラ、四肢に纏わせた鎖を鳴らし、寝台の端へと逃げる私を眺めつつ、イルミはのんびりと足を組んで座った。

 

 

 

トプン、と液体を揺らし、

 

 

 

「答えたら、嫌がらずにこれを飲み干すこと。もちろん、体内の念のバクテリアは解除してね」

 

 

 

「ええっ!?」

 

 

 

「……海月。飛空艇の中ででもそうだったけど、俺、自分でも驚くぐらい、ものすごく譲歩してると思うんだよねー。だから、この条件も飲めないっていうならもう知らない。ここに鎖で繋いだまま、半月くらい休みなしで仕事に行っちゃうよ?もちろん、海月の身体にお仕置きに相応しい仕掛けをしてからね……」

 

 

 

「嫌―――っ!!分かった、分かったからもうそのベッドサイドの引き出し開けないでー!!その怪しい注射器セットや、この鎖もそうだったけど、ろくなものが入ってる気がしないよ、その中は!!」

 

 

 

「そんなことないよ。俺が海月のために用意した愛と快楽の素敵グッズの数々ばっかりだよ?例えばこのバイブのうさちゃ――」

 

 

 

「出さないで――!!もういいから、その薬の正体は何!?」

 

 

 

「媚薬」

 

 

 

「……」

 

 

 

だろうなーとは思っていたけれど。

 

 

 

やっぱりそうだった。

 

 

 

不安と予感を裏切らない男、イルミ・ゾルディック24歳。

 

 

 

サラサラ、流れる黒髪をぞんざいにかき上げつつ、

 

 

 

「前々から父さんに言われてはいたんだよね。海月がこの先もゾルディック家に関わるつもりなら、こういう訓練もしておいたほうがいいって」

 

 

 

「シルバさんが!?」

 

 

 

「そう。この家は男兄弟ばかりだから、こっち方面の拷問の訓練ってあんまりしないんだよね。近いところで、自白剤に対する抵抗力をつけるくらいかな。でも、海月は女の子だから。敵に捕まって、真っ先にされそうなことって安易に考えつくよね」

 

 

 

「う……」

 

 

 

だから、実は俺も心配だったんだよー、とイルミ。

 

 

 

「でも、そのことを指摘されたのは海月が家に来て間もないころでさ。身体の関係も今みたいに深くなかったから、無視してたわけ。でも、いずれはしないといけないだろうなって。だから、これはものすごくいいタイミングだと思うんだ。お仕置きと一緒に、媚薬を使った拷問の訓練も出来る。海月の好きな一石二鳥ってやつだよ」

 

 

 

「ででででででもでもでもっ!!」

 

 

 

「でもも、だってもないよ。さあ、ちゃんと答えたんだから薬飲んで」

 

 

 

「イルミ~~!!」

 

 

 

「ダメ。海月、俺との約束を二度も破るの?」

 

 

 

「うう……!!」

 

 

 

そ、そんな言い方ってズルい……!!

 

 

 

ずい、と目の前に突き出された怪しげなアンプルを受け取ると、イルミは黙ったまま目で「飲め」と促した。

 

 

 

ううう!!

 

 

 

分かりましたよぅ、飲むよぅ、飲めばいいんでしょ?

 

 

 

この怪しい……ピンク色の、いかにもって感じの液体を――

 

 

 

「ちゃんと飲んだ?」

 

 

 

「……飲んだよ。何これ、甘くて酸っぱくて苦い……!!」

 

 

 

息を止めてキューっと飲んだつもりだったのに、喉の奥にこびりついた薬の味が、しつこいくらいに舌に絡まりついてくる。

 

 

 

「不味い……」

 

 

 

「当たり前じゃない。本当なら血管に直接投与するタイプの薬なんだから。はじめから飲むようには作られてないよ。で、気分はどう?」

 

 

 

い、今、サラリととんでもないことを言われたような気がしたのは気のせいですか?

