15 イルミ!×ポー?×飛行船!?

ゴンとキルア、レオリオ、クラピカと再会を喜んだ私は、夜が更けるまで共有の広間にいた。



ひとしきり騒いだ後、ちょっと眠くなったので、明日に備えて早めに休もうと思ったのだけれど。



部屋に向かう途中、廊下の曲がり角で待ち構えていたあの二人に、まんまと捕まってしまったのである……。



「カタカタ……(ポー)」



「ふわっ!!?イ、ギタラクルさん……どうしたんですかそんな
紫色の顔してって、うわ!!」



ひょい、と首の後ろを捕まれて宙吊りにされる。



「だからっ!犬猫みたいな持ち方やめてくださいって!!」



「ポー☆おつかれさま。ずっと皆に囲まれてたから、声がかけづらくって困ったよ」



「え、二人も来ればよかったのに」



「それは遠慮しとく。ボクたち、嫌われものだしねぇ……★」



「自業自得です」



「クックック……ッ!相変わらずはっきり言うねぇ☆」



「カタカタカタカタ……(ヒソカ、もういいだろ。こいつは連れて行くよ)」



「え……?」



「うん☆ポーの元気な顔が見れてよかったよ☆でもイルミ、腹が立ってるからって、あんまり虐めちゃダメだからね★」



「……」



「え、え、え?腹が立ってるって、なんで……いたたたたた!!イ、ギタラクルさん!!そんなとこ引っ張らないで!!ひ、引きずらないで下さいってばああああ………!!」



たあすけてえええええ……!!!



ドナドナ連れていかれる私を、ドSな奇術師はニヤニヤしながら見送っていた。







       ***







バタン!!



「ひゃうっ!?」



ドアを開けるなり、イルミは突き飛ばすように私を部屋の中に押しやった。



施錠して、ゆっくりとこちらを振り向く。



一歩、また一歩と近づきながら、顔に刺さった針を引き抜いていく。



ベキッゴキゴキベキョッ!!



「ひいいいっ!!?」



怖い……怖い怖い怖い!!!!



イルミがなんか怒ってる!!!



でも、なんで……?



「ご、ごめんなさい、殺さないで下さい!!もし殺すなら痛くないようにひと思いにスパッと殺っちゃって下さい……!!」



「………………殺さないよ?」



「え……?」



「だって、殺しちゃったら怒れないじゃない」



そっちか!!



「お、怒るって、なんで怒ってるんですか!?」



「わからない?」



「わか、わかるわけないじゃないですか!イルミさん、ただでさえ無表情なのに……!!」



「……」



あ。



今、ちょっとむくれたような気がした。でも、そんなのきっと気のせいだ……!



だって、イルミ兄さんっていったらキルアに人殺しさせるわ、針ぶっ指して操るわ、表情ひとつ変えずにブッスブッスエノキ刺して殺しまくるわ、なんてったってあのヒソカと対をなす悪役キャラクターなんだから!!



冷たい床にペタン、と腰を抜かしたまま見上げていたら、イルミの真っ黒な瞳が潤んだように光った。



「え……?」



さっき、と、かすれた声。



「……さっき、呼び出されてたよね。ハンター協会の会長に」



「あ……はい、ネテロ会長ですね」



「なにもされなかった?」



「はい……ステーキを食べさせてもらっただけいたい!!」



直後、とんでもない早さで飛んできたエノキが、私の眉間にヒットした。



「うえええん!イルミさんがぶった!!」



「煩いよ。ポーが悪いんだろ。ひとがせっかく手塩にかけて育ててあげてるっていうのにさ。その芽を摘み取ろうとしてる奴らに、不用心に近づいていくってどういうこと?そんなにステーキが好きなの?そうだ。それならいっそ、ポーを殺してステーキみたいに焼いてあげようか」



洒落にもならんわ!!



「摘み取るって……べつに、なにもされませんでしたもん!」



「結果論だろ。もし目をつけられてたら……ポーが、念を使うには危険だって判断されてたら、力づくで精孔を閉じられていたかもしれない。目覚めたばかりの能力者なら、まだそういう処置も可能だからね」



「え……っ!」



つまり、さっきのネテロ会長は話したいだけとか言いながら、実は私のこと審査してたってわけ?



