8 お願い!×弟子入り?×霧の中!?

 

 

 

 

 

 

「サトツさん!」

 

 


湿原を走りはじめて少したった頃。

 

 


私はゴンとキルアからててっと離れて、サトツさんとならんで歩……走った。

 

 


「おや、あなたは先程の」

 

 


「はい、先程のポーです」

 

 


「ポーさん。なにか用ですか?」

 

 


「さっきのどうやったんですか?ヒソカさんのトランプ、受け止めたやつ」

 

 


「どうやるもなにも、ただのトランプを受け止めただけですよ」

 

 


「嘘だあ。ただのトランプが、ひとを切り裂けるほど丈夫なわけないですもん。あれも念能力ですよね?念による攻撃をあれだけ素早く防ぐって、どうしたらいいんですか?」

 

 


「……これはこれは。さっきのタフな子供たちといい、今年の新人は本当に優秀ですね」

 

 


サトツさんはちょっと驚いたように眉を上げ、でも、すぐにふいっと前を向いてしまった。

 

 


「しかし、いけません。ポーさん、私はこのハンター試験の試験官です。どれだけ才能を秘めた人物と出会ったとしても、誰か一人に肩入れすることは出来ません」

 

 


「……ですよね。そっかあ~、うーん。やっぱ自分で考えなきゃダメか」

 

 


「……」

 

 


しばらく一人でうんうん唸りながら走っていたら、ひょい、とこちらを振り向いて、サトツさんが言った。

 

 


「ときに、ポーさん。あなたは、いつの間にか纏を習得していますね。スタート地点で見かけたときには、かなりのオーラを流出させていたのに」

 

 


「なんとかコツをつかみまして……」

 

 


「誰かに方法を?」

 

 


「う……はい。実は、受験生の一人に方法を教わって……でも、それはルール違反になりませんよね?」

 

 

 

「もちろん。念について誰かに聞いてはいけないというルールなどありません。同時に、念を使ってはいけないというルールもない。試験中に習練してはいけないというルールもね」

 

 


パチン。

 

 


サトツさんの眠たそうな目がウインクしたのを、見逃さなかった。

 

 


習練。

 

 


すなわち練を習う!

 

 


やっぱりかあ~!!

 

 


「練は基本中の基本ですもんね~!!ううう……増幅したオーラで相手の念攻撃を防ぐ……!目に集中させて凝を併用すれば、飛んでくるトランプの起動も予測できるはず……!!」

 

 


しかし!

 

 


私はまだ四大行の纏と、絶しか覚えてない事態!

 

 


だから、なんとしてでも戦闘メインの三次試験以降までに練を!凝を!!

 

 


発・を・習・得・し・た・い!!

 

 


「それにしても」

 

 


私の独り言をさらっとスルーして、サトツさんはちょっと意外なことを言った。

 

 


「あなたに纏を教えた人物は、よほどあなたと相性が良いのでしょうね」

 

 


「えっ?」

 

 


「念の修行には良き師の存在が不可欠です。しかし、己の才能を上手く導きだしてくれる師というものには、そう簡単に出会えるものではありません。念とは心の修行でもある。互いの感性がぴったりと合う師に出会えたのなら、その側を離れないことです」

 

 


「……」

 

 


そのひと、殺し屋さんなんですけど。

 

 

 

 

 

 


       ***

 

 

 

 

 


ミルクのような霧の中。

 

 


音を頼りにあのひとを探した。

 

 


まだ円は使えないけど、気配を探さなくても大丈夫。だって、あの音めちゃくちゃ耳につくんだもん。

 

 


「カタカタカタカタ……」

 

 


「いた!」

 

 


「カタカタカタカタカタカタ……(誰かと思ったら、また君か)」

 

 


「ギタラクルさん!……ヒ、ヒソカさんは」

 

 


「カタカタカタカタカタカタ……(なんだ、彼に用事があるの?後ろの方に行ってるけど、今会うのはやめておいたほうがいいと思うよー)」

 

 

 

あああ。

 

 

 

そうか、さてはあのシーンか!!

 

 

 

モブ切ってレオリオ襲ってゴンの釣竿くらって首しめて放していいこいいこするあの名シーンか……!!!

 

 


くっそう!!

 

 


ちくしょう!!

 

 


見たかった……ライブで見たかった!!!!!

 

 


うおおおおおう!!!!

 

 


「カタカタカタカタ……(聞いてる?ひとの話)」

 

 


「――は!?すみません、取り乱しました。違うんです、用があるのはギタラクルさんの方で……」

 

 

 


「カタカタ……(断る)」

 

 


「へ?」

 

 


「カタカタカタカタ……(大方、残りの四大行も教えろって言うんだろ?嫌だね。めんどくさい)」

 

 


「そこをなんとか!」

 

 


「カタカタカタカタ……(ダメ。それに、さっきも言ったとおり、俺は殺し屋なんだ。アレ、嘘でもなんでもないからね。俺はひとの殺し方しか知らないし、それしか教えられない)」

 

 


「そんなことないです!私はギタラクルさんのお陰で、あんなに早く纏や絶を覚えられたんですもん!ヒソカさんを捕まえることだって出来たんですもん……!」

 

 


「カタカタカタ……(捕まえる、ね)」

 

 

 

ジロリ。

 

 


「カタカタカタカタカタカタ……(気配を絶って、上から飛び降りただけじゃないか。上手い手だとは思ったけど、それだけだね。正攻法じゃないし、ヒソカと同等に渡り合えてたわけでもない。いい気になってると、殺られるよ)」

 

 


冷たい視線を、私はなぜかこのとき、真っ向から見返すことができた。

 

 


「……獲物を捕らえる方法に、正攻法なんてありません」

 

 


「……」

 

 


「イルカやペンギンみたく、俊敏さに自信があるならそれを武器にすればいいし、クラゲみたいに、水中を浮遊するだけで自分より何倍も大きな餌を捕らえる省エネルギーなハンターもいます。海に棲む生き物は、相手と自分に身体の大きさや力の差があるなら、その差を縮める方法を探し出します。自分の特性を利用する術を見つけて進化します。最終的には、どんな手を使ってもいい。自分の力で捕らえて食べたものの勝ち!私は、そんな世界をずっと見てきました。だから、さっきの勝負も恥ずかしいとは思わないし、卑怯だったとも思いません」

 

 


「……」

 

 


「それに、殺し屋さんってお仕事でしょう?仕事って、お金を稼ぐためのものですよね。ごはんを食べて、生きていくために仕事するんですもんね?」

 

 

 

ギギイ……ガッチャン。

 

 

 

ギタラクルは黙ってうなづいた。

 

 


「生きるために殺すのは当たり前のことです」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ギタラクルさんの教えてくれる念の知識や技術は、全部、生きるためのものなんです。生き残るための術が、私には必要なんです。お願いします。このハンター試験の間だけでもいい。私の、念の師になってください……!!」