 

 

 

「べ、別に……っ、さっきと変わりないけど……」

 

 

 

「そう」

 

 

 

「だ、だってさ、媚薬っていうけど、巷に流通してるそのほとんどが催淫剤や強壮剤の一種で、薬学的にちゃんとした効果があるかっていうと不透明なんだよ?性器の充血を昂進させる作用を持つ薬っていうのは確認されてるけどさ、主に男性の勃起機能の改善に使用されているくらいで、女性性器に対しての効能は期待できない……っていうか、そんな薬があったらうちで使ってるよ。個体数の少ない絶滅危惧種の海洋哺乳類を交配させるって難しいんだから!」

 

 

 

「それは知ってる。だから、そっち系の薬じゃないよ」

 

 

 

「え……じゃ、じゃあ……もしかしてとは思うけど麻薬とか覚せい剤関係の――」

 

 

 

「それもハズレ。俺が海月にそんな危ないもの使うと思うの?心外だなー」

 

 

 

のしっと、顔を覗きこむように、イルミは私の身体を寝台に縫いつける。

 

 

 

前かがみになると、癖のない真っ直ぐな黒髪が、彼の両肩からするりとすべり落ちて私の首筋をくすぐった。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

「えっ、もう効いてきたの?」

 

 

 

「わ、わかんない……」

 

 

 

「ふぅん。なら、調べてあげるから服脱いで」

 

 

 

「イルミ……!」

 

 

 

「脱げ」

 

 

 

イルミの猫目がすうっと眇められる。

 

 

 

口調はきついものではないのに、その視線に射すくめられただけで震えが走った。

 

 

 

薬剤が効きやすいようにオーラの放出を抑えているためだろうか、目の前にいるイルミか発せられる威圧感は、普段とは段違いだ。

 

 

 

怖い……。

 

 

 

「震えてるの?」

 

 

 

クスッと、一瞬だけ唇に浮かんだ微笑みが、次の瞬間には、乱暴に首筋へと押しつけられていた。

 

 

 

頸動脈の上に、イルミは、噛みつくようなキスをしてくる。

 

 

 

「ひゃ……うっ!」

 

 

 

「すごいね。舌の先から海月の鼓動が伝わってくるよ。熱いね。薬、ちゃんと効いてるみたいだね……」

 

 

 

いい子、と髪を撫でられる、そんな些細な指の動きにも、私の身体は敏感に反応を示していく。

 

 

 

ドクドクと脈打つ心臓の音がうるさい。

 

 

 

まるで、熱にでも浮かされているみたいだ。

 

 

 

熱くて熱くてたまらない。

 

 

 

どうしようもなく火照る肌の上を、イルミの手のひらが撫でていく。

 

 

 

「ひ……や……っ、あっ、ああん……っ」

 

 

 

冷たくて、滑らかな手のひらに、頬から首、胸のラインを丁寧になぞられて、たまらずに声を上げた。

 

 

 

一度漏れだした喘ぎは、もう止められない。

 

 

 

呼吸の度に、みっともなく開いた唇からあられもない声がひっきりなしに溢れ、まるで耳の中から侵されていくような羞恥に、耐えきれず唇を噛んだ。

 

 

 

「させないよ。俺さ、海月の声聞くの、楽しみにしてたんだよね。ヤラシイ声、出せるでしょ?」

 

 

 

「……っあ、や……ああっ!」

 

 

 

なんの前触れもなく、胸を弄っていたのと別の手が、スカートの裾から脚の間へと潜り込んでくる。

 

 

 

下着の上から割れ目をなぞられ、イルミは既に知り尽くしている一点を、親指の腹でグリグリと刺激した。

 

 

 

「やっ!?そこ、や……だっ、や、ひゃああ……んっ!イ、ルミ……イル……ミィ、待って、待って……ぇ、お願――っあああ――っ!!」

 

 

 

「待たない。海月、それより、俺の言ったことが聞こえなかったのかな?」

 

 

 

「……っ、い、たことって……?痛っ!」

 

 

 

イルミの指が、服越しに胸の突起を乱暴に抓った。

 

 

 

こういう時のイルミは本当に容赦がない。

 

 

 

なおも続く痛みに生理的な涙を浮かべても、冷たい眼差しで私を見下ろしてくるだけだ。

 

 

 

「服、脱いで」

 

 

 

「……ぐ、脱ぐ……からぁ、やめて……やめてぇ……お願い……!」

 

 

 

「いいよ。海月、俺はさ、海月が素直に言うことを聞いて、ちゃんと反省するつもりがあるなら痛いことなんてしないんだよ?」

 

 

 

わかった?と首を傾げるイルミが、涙で滲んで見えなくなる。

 

 

 

そのままぎゅっと目を閉じて、ついこの間新調したばかりの、セーラー服型の仕事服のスカーフを解いた。

 

 

 

服は前開きになっている。

 

 

 

堅く止めたボタンを、上から順番に外していく。

 

 

 

