6 ミルミルラブラブ大作戦!?

 

 

 

 

荷物を執事さんたちに任せ、飛空艇を降りて空港の入島ゲートへと向かう。

 

 

 

でも、ゲートを潜ろうとした瞬間、けたたましい警報が鳴り響いたのだ!

 

 

 

警備員さんたちがすぐさま駆けつけ、なぜか、ミルキただ一人を羽交い絞めに。

 

 

 

なになに!?

 

 

 

一体どうなってるの!?

 

 

 

「ミルキくん!?まさか、ポケットに自作の爆弾なんか忍ばせてないよね!?」

 

 

 

「んなわけあるかコフー!!ちきしょう、放せお前ら、ぶっ殺すぞ――!!」

 

 

 

ジタバタジタバタ……紺色の警備服の合間に見え隠れする短い脚を、眉一つ動かざずにじっと見つめながら、イルミはふむ、と大真面目に呟いた。

 

 

 

「もしかして……体重制限があるとか」

 

 

 

「イルミィ~、エレベーターじゃないんだから……あ、誰か来たよ?すっごいムキムキですっごい派手な人!うわあ、ハート型のサングラスに髪型までピンク色のアフロでハート型だよ!!あんな人はじめて見た!」

 

 

 

「……ヒソカ以上に関わりあいになりたくない人種だね。誰、あれ」

 

 

 

「わかんない」

 

 

 

くりっと首を傾げたのと、赤銅色の胸元を露わに、ピンクのアフロにピンクのアロハの男の人が大量のダンサー達を引き連れ、サンバのような勢いで突っ込んで来たのは同時だった。

 

 

 

ポロロ~ン、とウクレレなんかかきならしつつ、

 

 

 

「レディ~~スエ~~ンド、ズェントルメアア~~ン!!ハジメマシテ皆さん。ワタクシの名は――グホッ!?」

 

 

 

「ちょっとイルミ!?ダメだよ!一般の人に手刀なんかしたらっ!!」

 

 

 

「……ゴメン。ちょっと、びっくりして」

 

 

 

右の手をハンカチで拭き拭き、淡々とのたまうイルミの横顔が、心なしか蒼白だ。

 

 

 

まあ、あんなスチールウールみたいな胸毛と腕毛とすね毛に迫って来られたら、流石のイルミでもそうなるか……。

 

 

 

でも、ほんとにこの不審しゃ……この人は誰なんだろう。

 

 

 

痛む脇腹を押さえつつ、ちょっと気分悪そうに床に這いつくばっていたその人は、気を撮り直すように勢いよく立ち上がり、豪快に笑った。

 

 

 

背も高い……体格もシルバさんといい勝負だ。

 

 

 

「HAHAHAHA――!!お見苦シイところをお見せしてシトゥレイ致しました。ワタクシの名は、アガペリオ・ラヴ・ヴァレンタイン。ここLOVEの島、マーレ諸島の誇る観光大使兼島長デス!!」

 

 

 

「えっ!?島長さんって……あの、私が知ってるこの島の島長さんは、ラブラシカさんっていうお爺さんのはずなんですけど?」

 

 

 

「OH!レディ、ワタクシの父をご存知でしたか!実は先日、代替わりを致しまして、父は引退、かわりにワタクシが次の島長を務めることとなった次第でゴザイマス。以後、お見知りおきを!!」

 

 

 

うわあ!

 

 

 

ハート型のでっかいサンブラスを上げて、ウィンクされた!!

 

 

 

瞬間、再びイルミの手が動こうとするのをテンタ君で阻止!!

