「カタカタ……(……いないな)」
おかしい。川の中には確かにポーの気配が漂っているのに。
なんだかフィルターのようなものがかかって、正確な位置が特定出来ない。
すぐ近くに滝があるから余計に不利だ。
自然の放つオーラが、ポーのオーラに混ざってしまう。
はあ、とこぼれたのは、自分でも驚くくらい深いため息だった。
「カタカタカタカタカタカタ……(川に潜む前に考えるんだった。ポーのターゲットが俺である可能性は充分にあったのに)」
仕方ない。
いったん水から出て期を待つか……。
「……カタカタ(……ん?)」
誰か来た。
足音は男三人分。
「もう、兄ちゃ~ん!水なんか後でもいいじゃないか~~」
「うるせえ!ウモリ!お前はやっぱりバカだな!」
「全くだ!こんな孤島で一週間も過ごすんだぜ?まずは安全な飲み水の確保。サバイバルの常識だろうが!よ~~く覚えとけ!!」
ふむ。
よく考えたら、別にポーから俺のプレートを奪わなくてもいいわけか。
幸い、今俺の手元にはターゲットのプレートと、俺にちょっかい出してきた奴のプレート……計4点分がある。
つまり、あいつらからプレートを2枚奪えば、俺もポーもこの試験を合格することができるわけだ。
よし。
プラン変更。
どいつでもいいや。
さっさと殺してしまおう。
針を構えた、その時だった。
「う……っ!?」
「うわあああああああ―――っ!!」
川に入った二人がいきなり叫んだ。
足を滑らせて転んだにしては様子がおかしい。
俺が川の深みに身を隠したまま、様子を伺っていると、
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197
二枚のプレートが流れてきた。
……目の前に。
これは。
……ポー。
いくらなんでも不自然すぎるよ。
大慌てで川から飛び出した三人が、おばけだの怪物がいただのと叫びながら一目散に去ったあと、俺は川から上がって変装を解いた。
すると、川面から「ペッ!」と二枚のプレートが吐き出され、俺の足元に落ちた。
「……ポー」
深い、ため息をつく。
「いるんだろ?出ておいでよ」
「……」
「心配しなくても、襲わないし」
しばらく経ったあと、ザパッと水面が盛り上がり、ポーが現れた。
驚いた。
本当にいたんだ。
俺、自分で言うのもなんだけど、腕は悪くないはずなのに。
殺し屋の俺に気配悟られないって、すごいよ。
わかってないんだろうけど。
「ポー?」
きっと今頃大喜びしてる。
ヒソカはそう言っていたけれど、ポーの表情は暗い。
襲わないと言っているし、臨戦体勢も解いているのだからさっさとこっちにくれば良いのに、守りの泡に包まれたまま、俺を睨んでいる。
ああ、この目は知ってる。
殺し屋の俺を蔑む目だ。
非難と恐れの入り交じった目……違うのは、今にも泣き出しそうなくらい悲しそうなこと。
「なんで、そんな目で俺を見るの?」
「……イルミ。さっき、あの三人のこと、殺そうと思ってたでしょう」
「二人ね。それでそんなに怒ってるの?俺は殺し屋だって、前にも言ったじゃない」
「イルミは【殺し屋】でしょう?【人殺し】じゃないよね」
「……」
「あの三人の暗殺を依頼されてるわけでも、あの三人に命を狙われたわけでもないよね。イルミなら殺さなくてもプレートは奪えたよね。それだけの実力差はあるのに、どうして殺そうと思ったの」
「…………………ごめん」
なに、謝ってるんだ、俺。
でもこのとき、ポーの言葉を聞いた俺は、なんだか自分がものすごく悪いことをしようとしていたような、そんな気がしたんだ。
「面倒くさいって理由で、ひとを殺しちゃいけないよ」
「……うん」
「イルミがひとを殺して生きてるってことは、そのひとに生かされてるってことなんだから。自分が生きるためでもないのに、命を奪っちゃいけない」
「……うん」
「……」
「どうしたの?俺、今のは本気で反省したよ?」
「……いや、なんか、素直すぎるイルミって逆に不気味いたーい!!!」
投げた針はポーの頭にスコーンと当たった。
防げばいいのに。
文句を言いながら、ポーは守りの泡もなにもかも解いて、俺のもとにやってくる。
ああ、いつものポーだ。
「もう怒ってないの?」
「うん。でも、またイルミが面倒だからって理由で誰かを殺そうとしたら、怒るよ?」
「気をつけるよ。ポーってさ、色々とギャップが激しいよね」
「そ?」
なんて、くりっと小首を傾げたりするものだから、俺は迷わず抱き締めて、その唇にキスをした。