手の動きに合わせて、手首に取り付けられた鎖が揺れ、カチャカチャと音を立てた。

 

 

 

「いいねー。なんだか、海月をペットにしたみたいだ」

 

 

 

「……っ」

 

 

 

「ねえ、海月。いっそのこと、このままずっとここに繋いで飼ってあげようか?そうしたら、俺は毎日安心して仕事に行ける」

 

 

 

「イルミ……?」

 

 

 

「どんなに忙しくても、毎晩帰って来て可愛がってあげるよ。死ぬまでね……」

 

 

 

ぐい、と首の鎖を強く引かれ、息苦しさに呻いた。薄く開いた唇に、イルミは時間をかけて、味わうようなキスを落とす。

 

 

 

「……なんてね、冗談。海月、大したことない鍵だから、触手を使えば簡単に外せるだろうけど、勝手に外したりしたらわかってるよね」

 

 

 

「わ、わかって……る……」

 

 

 

上着も、その下のアンダーウェアも取り払ってしまうと、あたりに漂う地下室の冷気が急に肌寒く感じた。

 

 

 

それだけ体温が上昇しているのだろう。

 

 

 

背筋を這いのぼってくるような悪寒に身を震わせる私に、イルミは抑揚のない声で先を促した。

 

 

 

仕方なく、背中に腕を回してブラのホックに指をかける。

 

 

 

「……」

 

 

 

「海月、早くしろ」

 

 

 

「……う、……ひぃっく……」

 

 

 

「泣いてもダメ。許さない。それ以上ぐずぐずするなら、俺が破くけどいいの?」

 

 

 

「や……っ!?」

 

 

 

長く爪を伸ばしたイルミの手が、ふとももを這い上がり、下着の上を軽く撫でた。

 

 

 

たったそれだけの動きなのに、甘い痺れが体中を駆け巡り、何も考えられなくなっていく。

 

 

 

イルミの手が気持ちいい。

 

 

 

服を脱いで肌を晒すたびに、次第に熱を増していく彼の視線も。

 

 

 

ぴったりと密着した下腹部から、伝わってくる猛りも。

 

 

 

全部、気持ちいいのに。

 

 

 

ブラを取り払い、残っているのは下だけ……それでもなお最後に残った羞恥心が、僅かな布地をずらす手の動きの邪魔をする。

 

 

 

イルミは、そんな私を眺めて満足そうに目を細めた。

 

 

 

「可愛い、海月……ちゃんと頑張ってるみたいだから、手伝ってあげる」

 

 

 

「あ……っ!?」

 

 

 

まるで紙でも破くような仕草だった。

 

 

 

イルミは私の腰を抱えて持つと、両手の指を下着のサイドに滑りこませ、ピッと布地を断ち切ってしまったのだ。

 

 

 

「イルミ……イルミ……!」

 

 

 

この後、どんなことをされるかは分かりきっていた。

 

 

 

熱に浮かされた自分自身が、その行為にどんな反応をしてしまうかも――

 

 

 

けれど、イルミの手を押しとどめた瞬間、後悔した。

 

 

 

欲情のためか、うっすらと赤く色づいた彼の唇が、意地悪そうに弧を描く。

 

 

 

「海月。邪魔するならこうだよ」

 

 

 

「え……?や、やあっ!?」

 

 

 

カチッと、ボタンを押す音が聞こえた途端、今まで自由に動けるくらいの長さがあった鎖が一気に巻き取られた。

 

 

 

幸い、脚の鎖はそのままですんだから、貼り付けにされることはなかったけれど、両手はもう自分の意思で動かすことは叶わない。

 

 

 

「いい眺めだね。さてと、これで邪魔なものはなくなったっと」

 

 

 

「~~っ!」

 

 

 

布切れになった下着を、イルミはゆっくりと、私の反応を楽しむように脚の間から抜き取った。

 

 

 

「あ……あ、ああ……っ」

 

 

 

「……気持ちいいの?」

 

 

 

「……ち、……い……きも……ちい……っ」

 

 

 

「いい子。それじゃあ、次はどうされたい?指でいじられるか、舌で舐められるか……そうだ、たまには道具を使ってみようか?」

 

 

 

「……めて……」

 

 

 

「聞こえないよ」

 

 

 

「舐め……て、イルミ……の舌で……められるの、好き……だから」

 

 

 

「わかった」

 

 

 

頷いて、イルミは私の脚を大きく開かせ、中心へ顔を埋めた。

 