 

 

 

「――で、なんで入島早々、うちの弟がとっつかまってるのかな。特に危険物は持ち込んでないはずなんだけど」

 

 

 

氷のような冷たい視線に、氷のような冷たい言葉。

 

 

 

完全武装の鉄面皮で訪ねるイルミに対し、新島長アガペリオさんはまったくもって動じない。

 

 

 

それどころか、増々もって際どい腰つきでマッチョなポーズなんか取りつつ、チッチッチ、と指を振ってみせた。

 

 

 

「NONNON!あなた達二人はともかく、そのおデブちゃんは立派な入島条件違反者デス。違反者を島に入れるわけにはまいりまセン」

 

 

 

「違反者?」

 

 

 

「ルックス的に?」

 

 

 

「性格的に?」

 

 

 

「いや……やっぱり体重制限があるんじゃないの、ポー」

 

 

 

「二人してボロカス言い過ぎだコフ――!!だいたい、性格だったらイル兄がひっかからないわけねゴフッ!!」

 

 

 

うわあ、今、見えない速度でパンチしに行ったぞイルミ。

 

 

 

そんな様子を眺めつつ、でっかいハートのサングラスをくい、と押し上げる島長さんである。

 

 

 

「NONNONデス。ワタクシの治める愛の島に、外面的、内面的な差別意識など御座いまセン!男も女も、老いも若きも、天使も悪魔も、太っていても痩せていてもOKデス。同性愛者や多夫多妻、異種愛者の入籍だって認めてますよ!」

 

 

 

「つまり、飼っている犬と結婚しようと思ったら」

 

 

 

「デキマス!」

 

 

 

「じゃあなんでミルキくんは島に入れて貰えないんですか!?そんなの不公平じゃないですか!!」

 

 

 

「まあ、待って、ポー。つまり、問題はミルキ個人にあるってことじゃないってことだろ」

 

 

 

「その通り!!只今、このマーレ諸島一帯はワタクシの島長就任記念した一大ブライダルキャンペーン中なのです!!世界各国、ありとあらゆる恋人達が愛を誓い、愛を高め、愛を育むためにこの島にやってくる……しかし、シトゥレイながら見たところそのおデブちゃんは――シングルです!!!」

 

 

 

ビッシイ!!と貫かんばかりにミルキを指さすアガペリオ氏である。

 

 

 

うん、当たってる、とイルミ。

 

 

 

「シングル……シングル!!嗚呼、なんと寂しく、なんと不幸な響きでしょうっ!!愛の溢れる愛の島に、陰気なお一人様など断じて不要。シングルは島の風紀を乱すだけでなく、他の恋人達が愛を育む際に多大なるご迷惑となりマスのでどうぞお引取りを!!!!」

 

 

 

「酷ぇ島だなおいっ!!」

 

 

 

「いや。一理あるよ、ミル」

 

 

 

「イルミ、意地悪言わないの。あのぅ、島長さん?私たちの入島目的は観光じゃありません。私は海洋生物幻獣ハンターのポーといいます。離島の海洋調査及び、水質改善を目的とした生物実験の為にここに来ました。イルミは婚約者ですけど、ミルキくんはスタッフです。申請も済で、了承も既に頂いています」

 

 

 

「すると、貴女があのパドキア海の女帝『闇狩人』!?お噂は兼ね兼ね……この島の急激な観光開発に待ったをかけ、自然保護に協力して下さったお話も父から聞かされておりますよ。そうですか、ご婚約をされていたとは――それでは是非、我が島が総力を上げて挙式を!!!」

 

 

 

「いや、だからそうではなくて――」

 

 

 

「うん、頼むよ」

 

 

 

「イルミは黙ってて!」

 

 

 

「C’est magnifique!では、お日取りはいつ――」

 

 

 

「任せるよ」

 

 

 

「イルミ――!!」

 

 

 

「……で、俺の入島はどうなるんだよコフー」

 

 

 

げっそり呟くミルキくん。

 

 

 

いつの間にやら、警備員さんたちに取り押さえられた丸い身体には、ピンク色でハート型の鉄環を繋いだラブリーなチェーンが。

 

 

 

拘束したのは島長さんだ。

 

 

 

