「どどどどどうしよう!!ヒソカさんあっという間にどっか行っちゃったし、あのボードはキルア君から預かった大事なものなのに!」
「……カタカタ(ふーん)」
「こうなったら、ナニがなんでも取り戻さなきゃ……!!ああでも、こうやって走ってるだけでもしんどいのに、気づかれずに近づくなんて絶対無理だよう!しかもアレじゃん!私がどこにいるかなんて、円使われたら一瞬でバレバレじゃない!!」
「……」
ピタッっと、なんだか冷たいものが首筋に当たった気がした。
見ると、
「なななななんですかいきなりっ!えっ、なんで私、喉元にそんな危ないもの突きつけられてるんですかっ!!?」
「カタカタカタカタカタカタ……(だって君、嘘ついただろ?嘘つきは殺されたって文句言えないと思うんだよねー)」
「う、嘘?」
「カタカタカタカタカタカタ……(円は周囲の様子を探る、四大行の応用編だ。でも、君はさっき、念については基本の四大行くらいしか知らないって言ってたよね。つまり、嘘をついたわけだ。そして、俺は君が答えを偽った場合、殺しちゃってもいいからネ★ってヒソカに頼まれてる。ああ、言い忘れてたけど俺、殺し屋だから)」
なんですと――!!!
「ちょっ、ちょっと待って下さい!四大行くらいしか、でしょ!?四大行しか知らないとは言ってませんっ!!」
「カタカタカタカタ……(あげあし取らないでよー。めんどくさいなあ)」
「簡単に殺されてたまるもんですか――っ!!」
「カタカタカタカタカタカタ……(ふーん。まあ、いいや。正直、俺も君には少し興味があるからね。まだ、殺さないでいてあげる)」
シュピン。
針が引っ込められて、どおっと冷や汗が吹き出した。もう、もう嫌だこのひとたち……。
「カタカタカタカタ……(あれ。もしかして泣いてる?なにも、泣くことはないじゃない)」
「泣きたくだってなりますよ……いきなり絡まれて無理難題ぶつけられて……だいたい、誰かに精孔開いてもらったわけでも、修行したわけでもないのに、念能力なんて使えるわけないじゃないですか……!!」
「……カタカタ(開いてるよ?)」
「へ?」
「カタカタカタカタ……(だから、開いてるってば。精孔。君がこの地下に来たときからずっと、開きっぱなし)」
「ええっ!?」
なんですと―――っ!!??
「えっ!?じゃあ、今でも私の身体からは、オーラが吹き出してるってことですか?」
「カタカタカタカタ……(うん。出てるね。そんなに出してしんどくない?)」
「しんどいですよ!!」
あっ!
でも、もしも“今までずっとそうだったのなら”心当たりがある気がする……!
「わ、私、小さい頃からずっと運動が苦手なんです!運動音痴っていうより、すぐにバテちゃう感じで。でもね、肺活量や持久力がないかっていうとそうじゃなくて、不思議と水泳……水の中なら、いつまで泳いでいても疲れないんです。これって、なんか関係あったりしますかね?」
ギ、ギ、ギ……ギッチョン。
ギタラクルが頷いた。
「カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……(大ありだね。きっと、水中では無意識に纏が出来ているんだ。纏を行い、オーラを身体に留めるとき、大抵の者はなにかに包まれているイメージを思い浮かべる。君の場合、水の中にいるときのことを考えれば、上手くいくのかもね)」
「よっしゃあ!やってみます!!」
走りながらうでまくりなんかする私を、ギタラクルはじいっと見つめてくる。
ううう……視線が不気味だけど、アドバイスは的確で分かりやすい。
さすが、こういうところはキルアのお兄さんだよな~。
「水の中を~泳いでる感じで……」
おお?
なんか急に身体が軽くなった気がする!
水中では浮力がかかるから、歩くときもふわふわするけど、まさにそんな感じだ。
同時に、それまで感じていた疲れがふうっと薄れていくじゃないの。
すごいすごい!!
「身体が軽い!これならもっと速く走れそう!」
「カタカタカタカタカタカタ……(そう、よかったね。でも、それだけじゃあ、彼に
触れるのは難しいかもね)」
「そうですよね、十中八九、近づいたら気づかれちゃう……イ……ギタラクルさん、絶を行うにはどうしたらいいですか?」
「カタカタカタカタ……(それも、君はさっきやってたよ。無自覚だろうけど)」
「嘘!いつ!?」
「カタカタカタカタカタカタ……(そうだなー。たしか、クラゲを飲みたいとか、ナマコが食べたいとか呟いてたときかな)」
言ってない!!
でも、そうか……もしもそのとき、本当に絶が出来ていたのだとしたら。
「……そういうことか。それなら、いけるかもしれない」
スッと、前を見据えたとき。
自分の中で、なにかが蠢いた予感がした。
「カタカタカタカタ……(それじゃ、がんばってねー)」
「はいっ!ギタラクルさん、ありがとう!!」
それからダッと走りかけ、ちょっと止まって、後ろを振り向く。
「カタカタ……(なに?)」
「あの。もうあとひとつだけ、教えてほしいことがあるんですけど――」