 

 

身体はもうこれ以上ないくらいに火照っていて、そこは自分でも燃えるように熱く感じてたのに、ためらうことなく触れてきたイルミの舌はそれ以上だった。

 

 

 

「あああああ……っ!!」

 

 

 

舐められて、吸われて、焦らされて……意識が、ドロドロに溶けていく。

 

 

 

もう、自分が何を口走っているかも、何回、絶頂に達したのかも。

 

 

 

嬌声の合間にイルミ、とうわ言のように繰り返す私を、イルミがどんな風に見つめているのかも、もう分からなかった。

 

 

 

軽蔑されているのかもしれない。

 

 

 

薬くらいでこんなになるだなんて、と、後で馬鹿にされるかもしれない。

 

 

 

でも……離れている間、ずっとイルミにこうされたかったのは本当なんだ。

 

 

 

どんな形でもいい。

 

 

 

愛して欲しかった。

 

 

 

「イ……ルミ……そこ、ダメェ……っ!」

 

 

 

堅く尖らせた舌の先で、むき出しにされたクリトリスを責め立てられ、その度に大きく腰が跳ねた。

 

 

 

同時に、イルミの右の手がぬるぬると愛液を絡めとり、ランダムに指を動かして脚の間を刺激する。

 

 

 

それだけでももう充分なほど気持ちがいいのに、イルミはぐちゅ、とわざと恥ずかしい水音が立つように、唇を広げて陰部全体をすっぽりと覆った。

 

 

 

激しく伸縮を繰り返す穴の中へ、根本まで舌が埋めこまれる。

 

 

 

「――っ!あ、あああ、あ……っ!?イ……ルミ、イルミィ……!」

 

 

 

「またイッちゃったね……舌でされるのが、そんなに好きなの?それとも薬が効いてるのかな」

 

 

 

「ふえ……え……っ、……がう……違……う」

 

 

 

言った途端、三本同時に指で貫かれた。

 

 

 

「ああああっ!?」

 

 

 

太さに馴染んでいなかった私の中が、悲鳴を上げるように凝縮しても、構わず奥へ、奥へとねじこんでくる。

 

 

 

「あ……ああ……ああ、う……!」

 

 

 

快感と、痛みが頭の中をいっぺんに荒れ狂い、目の前が真っ白になった。

 

 

 

耳に響くのは冷たい声。

 

 

 

「こんなになってるのに、まだそんな嘘をつくんだ?そう、なら仕方ないね。海月がそういう態度をとるなら、もう容赦しない。このまま本当に閉じ込めて、欲望のまま俺を求める人形にしてやる。覚悟するんだね……」

 

 

 

「違……う、イルミが……イルミが好き……」

 

 

 

熱と快楽に浮かされたまま、私は、思ったことをそのまま口にした。

 

 

 

「……」

 

 

 

「イルミが……好きだから、どんなことされても、きっと、嫌じゃ、ないんだと思う……」

 

 

 

「……薬のせいだとは思わないの?」

 

 

 

「思うわけ……ないじゃない、私……私、あんなもの飲まされなくったって、ずっと、イルミが欲しいって、思ってたもん」

 

 

 

「……そう」

 

 

 

そのときイルミがどんな顔をしていたのかは知らない。

 

 

 

けれど、次に、イルミが私の頬に手を置いてくれた時。

 

 

 

泣き濡れて、グチャグチャになって顔に貼りついた髪の毛をすいて、涙をぬぐってくれたそのとき。

 

 

 

彼は確かに笑っていた。

 

 

 

唇に、触れるだけのキスが降ってくる。

 

 

 

「――海月、挿れるよ」

 

 

 

「うん……っ、――っ!!」

 

 

 

限界まで脚を開かされると同時に、イルミの中心が私の中に穿たれる。

 

 

 

久々の抽送に、ついつい忘れかけていた痛みの記憶が蘇り、気がつけば、イルミの腰の動きを、脚でがっちり挟んで阻止していた。

 

 

 

「ちょっと。ここまで来てお預けは、さすがに酷いと思うんだけど」

 

 

 

「ご……、ごめ……!!痛……、ほんとに痛いの……!」

 

 

 

「そう。まあ、久しぶりだからね。俺以外の男を飲み込んでないなら、そうなっても当然か。わかった。じゃあ、こうしよう?」

 

 

 

言うなり、イルミは私の両腕の拘束をさっさと解いて、くるりと体勢を入れ替えた。

 

 

 

気がつけば、私は寝台に身体を伸ばしたイルミの上に、ちょこんと乗っている私。

 

 

 

……え?

