ダダダダダダダダ!!!!!
バンッ!!
「ヒソカさああああんっっ!!!!」
「おや☆どうしたんだい、血相変えて」
「おい、あんた!ノックもせずにひとの部屋に無断で――」
練っ!!!!!!!!
「ひいっ!!?」
「コラコラ☆あんまりザコを苛めちゃだめだよ?でもキミ、邪魔だからちょっとはずしてくれるかな……?」
「ひ……ひえっ!!」
ヒソカが睨み付けるか否か、トンパは転がるように部屋を飛び出し、猛スピードで廊下の闇へと消えていった。
「さて☆これでお邪魔虫はいなくなった。それで?そんな顔してどうしたの」
「………………イルミが」
ぐっと唇を噛みしめる。
するとヒソカはベッドの上でトランプを積む手を止め、ああ、とでもいうように眉を上げてみせた。
「それで、逃げてきたんだ☆」
「もうなんか訳がわからなくて~~!!!!」
うえええん、と空いている方のベッドに突っ伏す私。
頭の中はまだまだパニック状態。
なんでああいうことになったのか、どういうつもりであんなことをしてきたのか、イルミがなにを考えているのか、なに一つ分からない。
「訊いたらいいじゃないか☆なんで?ってさ」
「訊きましたよ……!!」
「訊いたんだ☆それで、彼はなんて?」
「………………………………………………………………『なんとなく』」
「あらら……★」
しかも、そのすぐ後に、
『あれ?嫌だった?』
と、くりんと小首を傾げたりするものだから、ついに堪忍袋の緒が切れた。
ブッツリと。
あのイルミの横っ面に、こともあろうかビンタを叩き込んでしまったのだから、部屋を飛び出すしかない。
うう……もう当分顔合わせられない。
「というわけで、今夜はここで泊まらして下さい……!!」
「それは構わないけど……☆あんまりボクを信用しないほうが――」
「わあああん!!!イルミのばかあああああ―――!!!!」
「……☆」
まあいいや、と崩れてしまったトランプタワーを一から作り直しにかかるヒソカである。
さりげなくそっとしておいてくれるあたり、大人だなぁ……。
しばらくベッドにつっぷしてえぐえぐ泣いていた私は、ふと顔をあげて、思ったことを口にしてみた。
「……………あの、ヒソカさんは……イルミとは長い付き合いなんですか?」
秘密☆
と言われてしまったら、諦めようと思っていた。それぐらいの気持ちだった。
「そうだなぁ……」
でも、気紛れな奇術師は答えてくれるつもりらしかった。
急かしたりせず、黙って待った。
「かれこれ……10年前になるかな☆彼、初めて会った瞬間からボクを殺ろうとしたんだよ。ターゲットだったんだって☆」
「し、衝撃的な出逢いですね……」
「そう?ボクにとっては、そんなに珍しいことじゃなかったんだけどね☆イルミはそれまで会った誰よりも強かった。無駄がないっていうか、要するに、殺しにしか来なかったんだ」
「そっか。ヒソカさんは闘いを楽しみますもんね。塔で、囚人相手に闘ってる姿を見たとき、そんな風に感じました」
「そうそう☆でも、イルミは違うよね。彼にとって、殺しはお仕事。闘うのは、殺すためだ。それは、今も昔も変わっていない」
「……」
「目も、魂も、考え方も、身内以外の他人や自分への無関心さも、イルミは変わらない☆変化があったとすれば、殺しの技術や強さかな。それ以外は、何年付き合っていても、イルミはイルミだと思ってた☆」
「……」
「それを、たった数日であれだけ変えちゃったのはキミだよ?ポー。だから、ちゃんと責任とってね☆」
「え……!!?」
「クックックック……ッ!!」
ま、無理強いはしないけどね☆
それとなく、トランプをちらつかせつつ、ヒソカは笑う。そして、ふいに私をのぞきこんだ。
「ポーは、イルミが好きなの?」
「……はい」
なんだろう。
隠したくなかった。
はぐらかしたくなかった。
気紛れでも、私の聞きたかったことを――言葉に出来なかった問いにまで答えてくれた、このひとに、嘘なんかつきたくなかった。
「好きです。暗殺者として生きてきた、イルミが好き」
「妬けちゃうなぁ……☆でも、ならいいじゃない。キスくらい、いくらでもしちゃいなよ☆」
「う……で、でも、イルミが私のこと好きかはわかんないじゃないですか!」
「言っただろ?イルミは昔から、身内以外のことには無関心。殺せるか殺せないかでしか判断しない★そんな彼が、キミに興味を持った時点で普通じゃないよ☆言葉にするには時間がかかるかもしれないけど……観察するのは得意だろ?」
「う……はい」
「いい子だ☆じゃ、話はオシマイ。早く部屋に戻りなさい☆」
「え――っ!!!」
「ポー。今すぐ円を教えてあげようか☆纏を行ったら外側に意識を広げていくんだ……ドアの向こうに誰がいる?」
「!!!!????」
いってらっしゃい☆
有無を言わさぬ笑顔で(いや、たぶん念も使ってるに違いない)私を追いやるヒソカを涙目でにらみつつ、
「……行ってきます」
行くしかない私なのであった。
カチャ。
「や」
「……イルミ。さっきは、ひっぱたいてごめん」
「いいよ。俺もごめん。ポーが、実は俺よりヒソカのことが好きだったなんて知らなかっ」
「それはないから!!」
「そうはっきり言われると傷つくなぁ★」
淡々と恐ろしいことを!!!!
「そうなの?」
「そうだよ……ちょっと相談にのってもらってただけ」
「ヒソカは相談になんてのれないよ?」
「えっ!?そんなことなかったけど」
バッチリしっかり恋愛相談してましたが???
イルミはくりっと首を傾げた。
「そうなの?」
「そうなの☆」
「そうなんだ」
ふーん。
立てた人差し指をほっぺにあてつつ、
「変わったね」
「キミが言うなよ☆」
「まあね。それより、ポー」
「えっ!」
「まだここにいるつもり?それとも部屋に戻る?」
「も、戻る……」
「わかった」
じゃ、行こう。
そう言って差し出してくれたイルミの手のひらを、初めて握りしめた。
暗殺者の手のひらは、大きくて温かい。
***
「………いいなあ☆」
おいてけぼりになった奇術師は、独りでぽつんと呟いたとかなかったとか。