「さてと」
ポンッ、と硬直した私の頭に手を置いて。いつになく生き生きとした口調でイルミは言う。
「ポーは、この中のどれで苛めてほしいの?」
「冗談やめて!!本気で怖い!!」
「そりゃあそうだよ。だって、冗談じゃないからね。あっ、コレにしなよー、鐵の処女(アイアンメイデン)。錆びもないし、まだ一度も使われてない正真正銘のバージンだよ?」
「ダメダメ☆そんな不細工なブリキの玩具に突っ込んだりしたら、せっかくのポーの声がこもるし、表情だって見えないだろう?ここはベーシックなエロスを求めて、足枷を着けて鞭打ちにしとかないかい?」
「あ、そうか。それもいいねー」
和気あいあいと、壁にかかった見るだけで痛そうな鞭の数々を、ああでもないこうでもないと吟味する変態と殺し屋さんである。
付き合いきれんわ!!
ダッ!!
過去最高の速度で練+ダッシュを決行した私は、鞭選びに夢中になっているヒソカとイルミが振り向くより一瞬だけ早く、彼らの背後を通りすぎることが出来た。
……………なのに。
「……」
2つ並んだ扉の前で、足がすくんで動けなかった。
二人のオーラが怖かったんじゃない。
拷問されるかもってこととも違う。
死の路、なんて小学生が考えそうなタイトルのついたこの扉の、意味の重さに動けなかった。
自分が死ぬのはもちろん怖い。
でも。
二人が死ぬことはもっと怖い。
「ポー」
振り向くと、いつも通り無表情なイルミがいた。
「バラ鞭と乗馬鞭、どっちがいい?」
「……そんなの、使わなくってもいいよ」
呟いて、スッと試練の扉に伸ばしかけた腕を、大きな手に捕まれた。
ヒソカだ。
「離して下さい」
「ダ・メ★」
「離して下さい。私が試練を受けますから……!」
「ダメだ。困ったなぁ……★いつもみたいに怖がって、泣いて逃げ回るポーの姿が見たかっただけだったんだけど……その顔はいただけないよ★」
それ、ボクが一番嫌いな表情だ、とヒソカ。
ヒソカは真顔だった。
「諦め腐った表情は大キライ。そんなに死にたいなら、ボクが殺してあげようか?死の路なんて、訳のわからない試練とやらにキミが殺されるくらいなら……今、ここで」
「……っ!だって、嫌なんだもん!!」
怖い。
怖い。
自分がいなくなるのはまだいい。
だけど、
残されることは最も怖い。
「別にいいと思うけど」
サラリ、とこの場の雰囲気をぶった切るほど間延びした口調で、イルミが言った。
「ポーが行きたいなら、行けばいいよ。でも、ちゃんと試練をクリアするんだぞ?それが約束できないなら、ヒソカの言うように行かせられない」
「……さっきまで、二人とも拷問してでも強要しようとしてたくせに」
二人の変わり身の早さが可笑しくて、それを考えてたらなんだかクスクス笑えてきた。
「ポー?」
「ヒソカさん!やっぱり私が行きます。一番手!私、あれから練も凝も覚えたし、ヒソカさんの知らないところで強くなってるんです。それに、これってハンター試験だし、敵が出てきたとしても念使いってことはないと思います。だから、やれます。行かせて下さい!!」
「……」
チュッ☆
「ц●×♪→?ц●―⊃×!!!?」
「ん~~、イイ顔だ☆やっといつものポーだね」
「ヒソカ……」
低ぅい声で呼ぶイルミに向かって、ヒソカは意味ありげに片目をつぶってみせた。
「安心したら、なんだか興奮してきちゃったよ☆ポー、悪いけど、ここはボクがイク☆」
「……!ヒソカさ」
「心配なんてしなくて大丈夫さ☆ボクが裏でなんて呼ばれてるか、知ってるだろ?」
「……【死神ヒソカ】」
「正解☆だから、この路はボクのもの★さあ、行くんだ。ポー」
「~~っ!死なないでくださいね、絶対、死なないでください!!」
なかば、イルミに引きずられるような格好で、安全な路へ通じる扉をくぐる私を、ヒソカはいつものニヤニヤ笑いで見送っていた。