色気のある腰つきで、ガッシャン、と鎖の先を入島ゲートに繋いでしまう。

 

 

 

「ご心配には及びまセン。不幸なシングルに愛の手を差し伸べることもまた、愛の島の住人である我々の使命。愛の島の長であるワタクシが、必ずや貴方にぴったりのステキなカワイコちゃんをチョイスして差し上げます!!」

 

 

 

「余計なお世話だコフー!!くっそう、大人しくしてりゃつけあがりやがって、こんな鎖引きちぎってや――ギャアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!」

 

 

 

「ミルキくん!?」

 

 

 

い、今、ピンク色の電撃みたいなのが彼の身体を走ったような――も、もしかしてこれは!?

 

 

 

「オーラだ。ポー、どうやらこの島長、念能力者みたいだね」

 

 

 

「うええ!?け、系統は具現化系?」

 

 

 

「COUCOU!ワタクシの操る“愛の死刑囚(LOVE OR DEATH?)”は、拘束したものの命を吸収しつつ力を増すオソロシイ鎖なのデス!!助かる方法はただひとつ。それは、恋をすること!!!」

 

 

 

なんという恐ろしい能力か!!

 

 

 

「クラピカのジャッジメントチェーンより数倍タチが悪いよイルミ!!どうしよう、このままじゃミルキくんの命が!!」

 

 

 

「別にいいんじゃない?少しくらい絞りとって貰ったほうが、痩せるかもしれないし」

 

 

 

「それもそうか……」

 

 

 

「ポー姉ええええ!!!?」

 

 

 

冗談だってばミルキくん。

 

 

 

だからそんな泣きそうな顔しないでよ……でも、どうしよう。

 

 

 

ミルキくんが恋か……。

 

 

 

「特撮レンジャーを読んでくるわけにはいかないし――あ、そうだ。島長さん、アニメキャラクターとの婚姻とかって」

 

 

 

「デキマセン!!」

 

 

 

「なんでだよコフー!!俺は失恋戦隊ミレンジャーのミレンブルーを心の底から愛してるのに!!!」

 

 

 

「恋愛とは現実でするものデス!!貴方のそれは恋愛ではなく妄想デス!!」

 

 

 

「う!?」

 

 

 

携帯電話の待受画面に大写しになった水色ツインテの女の子、ミレンブルーをつきつけたままビシリと固まるミルキくん。

 

 

 

うん……一理ある。

 

 

 

なにかなー、この、イルミに対する恋心への後ろめたさは、ははは。

 

 

 

いいじゃない、二次キャラに恋したって!!

 

 

 

「困ったなー。こうなったらうちの学生さんに頼んでミルキくんの恋人役を――」

 

 

 

やってもらおうか。

 

 

 

そう思いかけた時、はたと気がついた。

 

 

 

「ちょ、ちょっとミルキくん、その画像、もう一回見せて!!」

 

 

 

バッと彼の手から携帯を奪い取って確かめる!!

 

 

 

「うわあ、やっぱり!びっくりするほどそっくりじゃないの!ミルキくん、ちょっと待ってて、私、いい子知ってるから紹介する!!」

 

 

 

「はあ!?」

 

 

 

携帯の電話番号、教えてもらっといてよかったよー。

 

 

 

ええっと、あ、コレか。

 

 

 

ピポパピポ!

 

 

 

プルルルルル、プルルルルル……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ。

 

 

 

『……はい』

 

 

 

「あっ!チーちゃん?ごめんね、急にかけて!実は頼みたいことがあってさ、マーレ諸島の小島買い取って毒珊瑚の植えつけ作業するんだけど来てくれない?今すぐに!!」

 

 

 

『はあ?毒珊瑚て、あのヴェノムコラリウムか。アレの群生地がどこか知っとるんか?有毒ガスの噴出する深海の火山帯やで。おまけに重量が半端ない。無理や無理や、個体採集だけにどんだけ時間がかかるかわかったもんとちゃうわ』

