5 ポー!×ヒソカ?×追いかけっこ!?

 

 

 

 

 

速い。

 

 


速い速い速い!!

 

 


「すごい……自分の身体じゃないみたい。まるで、潮の流れにでも乗ってるみたい!」

 

 


スピードに乗って、思いきり脚を伸ばすと、身体が浮かんで地面のほうが勝手に飛びさっていく。

 

 


そうか……きっと、サトツさんもこうやって歩いてるんだ。

 

 


でもダメだ。

 

 


このままじゃダメ。

 

 


纏のままじゃ……オーラの流出が止まったおかげで、動きはさっきよりずっと楽だけど、気配を消さないとヒソカに近づくことだって出来ない。

 

 


ギタラクルもそれだけじゃムリって言ってた。

 

 

 

つまり、これはただのおいかけっこじゃないってことだ。

 

 


速く走れれば勝てるってわけじゃない。

 

 


気づかれれば、ヒソカは逃げてしまう。

 

 


なんだか、これって、海の中を覗いているみたいだ。

 

 


食べるものと、食べられるもの。

 

 


とらえるものと、とらえられるもの。

 

 

 

泳ぎが速いものだけが、獲物を得られるわけじゃない。

 

 

 

じゃあ、動きの鈍いものはどうしてる?

 

 


「たとえば、イモガイはわざとゆっくり動く……獲物に悟られず近づいて、毒の銛を噴射……」

 

 


でも、私は武器なんかもってない。

 

 


それならほかの生き物は?

 

 

 

隠れるのが上手い生き物。

 

 

 

地形を利用し、獲物の不意をつくのが上手い生き物…… 。

 

 

 

「プランクトンは目に見えないくらいに小さく、貝類は砂場に潜って隠れる、クラゲは体を透明にして、餌を触手に絡めとる…………」

 

 


あっ!

 

 


これだあ――――っっ!!!!

 

 

 

これならできる!

 

 

 

きっと、念を覚えたての私にもできるはず!!

 

 


それに加えて、この世界では私にしか知ることのできないある情報を利用すれば……。

 

 


上手くいく!

 

 


絶対に上手くいく!!

 

 


頭の中に、ふとゴンの笑顔が浮かび上がった。

 

 


“約束して?最後まで、自信を持ってがんばるって!”

 

 

 

うん。

 

 

 

うん、うん、うん!!

 

 

 

がんばるよ!

 

 

 

今の自分にどこまでのことが出来るのか、精一杯やってみる!

 

 

 

 

 

 

 

       ***

 

 

 

 

 

 

 


「……仕掛けてこないなぁ★」

 

 


あれから数時間。

 

 


わざと分かりやすい位置を走ってあげているのに、がむしゃらにつっこんでくる気配も、背後から襲ってくる気配もない。

 

 


「退屈だなぁ……少しは楽しめるかと思ったケド。ボクの見込み違いだったかなぁ……★」

 

 


……つまらない。

 

 


なら、殺してしまおうか。

 

 


あの子がエレベーターから降りてきたとき、あんまり無防備にオーラを噴出させているものだから、興味を引かれると同時に、珍しく心配なんかしてみた。

 

 


念を覚えたての初心者か。

 

 

 

あんな状態で走り出せば、五分と持たないうちにオーラが尽きて、倒れてしまうだろうに。そう思った。

 

 

 

なのにあの子はヘトヘトになりながらも、そんな状態でかれこれ一時間近くも走り続けて見せたのだ。

 

 

 

これはすごい才能だ。

 

 


生まれつきの生命エネルギー、オーラの生産量に優れていなければ、成せることではない。

 


それなのに……。

 

 


「勿体無いなぁ★臆病というか、平和主義者というか……ああいう性格じゃなかったら、もっと早く熟す果実だと思うんだけどねぇ★」

 

 


才能にだけ優れていても、本人にその気がなければ仕方ない。

 

 


最悪の場合、熟す前に腐り落ちてしまうだろう。

 

 


そんな果実は見たくもないし、不愉快だ。

 

 


「このまま、ゴールまで一度も仕掛けて来ないつもりなら……★」

 



そっと開いた右の手のひらに、ジョーカーのカード。

 

 


口元に、死神そっくりの微笑みが浮かんだ、その時だ。

 

 

 

「☆」

 

 


後方から、彼女(ポー)の気配が近づいてきた。

 

 


「ずいぶん弱々しいな。ふむ……大方、イルミから絶を聞きかじったってトコロか。クックックッ!そんな付け焼き刃じゃあ、するだけムダなのにネ★」

 



だいたい、覚えたての絶が自分に通用すると盲信している点が気に食わない。

 

 


イルミのことだ。

 

 


絶を教えるなら、その前提として、念の基本である纏も伝えていることだろうに。

 


「残念……★纏で溢れ放題だったオーラを身体に留め、練でそれを増幅して向かってくれば、上手くすれば指先くらい触れられるかもしれないのに」

 

 


しかし、ポーはあえて練ではなく絶を選択した。

 

 


精孔を閉じ、オーラの流れを止めるということは、同時に、全ての身体能力を低下させることに等しい。

 

 


普通に走ってでも追いつくのは困難な相手に対し、あえてリスクのある絶を使用する……気配を潜め、隠れるための技を選んだ。

 

 


「あくまで、真っ向勝負は避けるつもりか★気に入らないな……少しお仕置きしようかな★」

 

 


ニイ……と、笑みを浮かべた瞬間、周りの受験者たちの足取りが変わった。

 

 


試験官の男が振り向いて、口の見えないポーカーフェイスで言う。

 

 


「さて、そろそろラストスパートです。ちょっと速度を上げますよ」

 

 


おやおや。

 

 


がっかりだ。

 

 


これでボクのスピードが今より上がったら、ますます追いつくことなんて出来なくなるよ……そう、ひとりごちて、前方を見つめた。

 

 


しかも、地下道の出口までは急なカーブを描く坂道だ。

 

 


天井は低くなり、道幅だって狭くなる。

 

 


「まあいいか。どうせ、こんなのいつもの気まぐれだしネ★」

 

 


ため息をつき、後方に向けていた注意を前へと反らした。

 

 


ストンッと、なにかが腕の中へ降り落ちてきたのは、その直後だった。

 

 

 

「捕まえたあ―――っ!!!!」

 

 

 

「!」

 

 

 

「作戦成功!!ヒソカさん破れたりっ!さあっ!約束通り、そのスケートボードは返してもらいますからねっ!!」

 

 


弾けるような笑顔を浮かべて。

 

 

 

黒い瞳をキラキラと星のように輝かせて。

 

 

 

得意満面に胸を張るポーが、そこにいた。