34 イルイル?×キルキル?×兄弟喧嘩!!

 

 

 

 

 

「ポー!!」



「すげぇぜ!お前よく、あんな化け物のアレを二回も……!!俺ぁもう、胸ん中がスカーッとしたぜ!!」



「ははは」



それについては、乾いた笑いしか出ないよう。



あ。でもなんか、若干一名痛い視線のコがいる……。



「キルア~~そんなに怖い顔しないでよぅ」



「……ごめん。でも、なんかくやしくってさ。一次試験じゃ、走るのも精一杯だったくせに、なにやったんだっての」



「なにって、そりゃあ特訓でしょ。――あ、それよりキルア。次の試合だけど、絶対勝ってね」



「次?ああ……あんな奴楽勝だろ?」



「……」



私は未来を知ってる。



これまで、私はあくまでこの世界の話の一員で、その未来を変えるなんてことはしてこなかった。



――でも、この先は。



「いいから約束して。絶対、次の試合に勝って、ハンターになって!!ゴンと一緒に、いろんなところに行くんでしょう!?」



「う……うん」



でもさすがに、勘のいいキルアだ。



私の耳に口を近づけて、こっそり聞いてきた。



「……なあ、アイツ、そんなにヤバイわけ?」



「えっ!?」



「ポーのターゲットだった、あのカタカタのおっさんだよ。次の試合に俺が負けたら、アイツと闘わなきゃいけないんだろ?」



「……ヤバイよ。というか、強いよ」



「ふーん。どんくらい?」



「ヒソカさんとおんなじくらい。前に、ヒソカさんから聞いたんだけど、昔、闘ったことがあるんだって。それまで闘った誰よりも強かったって言ってた」



「……マジで?」



「マジで」



わかった。



と、キルアは頷いた。



確か、彼にはイルミが念を込めた針が刺さってるはずだ。



自分より強い相手とは闘えない。



私の読みは正しくて、キルアは原作の流れに背き、ポックル相手にわざと負けるなんて真似はしなかった。



冨樫先生ごめんなさい……っっ!!!



「楽勝!!」



「やったなキルア!!」



「うむ、見事だった!!」



やった~~!!



これでキルア闇人形フラグはボッキリスッキリ折れたはず……!!



あとは、この子をイルミから守りとおすだけだ!!



試験はその後も滞りなく進んだ。



ヒソカはおじいちゃんに勝ち、ギタラクルはポックルに勝ち、ハンゾーはポックルに、レオリオはおじいちゃんに勝ちで、最後はついにおじいちゃんのスタミナが尽き、ポックルの不戦勝!!



「ハンター試験終了!!」



おつかれさまでした―――!!!



さーあ、あとはゴンが起きるのを待って、皆でパーティー&楽しい打ち上げだ~………と、思っていたら。



「キル」



ひい……!!!



「久しぶりだね、キル」



わいわいと、会場を出ようとした私たちは、弾けるように振り返った。



それくらい、異様なオーラだった。



一本、また一本と、頭に刺さった針を抜いていくギタラクル……いや。



白い肌。



長くて真っ黒な髪。



一点の光もない、闇のような瞳。



「イ……イル兄」



「や」



まさかの名シーンここできたか――!!!



ううう嬉しいいや、うれ、嬉しくない!



まずいよこれは!!



「奇遇だね。まさか、キルがハンターになりたがっていたとは思わなかったよ。俺も次の仕事の都合上、資格が必要になってさ。別に後をつけていたわけじゃないんだよ?」



くりっと、頚をかしげる。



うん、それは嘘じゃないんだなーと思っていたら、イルミがぐりんと私を見た。



「ポー、前に言ったかもしれないけど、キルは俺の弟でさ。殺し屋になるのが嫌で、家を飛び出したんだ。引き留めようとした母さんの顔面と、ミルキっていうもう一人の兄貴の脇腹を刺してね」



うん、知ってる。



「だって、それだけ嫌だったんでしょ」



「……ポー?」



キルアがハッと見上げてくる。



なにかに怯えているような目。



私はにっこり笑ってあげた。



「大丈夫。生まれた場所ではなんにも決まらないよ。水や環境が合わないなら、他のところに行けばいいの。どんな生き物になるかは、どこで生きるかで変わるんだから」



「……」



サンキュ。



うつむいたキルアの唇が動いた。



キッと、強い瞳が前を見る。



「イル兄。俺、家には帰らないよ。ゴンと友達になりたいんだ。友達になって、普通に遊びたい」



「はあ……ポー。家族のことにまで口を挟むのやめてよー。俺、このことに関しちゃ手加減できないよ?ポーのこと、殺しちゃうかも」



「大丈夫それはさせない



するっと、長い腕が回ってきたと思ったらヒソカだった。



「殺させるもんか



「ヒソカさん、ありがとう!でも、ヒソカさんに守ってもらいたい人が、他にいます」



「……?