 

 

 

「大丈夫だよ。もう搬送も終えてるもん。あとは、実際に島に行って植えつけるだけ。でもね、海水中に含まれる毒成分の調整とか、分析とかが私一人じゃ難しいと思うんだよねー。是非とも専門家の力を借りたいんですよ!だからお願い、今すぐ来て?」

 

 

 

『ポーちゃん、あんたほんまに何者やの!?……まあ、ええわ。そういうことやったら、チルノも興味あるし。ええよ、行ったっても。でも、なにをそんなに急いどるん?なんや、制限時間でもあるみたいに』

 

 

 

「あるんよ!!――じゃなかった、あるの、制限時間が!実は、調査に協力してくれるはずの子がね、カップルじゃないからダメって言われちゃって。入島するには女の子が一人足りないの!だからお願い~~!!」

 

 

 

『なるほどなぁ~。あの島の新島長が、変わった掟を作ったって噂は聞いとったけど。わかった、行ったるから泣かんとき』

 

 

 

「ありがとう!!じゃあ、詳細はこっちに着いてから話すから、できる限り早く来てね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

チルノちゃんは、約束通り空港に現れてくれた。

 

 

 

相変わらず、真っ黒いフード付きのコートで顔を隠して、ヒールの高いゴツめのブーツをゴンゴン慣らしてやって来る。

 

 

 

不機嫌さMAX。

 

 

 

不穏なオーラをダダ漏れにして、飛行船を降り、指示通りに一人で迎えに来た私の前に一直線にやってきたと思ったら。

 

 

 

ゴスッ!!

 

 

 

「痛いっ!なんで向こう脛蹴っ飛ばすの!?」

 

 

 

「なんでやちゃうわアホ!!なんやねん、さっきの話!着陸寸前にとんでもないことバラしおって!!」

 

 

 

「とんでもないって、その相手の男の子っていうのが、ミルキくんっていうゾルディック家の次男坊なんだよって言っただけ痛い!!」

 

 

 

あう!!

 

 

 

そんなごっついブーツでガスガス蹴らないで痛い!!

 

 

 

しかもそれだけじゃなく、私の耳を素早くつかんで強引に引き寄せ、

 

 

 

「とんでもないことやないの!!言ったやろ、裏稼業の人間は信用ならんて!チルノはな、闇に隠れてコソコソ悪事を働く輩が、大嫌いやの――――っ!!!!」

 

 

 

「ギャアアアアア耳元で怒鳴らないでゴメン――!!」

 

 

 

だって!!

 

 

 

言ったら来ないと思ったんだもん!!!

 

 

 

「黙ってたことは謝るけどさー、いい子だよ?今までも、私が困ったときはなんだかんだ言いながらも力になってくれたし。ちょっと今は見た目がアレだけど、この四日間でちゃんと痩せさせるし、大丈夫!元がシルバさんとキキョウさんだもん!絶対かっこ良くなると思――痛ーい!!」

 

 

 

ゴッス、と一際重い一撃を私の脛に蹴り入れるチルノちゃん。

 

 

 

み、見た目はちっちゃくて可愛いのに、なんてヘビーな蹴り。

 

 

 

「そんなことは問題とちゃうねん!!もしゾルディックの連中にチルノの名前がバレたら厄介なことになる!!それに、チルノの能力のヤバさは知っとるやろ!?この力は自分じゃ抑えられへん。悪意のある者に触られたり、本能が危険を察知すると自動的に刺胞針が飛び出して周りの人間を無差別に攻撃する。好きで真夏にこんなコート着とるんとちゃうねん。これには、全身から飛び出す念の刺胞針を、ある程度やけど抑える働きがあるんよ。毒はチルノの体内で生成されるオリジナルやから血清はない。ポーちゃんはその妙な守りの念の力で、刺されてもなんともなかったけどなぁ、普通の人間やったら死んどるで!?」

 

 

 

「平気だよ。だったら、二人にはチーちゃんの本名を知らせなきゃいい話でしょ?チーちゃんって呼んだらいいじゃない。で、刺胞針の方は、私が念の泡で包んで守る。はい、解決!じゃあ、入島手続きしに行こっか!」

 

 

 

「は……?ちょ、ちょっと待ちい!!妙な触手で引きずらんといてー!!」

 

 

 

人の話を聞かんかーい!!

