「いゃああああああああ――っ!!」
お父様。
お母様。
後立つ不幸をお許し下さい。
「クックックックック……ッ☆☆☆」
「は~な~し~て~えぇぇぇぇ―――――っっ!!!!」
この世に産まれて24年。
ぱっとしないながらも、それなりに楽しい人生を送ってきました。
それなのに。
ああ、それなのにそれなのに。
院試には落ちるわ、いきなりこんな血みどろ死体てんこ盛りな異世界にトリップするわ、その世界でも超難関ハードと悪名高いハンター試験に突っ込まれるわ、挙げ句の果てに快楽変態殺人者とプロの殺し屋さんに絡まれるわで……!!
「なんでこんな不幸ばっかり重なるの!私がなにかしましたか……!?」
「不幸?おかしなことを言うね☆キミは合格したんだよ?だから、こうやってご褒美にゴールまで運んであげてるんじゃないか。オ・ヒ・メ・サ・マ☆☆☆」
「謹んで遠慮させて下さいっ!!」
「ダ~メ☆」
ああもう……好きにしてくれ。
お姫様抱っこで坂道を駆け上がるなりなんなりしてくれればいいよもう!
ジロジロ見るな、受験者ども!!
羨ましいなら代わってやろうか――っ!?
「さて、今のうちに教えて欲しいな☆」
「教えて……って、なにをですか?」
「いつからアソコ(天井)に張りついてた?」
「ヒ、ヒソカさんを追い越してから、ずっとですけど」
「……いつ、ボクを追い越したのかな☆ボクはずっとキミの気配に注意を払っていたけど、キミはボクの腕に降り落ちてくる直前まで、後ろにいただろ?」
「……」
ということは、ヒソカは絶をしながらこっそり追い越した私に気づかなかったのか!
やったああ~~~!!!
こみ上げてくる嬉しさに、思わずニンマリしていたら、ヒソカは妖しくにっこりと微笑んで、
「えいっ☆」
ピシッ!
「痛いっ!!なんでデコピン!!」
「ポーが勿体つけるからだろう?焦らさないでおくれよ……でないとボク、興奮しちゃ」
「わーっ!わーっ!分かりましたからっ!纏を使ったんです!私のオーラを水に纏わせて、それを他の受験生にこっそりかけさせてもらったんです……!!」
「ふうん、ナルホド☆それでか。キミのオーラは確かに後方に感じていたけれど、それはとても微弱なモノだった。ボクは、それはキミが絶を行っているからだろうと考えていた……誰かに教えてもらったばかりの、未熟な絶をネ☆」
そう。
ヒソカの強さはここなのだ。
漫画でもアニメでも、その読みの深さ、思考の幅広さにはいつも驚かされる。
私がイルミ……ギタラクルから、念能力のノウハウについてなんらかの情報を得てくるであろうこと。
そして、それを用いて追ってくるであろうことを、初めから見透かしているんだ。
しかし、ここに彼の大きな誤算がひとつある。
それは、私がヒソカというキャラクターの大ファンだということだ!!!
(無論、実物は怖くて仕方がないのだけれども)
だから、私にはヒソカがどういうつもりでこの追いかけっこを仕掛けてきたのか。
どうされるのがムカついて、そんなときに、どこに一番注意を払うのか……普段、吹き出しの中にある彼の心の声を、手に取るように分かる自信があったのである!!
大成功!!!
ピシッ!!
「痛いっ!!だからっ、デコピンやめて下さいって!」
「焦らさないでって言ってるのに、言うこと聞かないからだろ?今度また焦らしたら……襲っちゃうよ☆」
どういう意味で!!?
「どこまでお話ししましたっけ!?」
「キミのオーラを纏わせた水を、他の受験生の衣類に含ませた。ボクがその気配に気をとられているうちに、キミは気配を消したままボクを追い越した。そして……☆」
「みんながラストスパートをかけるであろう、坂道の天井近くに張りついて、限界まで絶を行い、待ち伏せました。走りながらじゃ、完全に気配を消して捕まえるのは難しいと思ったから」
「『自分は念能力者ではない。念については基本である四大行くらいしか知らない』キミはさっき、ボクの質問にこう答えたハズだねぇ……☆それなのに、自分以外のものにオーラを纏わせ、ボクが気づかないほどの完璧な絶を行うなんて、簡単に出来るとは思えないんだけどな★」
「そこなんですよ。ギタラクルさん曰く、自分以外のものにオーラを纏わせる場合、よっぽど相性のいいものじゃないと無理だよーって言われたので、上手くいくかは一か八かだったんです。でも、水なら成功する自信があったので、賭けてみることにしました。もともと、私は陸上よりも水中にいるほうが落ち着くっていうか、むしろ、本当は人間よりクラゲに生まれてくるべきだったんじゃないかって思うほどなんですよね。……いや?むしろ、生まれたかった。クラゲになりたかった!あの、シンプルかつ完成された一切の無駄のない完璧なフォルム……!!!」
「……………クラゲ?」
「ギタラクルさんに、絶を教えて下さいって言ったとき、さっきやってたよって言われたんです。ヒソカさんに絡まれたとき……クラゲやプランクトンになりたいって思ったときに、無意識に精孔が閉じて、気配を消していたって!だから、今回も同じようにしました。私はクラゲ。そこにいても見えないクラゲになりたい。獲物の上にふわっと舞い降りるだけで、触手を絡ませ捕まえるクラゲになりたいって、精一杯イメージしたんです」
「……」
「そしたら、結果として、待ち伏せ作戦も上手くいって、よかったなーって……あれ。ヒソカさん?」
「………クククククク!!!クックックックックックッ!!!☆☆☆☆☆」
ひいっ!
「で……っ、でもでもでも!!よく考えたらやったこと全部行き当たりばったりですし、実証も検証もなく偶然に頼りすぎっていうかたまたま上手くいっただけですのでどうかお気になさらず……っ!!」
ピシッ……っと、くるかと思った指の先には、一枚のカードが挟まっていた。
空白のジョーカー。
「偶然じゃないヨ☆キミは、いうなればワイルドカードだ。誰にも予測できない方法で、誰にも予測できない力をいきなり発揮するタイプ」
ああ……やっぱりキミの成長が楽しみだなあ、と一際楽しそうに笑って。
なんとヒソカはあの名台詞を、私に向かって言ってくれたのだった……!
「キミは合格。いいハンターになりなよ☆」