「怖いっ!?大人って怖い……!!」



「わかったら、もう少し他人に対して慎重になるんだね。ポーは警戒心が極端すぎるよ。俺やヒソカに対しては大袈裟なくらいビクビクするくせに、他の奴らには甘いよね。というか、ヒソカに対してもだんだん甘くなってきたような気がするんだけど。なに?俺のことだけ嫌ってるの?」



くりっ、と無表情のまま小首をかしげるイルミ兄。



か……っ、可愛いじゃないかコンチクショウ!!



「べ……つに、嫌いなわけじゃないですけど」



「じゃあ好き?」



「えっ!!?」



なんだなんだ、この不自由な二拓!!



「好きなの、嫌いなの、どっち?」



「どどどどどっちと聞かれましても………!!」



「どっち?」



「~~~~っ!!!」



気づけばイルミはかがんで私の顔をのぞきこんでいたり。



あわててずり下がろうとしたら、すぐ後ろにはベッドがあったり。



なんでこんな窮地に立たされてるの!!



「ポー、答えて」



「……」



「ポー」



「…………………………………………………………………………スキデス」



怖いけど、とつけ加える。



そうなんだよなあ……。



このひと、漫画やアニメの印象がなかったら、もっと自然体で付き合えるひとなのかもしれない。



念を教えて欲しい、なんて、無茶な頼みも引き受けてくれたし。



試験返上で修練につきあってくれたし……。



今だって、ネテロ会長に私の精孔が封じられたんじゃないかって、心配しててくれてたんだよね?



うん……優しいじゃないの。



「好きなの?」



「う……こ、怖いけど、どちらかと言えば好きです……、時々、優しいところもあるし……怖いけど」



「そっか」



そっかー、と立ち上がる。



「ポーは俺のこと好きなのか。よし、じゃあ決まり」



ポンッ、とわざとらしく拳を打つイルミ。



な、なんだ今度は。



今、とてつもなく恐ろしいことが勝手に決められた気がする……!!



まだ尻餅をついたままの私を、イルミはピシッ、と指差した。



「俺のことが好きなら、そのしゃべり方やめてくれる?」



「え……っ、しゃべり方ですか?」



「そう、それ」



敬語。



と、イルミ。



「ゴンたちには普通にしゃべってるじゃない」



「そりゃあ、ゴンやキルアたちは私よりずっと年下だし……」



「あのスーツの奴は?ポーよりも年上なんじゃないの?」



「レ、レオリオはああ見えて10代なんですよ。あのなかで、私が一番歳くってますよ」



「いくつ?」



「う……にじゅう………………」



「……」



「よん」



「あ。同い年だ」



「うそお!!?」



ほんと、とイルミ。



おおおおお……!!



「嬉しい……それはなんか嬉しい!!」



「そう?俺としては複雑だなー、絶体、俺のほうが年上だと思ってたのに」



「悪かったですね。年相応の落ち着きがなくて」



「敬語」



「わ、悪かったねー……」



「うん。その調子。これから俺のことさんづけしたり、敬語話すたびにコレ投げるから、気をつけてね」



なんですと!!!?



「エノキはやめてくださ……やめてって言ってるでしょうが!!」



「痛いのが嫌なら、避けるか、せめて防ぐくらい出来るようになりなよ」



出来るもんか!!



エノキ投げてるときのイルミの手なんか速すぎて見えないのに……!!



あれ。でもまてよ……防ぐ?



「……」



「……」



スコーン!!



「いたい!!なんですか今度は!!」



「なにニヤニヤしてるの、ヒソカみたいだからやめてよって言おうとしたんだけど、今、敬語使ったからもう一回ね」



スコーン!!



「ぎゃあっ!!」



「予告してるのに避けないんだからなー、ポーは殺し屋には向いてないねー」



「向いてたまるか――!!!」



そんなこんなで、空の上の夜は更けていきましたとさ。