 

 

 

そんな関西弁は完全無視で、チーちゃんとチーちゃんの旅行かばんをズリズリ引きずり、入島ゲートに急いだ私を、イルミが待っていた。

 

 

 

足元には、ぐったりしたミルキ。

 

 

 

「お疲れ。で、ミルキに合わせたい相手っていうのは、そいつ?」

 

 

 

「そう!!チーちゃんっていうの。すごいんだよー、毒のエキスパートでね。私の研究友達なんだ!チーちゃん、紹介するね、こっちはイルミ。私の婚約者さん」

 

 

 

「……」

 

 

 

おおう、超不機嫌……!

 

 

 

話して貰った通り、チーちゃんの腕から顔から全身から、ミクロの毒針が飛び出している。

 

 

 

でも、それを全部、私が発動した遠隔操作型の“驚愕の泡(アンビリーバブル)”が、防いで、イルミに届くのを阻止している。

 

 

 

この前の天空闘技場の戦いの時にも使ったけど、対象者を泡で包んで守る遠隔操作型の守りの泡は、私の身体から離して使う操作系寄りの技だ。

 

 

 

だから、私自身を守る時と比べると威力は弱まる。

 

 

 

でも、近くに入れば強化することも出来るし、包んだもののオーラを泡が吸収することによって、結構長い時間、自動発動し続けることが出来るんだよねー。

 

 

 

技の訓練にもなることだし、一石二鳥!

 

 

 

「……毒針が、弾かれとる」

 

 

 

フードの下で、目を丸くするチーちゃんの前に、イルミが長身を屈めた。

 

 

 

「初めまして」

 

 

 

「は、初めまして……」

 

 

 

「なんだ、ちゃんと喋れるんじゃないか。君の能力、その針で身体を刺して仕込んだ毒を送りこむって力のようだけど、気にしなくていいよ。俺には毒は効かない。こいつにもね」

 

 

 

「また……妙な奴を呼んで来たんじゃねーだろうなコフ痛え――っ!!」

 

 

 

「だからさー、なんでお前はそう態度ばかり大きいのかな?こんなフザけた念能力にむざむざ捕まるだなんて、恥さらしもいいところだよ。全く。お兄ちゃんは泣きたいね」

 

 

 

「イルミ、イルミ!落ち着いてっ、そんなにガスガス踏んだり蹴ったりしたら、流石のミルキくんでも潰れちゃうよ!!さ、さあ、島長さん!約束通り、お相手の女の子を連れてきましたよっ!だから早く念の鎖を解いて下さい!!」

 

 

 

いつの間にやらこの場に運び込まれた金色の玉座――そのハート型の背もたれに優雅に身を預けつつ、文字通りの高みの見物を決め込んでいる島長、アガペリオ氏である。

 

 

 

見れば、あのやっかいな鎖に繋がれているのはミルキくんだけではない。

 

 

 

あの後も、彼曰く『入島条件違反者』が後を断たなかったのだろう。

 

 

 

ピンク色でハート型の足かせやら手枷を付けられた男の人達が空港のロビー中に列をなし、まるで奴隷市でも行われるかのようである。

 

 

 

うーむ、酷い。

 

 

 

「NONNONデス。ポーさん。この鎖を解くのはワタクシではありません。彼自身です。このおデブちゃんが、誰かに恋をしたそのトキメキが鍵となるのデス!」

 

 

 