 

 

 

「なにポーっとしてるの。ほら、動いて。これだったら痛くなっても自分で加減できるだろ?」

 

 

 

「え?え??う、嘘……やだっ、そんなの無理……っああん!」

 

 

 

ぐいっ、と下から腰を突き上げられ、悲鳴が漏れた。

 

 

 

「無理じゃない。海月が動かないなら、このまま俺が――」

 

 

 

「わ、わか……分かった、から……あ、動くの、っめて……っ!!ひい……っ、痛……いた……いよぉ……!」

 

 

 

「ほんとに痛いんだ。参ったなー。この前の旅行で随分慣れたと思ってたのに。再生能力が高いっていうのも考えものだよね」

 

 

 

「うう……ごめんなさい……」

 

 

 

「謝らなくてもいいけど。ゆっくりでいいよ。深呼吸して、身体の力を抜くのを忘れないで……」

 

 

 

下から上へ、貫くようだったイルミの動きが、一変して、ゆるく円を描くような水平運動に変わった。

 

 

 

奥へ奥へ穿つのでなく、膣の中を優しく撫でられているような感覚に、手放しかけていた甘い感覚が戻ってくる。

 

 

 

それをイルミに知らせるように、クチュクチュと水音が立った。

 

 

 

「やだ……」

 

 

 

「どうして?気持ちいいから濡れてきたんだろ。俺も気持ちいいんだから、海月ももっと悦くしてあげる」

 

 

 

きゅ、と尖った胸の先端を摘まれたとき、予想もしていなかった快感が体中を駆け巡った。

 

 

 

こんな感覚、今までにはなかった。

 

 

 

「やっ!?だ、だめ!ダメぇ、イルミ……!!一緒にしたら、ダメ……!!」

 

 

 

「嘘。そんなに乱れて何言ってるの。下で繋がってるんだから、誤魔化そうとしたって分かるよ。凄いね、海月の中。俺のことぎゅうぎゅう締めつけてくるの、分かる?」

 

 

 

「分か……な……ああああ――っ!!」

 

 

 

「そう。じゃあ、分からせてあげる。海月、胸と一緒にここも弄ってあげようか?クリトリス。舌を挿れながら弄るだけであんなに悦んでたんだから、きっと気持ちいいよね。気が狂うくらいにさ……」

 

 

 

言いながら、イルミの指は既にその箇所に触れられていた。

 

 

 

人差し指の先が、小さく震える粒の上をゆるりと撫でる。

 

 

 

たったそれだけで、意識が飛ぶほど気持ちいい。

 

 

 

先程まで感じていた疼くような痛みはあっという間に消え去って、いつの間にか、ぎこちなかった私の動きも、イルミ自身をより深く受け入れるために激しさを増していく。

 

 

 

勝手に動いて、勝手に乱れていく私を、イルミは嬉しそうに目を光らせて見つめている。

 

 

 

「イル……ミ、イルミ……っ!!」

 

 

 

「ははっ、……上手になったじゃない。いい子だね、海月は」

 

 

 

「ひゃあ……う……!イ……ルミ……お願い……動いて……!」

 

 

 

「いいよ……」

 

 

 

「あああ……っ!」

 

 

 

焦らすように胸と下腹部を弄っていたイルミの手が離れ、腰を掴まれた瞬間、ためらいがちに腰を揺すっていた私の動きを、イルミの性急な律動が一掃した。

 

 

 

ただただ、彼の背中にしがみついて、声を上げることしかできなくなった私の身体を、なおも攻め立ててくる。

 

 

 

なにもかも、残らず食らうように。

 

 

 

私の全てはイルミのものだと、そう教えこむかのように。

 

 

 

「あ……ああ……あ……っ!!」

 

 

 

「海月――まだだよ。気を失うなんて許さない……二度と、俺を忘れたりしないように、仕込んであげる」

 

 

 

「……る……、や……くそ……く、する……からぁ……!るして……もう、許し……てぇ」

 

 

 

「ダメ……」

 

 

 

ぺろ、と、イルミの唇が耳朶を舐め、更に激しい抽送を開始した。

 

 

 

その後、何度も体位を変えられて、気絶したあと、一緒に入ったお風呂の中でもまた求められて――

 

 

 

行為の終わりがいつだったのか、私には知ることも出来なかった。