「ゴンですよ!イルミ今、「あ、そっかー。ゴンを殺しちゃえばキルは家に戻ってくるんじゃないかな。試験も終わったことだし、殺しても俺の合格が取り消されることはないよね。よし、決まり。ゴンを殺そう」って思ってるでしょう!!」



「……よくわかったねー」



「イルミのバカ!!熱を持たない闇人形っ!!!」



「ゴンを殺すだあ!!?」



「させるかこの野郎!!」



「私も加勢する。そんなこと、絶対にさせるものか!!」



「クックック……ッ!そういうことかなら、黙っているわけにはいかないね



会場のドアの前にズラリ。



私、レオリオ、ハンゾー、クラピカ、ヒソカが立ちはだかる。



人差し指をほっぺたに当て、くりっと、首をかしげるイルミ。



「キル、お前は?」



「……!!?」



「闘えるの?俺と」



「………っ、俺は――」



無理だね。



そう、イルミの唇が動くよりも早く。



「キルア、がんばって!!」



「……ポー、お、俺、」



「怖い?私だって怖いよ。イルミと闘うなんて、私一人じゃ絶対無理。でも、ゴンを守りたい人は他にもいるじゃない。個々の力で生き残れないなら、集団で闘うのも生き物の智恵だよ。力を合わせて!」



「…………うん!!」



ぐっと、震えながらもイルミを睨み付けるキルア。



「俺、兄貴と闘う……!!」



「!」



「よく言ったキルア!!!あんなばか兄貴、ぶん殴ってやれ!!だいたいゴンと友達になりたいだとお!?バカ言ってんじゃねぇぜ!!お前らとっくにダチ同士だろうが!!」



出た!!



名言!!!!



レオリオかっこい――――!!!



オーラを昂らせる私たちに対して、イルミははあ~~と、無表情に肩を落とした。



「……わかったよ。そのかわり、キル」



「……」



「お前の友達を、ちゃんと家族に紹介しに行くんだよ?」



な。



なんですと―――!!!



「兄貴、それは……!!!」



「ダメだよ。決まりだからね。それは俺がどうこう言ってなんとかなるものじゃない。ゾルディック家の人間と親交を持つには、それに値する人間だと認められる必要がある」



「……!!」



「その試しの数々に、お前は一切手を出せない。これも決まりだ。ゴンたちが、自分たちの力でクリアして示すしかない。たとえ、力が足りずに死んだとしても、お前は手を出せないんだよ?ほーら、お前にそこまでの覚悟はなかっただろ。だからこそ言うんだ。殺し屋に友達なんか必要ないって」



「そんな心配いらない!!」



バン!!!



勢いよく開いた扉の向こうから、飛び出してきたツンツン頭。



おいおい、原作よりも随分早いご登場だぞ!!



「ゴン!!」



「ゴン~~!!元気そうでよかった!」







「無理すんなよ!」



「まだ寝てろよ、骨折ったばっかりだろ?」



「そうだ、お前のことは私たちが守る」



「大丈夫だよ!サトツさんがね、すっごく綺麗に折れてるから、繋がったあとは前より丈夫になるってさ!ありがとう、ハンゾーさん!!」



「れ、礼を言われるとは思わなかったぜ……」



あはははは!



よーし、これでもう大丈夫だ!



「キルアのお兄さん!」



「イルミだけど……なに?」



「友達になるのに試されるなんて変だと思うよ?」



「そう?でも、うちはそうなんだよねー」



「でも変だ!!だから、俺は試されになんて行かない!」



「ゴン……」



キルアが、困惑した目を向ける。



そんなキルアに、ゴンはにかっと笑って言ったのだ。



「でも俺、キルアの家に遊びに行きたいな!親父さんや、お母さんや、他の兄弟にも挨拶したい!!ねぇ、それでもいいんでしょ?」



「いいっていうか……やることは変わらないよ?」



いやいやいや。



モチベーションは大事だよ。



イルミには分かんないんだろうけど。



「いいのか、ゴン……俺んち、お前が思ってるほど甘くないぜ?ほんとに死ぬような眼にあっても、俺……お前を助けられないかもしんねぇ」



「大丈夫!!行くっていったら行くんだもんね!!」



うん、ゴン。



いいね。



それでこそ君。



結局、この場はそれで纏まった。



みんなはゴンとキルアを囲んでわいわい騒ぎながら広間を後にする。



そして……残されたイルミが不憫になった私は、その場に残った。



「……全く」



「謝らないよ。なんにも悪いことしてないもん」



「しただろ」



「キルアの家出を後押ししたこと?」



「違う。ヒソカを指名して闘った。また俺に黙って危ない真似したよね」



「え……!?キス一回!!??」



「もういいよ。しなくて」



え……。



「な、な、なんで??」



「だって、もう終わったから。ハンター試験」



「あ……」



そうか……。



「……」



そうなんだ。



そう思うと、あっという間だった……。



「これで、俺がポーに念を教えるのもおしまい。ハンター試験中っていう約束だったからね」



「……精々してる?」



「うん。出来の悪い弟子だった。手もかかるし、心配ばっかりかけるし、物覚えも悪いし、そのくせ無茶ばっかりするしねー。もう二度とゴメンだね」



「……あはは」



はっきり言うね、イルミは。



アナウンスが流れ、私とイルミの受験番号を呼び上げた。



ハンター証の授受と説明があるから、講義室まで来るように、とマーメンさんが言っている。



「じゃあ、俺は先に行くよ」



足音もたてずに、目の前をとおりすぎて、廊下へ向かうイルミの背中。



その背中に向かって、私は深々と頭を下げた。



「ありがとうございました……!!」