……あの、もし良かったらこの能力で捕まえて欲しい人達が13人ほどいるんですけど――いや。

 

 

 

やっぱりやめておこう、恐ろしいことになる。

 

 

 

「聞いただろ、ミル。さっさと発情しろ」

 

 

 

「出来るか――!!」

 

 

 

「いくらなんでもストレートすぎるよイルミ!もっとこう、ソフトに。はい、この子に恋してミルキくん!」

 

 

 

「どっこいどっこいだぜポー姉!!あのさあ、二人共短い付き合いじゃないんだから俺の性癖がどんなだか知ってるだろコフー!?俺の純情を注いでいるのは、失恋戦隊ミレンジャーのミレンブルギャアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

「イルミ、だから、そんなに強く踏んじゃダメだって!!」

 

 

 

「だって、こいつムカつくんだもん。身内じゃなきゃこの場で殺してるよ?」

 

 

 

くりっと可愛く首を傾げないで―!!

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

ああ!ほら、チーちゃんが呆れてため息なんかついてる!!

 

 

 

でも、その時だ。

 

 

 

チーちゃんがミルキの前に歩み出た。

 

 

 

そして、白い両手をフードの縁にかけたのである。

 

 

 

ゆっくりと、滑り落ちる黒い布。

 

 

 

その下から、真っ白な髪がシュルリと零れる。

 

 

 

腰までとどきそうなツインテールを、目と同じ色のシュシュで結んでいる。

 

 

 

うっはあ、何度見ても可愛い~!!

 

 

 

「へえ、綺麗な髪」

 

 

 

「でしょう!?目の色も赤いし、なんかウサギさんみたいだよね!こんな可愛い子、滅多にいないよ?それにほら、どことなくだけどミレンブルーに雰囲気が――」

 

 

 

「似てる……」

 

 

 

ボソリ、とミルキが呟いた途端。

 

 

 

その身を縛っていたピンク色の鎖が、パーン!!とはじけ飛んだのだ。

 

 

 

これぞ愛の力……か?

 

 

 

「俺、ミルキって言います!!ちょっぴり太めでお茶目で可愛くシャイな男の子!今日会ったばかりけど、一億年と二千年前から君のことを愛し――うげあっ!?」

 

 

 

鎖から解き放たれるや否や、ものすごい勢いで飛びついてきたミルキの顔面を、眉一つ動かさずにゴッス、と足の裏に伏すチーちゃんである。

 

 

 

うーん、見事だ。

 

 

 

床に踏みつけ、しっかり三回、靴の踵でグリグリするのも忘れない。

 

 

 

そのまま、ぐっと身体を低くして、ミルキの耳元に啖呵を切った。

 

 

 

「黙れ肉団子。二度と断りもなくチーの身体に触れようとしてみい、体中の穴という穴から吹き出すほど毒食らわしたるから覚悟せいや!!!」

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア――!!やっぱり変な奴じゃねーかー!!ポー姉の知り合いってこんなヤツしかいないのかよギャアアアア――ッ!!」

 

 

 

「うん、いい踏みっぷりだ。俺は気に入ったよ。ポー」

 

 

 

「よかった!じゃあ、島長さん、鎖も解けたことだし、入島していいですよね!」

 

 

 

「ええ、かまいませんトモ!今はお互いの心に棘があろうとも、先程、彼が感じたトキメキは本物です。私の鎖を一瞬にして消し飛ばしてしまうほどの強いラブパワー……いいものを見せて頂きましたよおデブちゃん!!」

 

 

 

「うるせえ――!!却下だ、却下!!こんな女、可愛くもないし俺のミレンブルーにだって少しも似てなグアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

「うるさいブサイク黙れデブ」

 

 

 

あははは……ついに、ミルキくんのお腹でトランポリンし始めたよ、チーちゃん。

 

 

 

でもまあ、うん。

 

 

 

きっと、なんとかなる!!!